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第10話 恋さんにはお見通し

「っていうかさ、結局どこ行くのか聞いてないんだけど」


 歩道橋の上を二列並んで進む。もちろん、俺があぶれて後ろに付いていく形になる。

 なんだかえらく懐かしいなあ。中学の頃、4人組の生徒が帰宅しているのを後ろから眺めていた記憶がある。

 道の広さ的に二列に別れて進めばいいものを、三列で進んでいた。

 当然、あぶれた一人が後ろから寂しくついてくることになる。もうなんかね、その子のグループ内での扱いが手に取るようにわかって悲しくなったのよね。

 

 ま、そのポジションにすらなれない俺みたいな奴もいるんだけどね。

 悲しくないんだからね? いやほんとに。


「ああそうそう、まだ伝えてなかったわね」


 橘さんはくるりとターンして、人差し指を俺にビシッと向けた。


「ライブハウスよ! ライブハウスに行くの!」

「ラ、ライブハウスぅ!?」


 いや、ラ、ライブハウスぅ!? じゃねえんだよ俺。バンドやるんだからライブハウスに行くのは当たり前じゃないか。


「ラ、ライブハウスぅ!? じゃないでしょう! 私達バンドマンなんだから!」


 いやあ、ごもっとも。


「てか、行先も伝えずにまさっち振り回してたの? やばくない?」


 それはそう。橘さんって話もせずに問答無用で人を連れまわす癖あるよね。

 横暴だね?


「大丈夫。私と須賀君の仲だから」

「長い付き合いなの?」

「いえ? 一昨日からの付き合いよ」

「またまたー」


 冗談でしょー?、と言いたいげな仕草で恋はこっちに振り向いた。


「いや……まぁ……うん……そうね……」

「まじかー」


 目を逸らして引きつった顔で笑う俺を見た恋。声のトーンは変わらないが、引いたような目をしていた。


 いいんだけどね? 俺どうせ年がら年中暇だし。


「ま、まずはメンバーに須賀君を紹介しなきゃでしょう? 機材にも触れてほしくて……」

「わかったわかった」


 それよりさー、と恋は切り出す。

「予約してんの6時だよね? まだ一時間くらいあるし寄ってこーよ」


 そう言って恋は近場のゲーセンを指差した。


「そんなことしてる暇あったら須賀君に諸々の説明を――」

「あれ? もしかして負けるの怖くなっちゃった? そうだよねー。さっくあたしに音ゲーで一回も勝ったことないもんねー。ごめんねー、あたしだけ楽しい思いするような誘いしちゃってー」


 うぷぷー、と恋は橘さんを小馬鹿にして笑う。

 いやいや、今時そんな見え見えの挑発に乗る人なんて――


「上っ等じゃない! 今度こそぎゃふんと言わせてやるわ!!」


 腕まくりしながらのっしのっしとゲーセンに入っていく橘さんを俺はポカーンと見ていた。


「ね?」


 ちょろいでしょ?、と言ってるようなウィンクを向けられた。

 た、橘さんって結構単純なんだなぁ……


「さ、まさっきーも行くよ」

「ちょあっ――」


 そう言って恋は俺の手を取って走り出す。

 橘さんといい恋といい、気軽に異性の手を取り過ぎじゃない?  

 こういうもんなの? 高校生って。

 彼女どころか女友達もいなかった俺にはわからん。

 

 足がもつれてつんのめりながらも、橘さんを追うのであった。










「うおりゃあああああああああああああああああ!!」

「だだだだー!」


 橘さんと恋は二本のバチで和太鼓状の機械を勢いよくぶっ叩く。

 スコアを見ると僅差……いや、結構差があるな。恋がリードしている。

 そりゃそうよ。現役ドラマーなんだから連打力で恋に勝てるはずもなく。

 ギターボーカルなんだからギターのゲームとかで勝負すればいいじゃん。あとはカラオケとかさ。

 多分めちゃくちゃ負けず嫌いなんだろうなー橘さん。相手の土俵で戦って勝ちたいんだ。

 なんていうか、らしいなあ。


「もう一回!」

「あはは、何回やっても同じだって♪」


 しばらく時間がかかりそうだ。飲み物でも買いながらぶらぶらしてよっかな。




<恋Side>




「もっかい!」


 さっくが100円玉をピーンと指で弾く。パシッとダイナミックにキャッチしながらタイタツに投入した。


「あはは、何回やっても同じだって」

 

