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第11話 第一印象なんてアテにならない

「はーっ、なんか疲れるなー」


 光パシパシ音ギュワギュワ。

 普段こういう場所に行かない俺にとって、ゲーセンの音と光はなんか疲れる。


 カラオケとはまた違うんだよな。なんかこう、身体にあんま良くない感じ。

 多分パチンコ店もあんな感じ。ニュースで見たけどなんか喧しかった。

 そりゃそうか、甲高い音と点滅する光って悪の組織の洗脳みたいだし。

 実際、光の点滅で具合が悪くなる人もいるんだ。

 『テレビを見る時は部屋を明るくして離れてみてね』ってテロップはそうならないように作られたものだとどっかのまとめサイトで見た記憶がある。


 というわけで、気疲れした俺はスポーツドリンク片手にベンチで休んでいた。


「あ、いたいた。おーい」


 軽快かつ、よく通る明るい声。目を向けて見ると恋が手を振りながらこちらに近づいてきた。


「元気ないね。音にやられちゃった?」

「吐きそうだよ」

「うっそまじ? やばくない? 大丈夫?」


 目をまん丸くして驚く恋。ノリは軽いが心配してくれているようだ。


「嘘。ちょっと疲れただけだよ」

「なーんだ。まさっきー人わるーい」


 肩を軽く小突かれる。全然痛くない。ちょっと嬉しい。


「橘さんは?」

「今ギタマニやってる。あたしの得点超えてやるんだーって」


 ギタマニ、ギターマニアだっけか。音ゲーと無縁な俺でも聞いたことはある。 

 ギターを模したコントローラーを弾くように操作するゲームのはずだ。

 老舗のゲーム機だよね。なんか昔からあるイメージ。


 ん? でも橘さんが恋のスコアを超えようとしてるってことは、恋の方がうまいってこと?

 橘さんギターなのに?


「橘さん、ギタボなのに負けたんすか」

「負けたんすよー」


 ドラマーにドラムのゲームで負けるのはわかるけど、ギタリストなのにギターのゲームで負けたのはなんか悲しいね。


「まあ、あたしギターも弾けるんだけどね」

「あれっ」

「ガチで弾くとあたしの方がうまいし」

「ええっ」

「ちなみにベースとキーボードも弾けるし」


 マジかこの人、オールラウンダーかよ。チートじゃん。


「でもまあ。歌は絶対敵わないかなー」 


 恋は俺の隣に腰を掛ける。腰と腰がぴったりとくっつく。

 あれ? なんか近くない? こんなに距離詰めることある? なんかいいにおいするんだけど。


「ってことは、橘さんはリズムギターかな? リードの人が別にいる感じじゃないか?」


 バンドのギターには二種類ある。細かく刻んでリズムを取るリズムギターとソロで早弾きしてかっこよく決めるリードギターだ。

 基本的にリズムギターよりリードギターの方が難しい。だからギターボーカルはリズムギターを担当することが多いのだ。


「そそ。リードの子はねえ、あたしよりうまいの。だからもう最ッ高なのね」


 恋が認めるってことは相当な実力者なのだろう。


「ほら、あたしらって結構ぐいぐい行くタイプじゃん? でもギターの子は結構控えめな子だから、仲良くしてあげてね」


 ピースサインを顔の横に掲げながら、恋はパチッとウィンクを決める。


 俺もコミュ強な方じゃ全然ないんだけどなあ。


「なんか、緊張してきた」


 俺がそう漏らすと、恋は「あはははっ」と背中をバシバシ叩いてきた。


「いや、だってさ。こう考えると、俺って迷惑じゃないかなって思うんだよ。今まで女の子だらけでやってたところに急に男が入るわけじゃん。嫌って子もいてもおかしくないだろ」

「んー、まあ、確かに?」


 恋はポケットから新しく飴を出して咥える。


「でもさ、それって芯食って無くない?」

「芯?」

「そう。なんてかさ、男だの女だの若者だの老人だの日本人だの外人だので括って狭めてさ、音楽ってそういうのじゃないじゃん? だって国境超えるんだよ? 『うぃあーざわーど』とか聴いた? もうすっごいんだよ? 世界中の有名ボーカルが集まって世界平和を歌ったの。そこには人種とか性別とか言語とかも関係ない。ただただみんなと音を楽しみたいってだけで集まったの。それってすごいことだと思わない?」


