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第35話 太陽と月

*****


 さくらが須賀雅貴を招待しました。


 須賀雅貴 『お騒がせしました』


 須賀雅貴 『戻ってきましたm(__)m』


 れんれん☆ 『(# ゜Д゜)』


 まこ 『遅いですよ』


 さくら 『みんな心配かけてごめん。もう大丈夫だから』


 まこ 『信じてましたよせんぱーい♡』


 須賀雅貴 『すみませんでした』


 れんれん☆ 『次変なこと言い出したらお尻だけじゃすまないからね』


 *****




「ふぅ…よかった。みんな許してくれたみたいで」

「恋めっちゃ怒ってるんだけど……」


 お尻だけじゃすまないってどういう意味だろう……玉でも潰されるんだろうか。


「滅多に怒らないんだけどね。怒らせたら恋が一番怖いから」

「肝に銘じておくよ」


 日が沈み、辺りは暗くなっていた。

 パジャマにパーカーという出で立ちの橘さんを一人で返すわけにはいかないので、二人で橘さんちに向かっていた。

 自転車があっちにあるからいずれにしろ戻らなきゃいけないんだけどね。


「そういえば須賀君、その怪我どうしたの?」

「え? ああ、そういえば俺殴られたんだっけ」


 放課後にぶん殴られたことなんてすっかり忘れていた。何の気なしに口に出してしまったが、それを聞いた橘さんは血相を変えて焦りだした。


「な、殴られた!? 誰に?」

「いや、その――」

「ま、まさか恋!? あの子そこまで……」

「いや、違う。恋じゃない。恋はそんなことしない」


 お尻はぶたれたんだけどね。


「じゃあ誰?」

「えっと……」

「まさか、私のせい、とか?」


 誤魔化そうといろいろ考えたけど、うまい言い訳が思いつかず、橘さんに察されてしまった。

 これは……誤魔化しきれないな。


「……橘さんの連絡先教えろって知らない先輩がね……」

「……やっぱり私の所為で――」

「それは絶対に否定したい。言う事きかないからって不当な暴力を振るうあいつらが全部悪いに決まってる。そこまで橘さんの所為にしちゃったらもうキリがないじゃないか」

「でも――」

「こればっかりは譲れないね。それにぶん殴られてでも連絡先を教えないって選択をしたのは俺なんだから」


 確かに殴られて痛かったし嫌な思いをしたのは事実だ。

 でもそれがなかったら、真琴と保健室で話をすることもなかったから、ある意味必要なことかもしれない。


 それに――


「橘さんはピンと来ないかもしれないけど。男ってさ、半分意地で生きてるところあるんだよ。意地を貫き通すことってすげえ大事なわけ。だからさ、俺は今日殴られてでも橘さんを守るって意地を最後まで貫徹させたこと、すっげぇ誇りに思ってる。それは俺を強くさせるし成長もさせる。だからある意味今回の件はよかったと思ってるんだ。真琴にも褒められたしな。超自己肯定感上がる感じ」


 そう言うと橘さんは「そっか……」と優しく微笑んだ。


「かっこいいよ。須賀君」

「ありがとう。それ、真琴にも言われた」


 橘さんはムッとして


「今真琴の名前出す?」


 なんか急に不機嫌になった。


「え? 怒ってる? 橘さん」

「別に。なんもないですよーだ」


 そう言って、橘さんはパタパタと走って先に行ってしまう。


「ちょっ、怒ってるよね!? 俺なんかした? 橘さん!」


 俺もそれを追うのだった。また走るのか。








 橘さんの家に辿り着き、俺は自転車のハンドルに手を置く。


「明日はちゃんと学校行くから」

「ああ、待ってるよ」


 自転車に跨って振り返る。


「それじゃあ、橘さん」

「うん。またね須賀君」


 手を振る橘さんを尻目に俺はペダルを漕ぎ出した。車輪は回り徐々に加速して――


「須賀君!」


 が、急に呼び止められて咄嗟に急ブレーキをかける。慣性の法則で前につんのめる。

 地味に死ぬかと思った。


「私ね、ダメな女なんだ」


 橘さんは数メートル離れている俺に届くように言う。


「自分さえ楽しければそれでいい。それが私の本質なんだと思う。だから須賀君にしつこくつきまとっちゃったし、今回の件でみんなとの連絡を断っちゃったりした。きっと自分さえ良ければそれでいいんだよ。自分勝手で自己中心的で自分のことしか考えてない。人のこと振り回してばっか。それが私」


