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第39話 とあるライターの記録

 ――はい。というわけでね。わたくし今ライブハウス、toxicに来ております


 ――本日はあの大人気バンド、sug@r spΩtのライブについてインタビューをしていきたいと思います


 ――まずはあちらの若い女学生達に訪ねてみましょう


 ――すみません、少しいいですか?


「はいはい。え?何?インタビュー?カメラ回ってんの!?」

「カメラないじゃん。雑誌とかに載るんじゃない?」


 ――はいはい、カメラは回っておりませんよ。雑誌……には載りませんが、音楽サイトの記事に載ると思っていただければ


「なんかわかんないけど、いいよー」

「顔とかは載せないでね」


 ――もちろん、匿名ですとも。


 ――それではまず一つ、今しがた行われたsug@r spΩtの演奏、いかがでしたか?


「いやなんかもう……」

「すごかったです……いろんな意味で……」


 ――ほうほう、どのようにすごかったのですか?


「なんかー、新メンバー紹介しまーすってなってー」

「男の子のボーカルが入ってました」


 ――なんと、あの大人気ガールズバンドに”男”が加入したと。


「そうそう。しかもなんかギャーってやってたのギャーって」

「シャウト……?デスボイス……?みたいのやってて」


 ――デスボイスですか。それは今までのsug@r spΩtにはなかったかと思われますが。


「そうそう!そうなの!だからなんかわけわかんなくなっちゃってもうパニックって感じ!」

「レン様は剥き出しの裸見せるって言ってたけど、あれが剥き出しって奴なのかな」


 ――なるほどなるほど。あなた方はそれを見てどう思いましたか?


「どうって……ねえ……?」

「…………」


 ――受け入れられなかった、と?


「まあ、完全に受け入れたわけじゃないけどさあ――」

「なんか、すごかったです」

「そうそう!それある!!」

「うまく言葉にできないんですが、心に残るものはありましたね。圧倒されたっていうか、熱を帯びたっていうか」

「そうそう!みこはすめっちゃ表現力あんじゃん!ポエム書きなよポエム!」

「みこはす言うな!……とにかく、私は応援します。サクもマコちゃんもユキもレン様も……あとマサキも」

「んー、あたしは前の方がいいかなー。なんか今回のシュガスポ重たくてさー」

「でもあんなサクの表情、見たことなくない? なんか、いつもより色っぽいっていうかさ」

「あー……ね」


 ――なるほどなるほど。賛否両論と。


 ――かしこまりました。貴重なご時間をありがとうございました。


 ――それでは次の方行ってみましょう。


 ――そこのお方、ガタイがよく、バンダナを纏っている男性のあなた。


「私ですかな?」


 ――そう。あなたです。ご年齢を聞いてもよろしいでしょうか?


「では、三十代とだけ」


 ――これはこれはご丁寧に。先ほどsug@r spΩtのライブに参加されていましたが、如何でしたか?


「いかがも何も。いつもと変わりませんでしたよ」


 ――ほう? いつもと変わらない? それはおかしいですね。先ほどお尋ねした女学生の方々と意見が食い違っております。


 ――まず、新しいメンバーが追加されたとか。


「それが何か?」


 ――おお、ご理解なされているようで。それではいつもとは違うではありませんか。


「……ハァ」


 ――おや、ため息。如何なされましたかな?


「あなたは何もわかっていない」


 ――と、申されますと?


「メンバーの加入、脱退、珍しいことじゃあない。そんなことでいちいち騒ぐ必要などありません。大事なのは本気で音楽をやっているかどうかです。その点、彼女たちの音楽は素晴らしい。流行りに乗っからず、自らの音楽性を貫く信念は今もなお健在――いや、もう彼ら、でしたね」


 ――そう。そこです。そこが最も重要なところだ。


 ――sug@r spΩtは今をときめく新進気鋭のガールズバンド。そのルックスから多くのファンを魅了するビジュアル性の強いバンドだ。


 ――であれば男性ファンも彼女たちに神聖なる純潔さを求めるはず。となると男性メンバーの加入は明らかに悪手なのではないか。一男性ファンとしてどう思っておりますか?


「……………………」


 ――おっと、固まってしまいました。やはり思うところはあるのでしょうか。


「ん~~~~~~~~」


 ――男性は頭をポリポリと掻き始めた。


「やはりあなたは『sug@r spΩt』というバンドをワカっていない」


 ――と、申しますと?


「彼女たちは確かに人気だ。音楽性だけではなく、その優れたビジュアルも」


 ――ふむふむ。


「ですが、やはり彼女たちの本質は音楽にあるのです。人気やオーディエンスのご機嫌取りをしたいのであれば、流行りのジャンルに手を出しているはずだ」


「しかし彼女たちが選んだのは2000年代前期のスクリーモ、とても日本で流行るようなジャンルではありますまい」


 ――ではなぜこれほどの人気を?


「ここまで人気を博したのは、彼女たちの実力の高さ故としか。2000年代前期は比較的聴きやすいとはいえスクリーモはスクリーモ。やはり聴く人を選ぶ」


「だが彼女たちはスクリーモの良さを潰さず、尚且つキャッチーさを絶妙なバランスで融け込ませた楽曲を作っている。そこには新規の初心者にも聴きやすい配慮が行き届いている」


「その領域はただ人気欲しさの小手先だけの小細工では到達不可能。真の意味でスクリーモへの理解を追求した者にだけ与えられる絶対の領域」


「その探求心こそが彼女らの本質なのですよ」


 ――な、なるほど。よくわかりました。これにて失礼。


「そして新たなるメンバーを加え、彼ら彼女らは新たなるフェーズへと辿り着いた……これは不可侵の領域をさらに広げることで絶対的な――」


 ――新しいフェーズに行ってるんなら変わってるだろうが……


 ――おや、失礼。やはり人気のバンドには個性的なファンがつきものですな。


 ――それでは次回の記事でお会いしましょう。Good Night

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