 We are the word、そっち系ばっか聴いてる俺ですら知ってる。

 マイクーとかサマースティーンが参加してるめちゃめちゃ豪華な奴だ。


「だからさ、そんな気にしなくていいよ。私達だって女子同士で組みたいから組んだわけじゃないし。ただただうまい子で集まって、たまたまみんな女の子ってだけだからさ」


 それに、と恋は付け加える。


「さっく、いま超楽しそうだからさ」


 優しい目をしながら遠くを見る恋。なんだか感慨深そうな表情をしていた。


「さっくはもっと遠くに飛べると思う。きっとまさっきーはさ、あたしらに見せてくれるんだと思う。あたしらが見たことない、さっくの顔を」

「恋が見たことない橘さんの顔?」


 なんだろう、それって。


「だからさ、期待してっから。頼むね」


 見守ってっからさ、と恋は俺の肩に拳をぶつける。

 なんかよくわかんないけど、期待されてるのだけはわかる。

 期待と慈愛が込められた恋の笑顔はとても眩しかった。


「いや、ほんと、頼むね」


 ズン、と肩の圧力が加わる。あ、恋の目に光がない。さっきまであんなに眩しかったのに。

 そうだ、恋はめちゃめちゃ音楽に厳しい人だった。

 生半可な叫びをしたら”やられる”……っ!。


「は、はぃ……」


 程なくして橘さんが戻ってくる。


 小さくなっている俺とだひゃひゃひゃと笑っている恋を交互に見て首をかしげていた。




 




「ここよ! ここ!」 

「ここって……」

 

 橘さんが指差す先には、なんの変哲もない楽器屋さんがあった。

 holicと書かれた看板が見える。

 

「楽器屋さん?」

「の地下にスタジオがあるの」


 なるほど。楽器屋とスタジオが併設されているのか。

 橘さんを先頭に、俺達は地下へと続く階段を降りる。

 煌びやかな1Fとは裏腹に、地下はなんだか湿っぽいというか暗い雰囲気をかもし出していた。


 橘さんが扉を開ける。その先にあったのはカウンターだ。お店の人が座っている。


「こんばんは、店長」

「お、来たわねさくらちゃん。二人とももう来てるわよ」

 

 オネエ風の店員さんが指差す先には二人の女の子が立っていた。

 背負っている楽器はそれぞれギターとベース。


「須賀君、紹介するわ」


 橘さんが彼女達の隣に立つ。


「ベースの吉川真琴きっかわまこと、ギターの塚見幸つかみゆき、二人ともうちの高校の一年生よ! これで全員集合ね!」


 並び立つは背の低い亜麻色ポニーテールの少女と少し背の高い青みがかったロングヘアーの少女だった。


 ポニテの子はどこかの人気アイドルユニットかのような可愛らしい外見をしている。

 ロングの子は美人系。儚げで寂し気な印象を持つ底知れない美しさを持っていた。

 

 予想はしていたけど、メンバー全員系統は違えど顔がよすぎる。

 もうビジュアルだけで売っていけるレベルだろ。マジでここに入るの?俺。

 めっちゃ気ぃ引けるんだけど。


 ともあれ尻込みしていても仕方がないのが現実。 

 ……よし、まずは挨拶だ。挨拶はすべてに優先する。

 人間関係において、第一印象が与える影響は計り知れない。

 ただでさえ俺はアウェーな黒一点。色眼鏡で見られるのはわかりきっているのだ。


 だからこそ、ここは印象良くバシッと決めるべき!


「須賀雅貴です。よろしくお――」

「せ~~~~んぱ~~~~い❤❤❤」


 そう、人間関係において大事なのは第一――


「会いたかったです~先輩~❤」

「はいはい、三日ぶりね真琴。それより紹介したい人が――」

「二日と21時間ぶりですよ~❤せんぱ~~い❤」


 第一――


「わかった!わかったかから離れましょう。ね? みんな見てるから! 迷惑になるから!」

「わかりました! それじゃあ人目に付かないところに行きましょう! そこだったらいくらいちゃいちゃしても誰にも迷惑かからないですよね!」

「だーもう!」


 ……第一印象どころか、ハナから眼中にないと来たもんだ。

 やっぱあれだわ。第一印象なんて当てにならないわ。

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