 自分勝手で自分のことしか考えていない、か。

 まるで俺のことを言ってるみたいだ。

 皮肉なことに、橘さんと俺は自分に対する評価が似ている。


「そんな私でも、ずっと一緒にいてくれますか?」


 俺は橘さんをそんな風に見えたことがなかった。

 強引に人を振り回すところも自分中心なところも、みんなを引っ張っていくリーダーシップのように感じた。

 だから否定しようか迷った。そんなことないよ、橘さんは立派な人だよって。

 でもそうだな。ここはあえて――


「君が楽しいのが一番いい。君が楽しいと俺も楽しい」


 あえて、彼女がダメと言う部分を肯定する。


「これからも、楽しい君の隣にいさせてくれ。めいっぱい振り回して遠くに飛ばしてくれたら、きっと楽しいよ」


 俺たちは人間だ。完璧な人間なんていない。ダメなところなんていくらでもある。

 だからこそいいところも悪いところも、受け入れてあげられるのが理想なんだ。

 橘さんがソレを短所と言うのなら、短所を短所と認めて俺が受け止めてやる。

 そうするのが一番だと思った。そうしてあげたいと俺が思った。


「次のライブ、楽しみにしていて」


 遠くから橘さんが大きな声でそう叫ぶ。


「どこまでも飛んでいけるから!」

 

 太陽のように満面の笑顔で橘さんは笑った。

 そうそう、彼女はそういう顔が一番素敵なんだ。


 俺は「ああ!」とだけ力強く行って再び漕ぎ出した。


 今夜は月がとても大きく見える。

 真っ白な満月は暗い夜道を照らしてくれる。

 だが、月は自分で光っているわけではない。

 太陽の光を反射して輝いて見えるのだ。つまり太陽がなければ月は輝けない。

 

 俺にとって橘さんは太陽だ。彼女がいなければ俺は輝けない。


「月にでもなんでもなってやるよ」


 あの月に追いつきたいと願った俺は、空をかける様にペダルを踏みしめた。 

 狂気を帯びる様に輝く月は、俺に光を差し続けた。














 そうそう、これは余談でしかないのだが、


 俺をぶん殴ったあの先輩方の末路なんだけど。

 真琴と塚見さんが暴行シーンを撮影、それを教師陣に報告されたらしい。

 その動画に先輩方の顔は映っていなかったので最初は彼らも否定していたのだが、俺がスマホで録音しておいた音声と、彼らの制服に付着した俺の血液によって証拠十分と判断され、停学となった。


 さらに先輩方はたばこや酒類を校内に持ち込んでいたことが発覚したのも相まって、彼らが所属していたそれぞれの部活は連帯責任により今年のインターハイを出場停止。

 周りから針の筵となった先輩方は程なくして学校を退学したそうだ。


 まあ、月並みな言葉だがざまあないとしか言いようがない。

 悪意を持って他人を害そうとするのなら、それ相応のしっぺ返しを食らうということだ。 


 そういえば、池谷を肘鉄で撃墜したこともあったが、あれはまあ、あっちが悪いってことでノーカンにしてほしい。

 あれからあいつは俺を怯えた目で見るようになった。今まで反撃しなかった分、あの手痛いしっぺ返しは相当堪えたのだと思う。しばらくは大人しくしているだろう。


 これも後から知ったのだが、池谷の奴、割と普通に陰ではうざがられていたらしい。まあ、あのにやけ面とニチャアとした喋り方は見ていて気持ちのいいものじゃないからな。

 

 それも含めてざまあないね。

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