 ほんとに負けず嫌いだなー。

 まさっきー待たせのも可哀想だし……あ、そうだ。まさっきーとも一緒にやろう。


「あれ」 


 そう思って振り返ったら、まさっきーの小さい後ろ姿が見えた。

 いや、別にまさっきーの身長がちいちゃいわけじゃないんだけど。

 どっかに行っちゃった。トイレかな?


「む」


 さっくがふとスマホを取り出して画面を見る。


「須賀君どっかぶらぶらしてるって」

「ほらー、さっくがしつこいからまさっきー退屈しちゃってんじゃんよー」

「焚き付けたのそっちでしょ!」

「はいはーい。まっさきーかーわいそ」

「で、でもほら! ゆっくり楽しんできていいよって! 終わったら電話してって!」


 さっくのスマホには確かにそう書かれていた。

 へー、優しいじゃんまさっきー。

 さっきも思ったけど、さっく随分とまさっきーを気に入ってるように見えんだよねー。


 ここはさ……


「いーよ。やろっか」

「やたっ☆」


 無邪気に喜ぶさっく。こういうとこかわいんだよね。

 一人でいるときは真顔でツンとして隙がない癖して、あたしらにはいろんな表情を見せる。さっくあたしらのこと大好きだもんね。

 そんな顔をまさっきーの前でも見せてる。いや、それだけじゃない。

  

 ここはちょっと探り入れてみよっかな。


「ねぇさっく」

「何よ。今集中してんだから!」


 前のめりになりながら必死でバチを振るう。

 必死になってあたしについてこうとする姿はちょいかわいい。


「なんかさー、あたしさっくは恋愛とかに興味ないかと思ってたんよー」

「ちょっ!? なんの話?」

「とぼけちゃってー」


 バチをくるくると回してあたしは言う。


「まさっきーのことだよ」

「はあ!?」


 すぽーんとさっくの手からバチが抜ける。後ろでシューティングゲームをやってた男の人の頭にスコーンと当たる。


「ああ! すみません!」


 慌てて謝りながらバチを取りに行くさっく。男の人はさほど怒ってる様子もなく、笑顔でバチを返してくれた。


「ちょっと恋! あなたが変なこと言うから飛んでっちゃったじゃない!」

「たははー、ごめーんごめーん。そうなるとは思わなかったわー」


 さっくは気を取り直してゲームを再開する。既に点差は取り返しのつかないほどに開いており、逆転の目は万に一つもなかった。

 それなのにさっくは得物を振るう。例え勝ち目のないゲームでも全力でベストを尽くす。それがさっくなんだ。


「で、何? 私と須賀君と恋愛に何が関係あるってのよ。言っとくけど私達にそう言うのないから」

「そうは思えないんだよねー」


 私は軽口を叩きながら太鼓を叩く。


「さっくはさー。今までいろーんな男子に告られたり言い寄られたりしたわけじゃん? なんか刺さるもんあった?」

「また意図のわからない質問を……そんなのあるわけないでしょ。つまんないおべっかばっかだったわ」


 画面に集中しながらも答えてくれる。


「そ。どんなに口説かれても淡々と対応して終わりっ。それがさっくでしょ」


 曲がサビに入る。


「でもまさっきーがさっくを褒めた時、真っ赤になりながら動揺してたっしょ」


 ドンッ、と一発強めの打撃が入る。さっくが思わず力を込めて撃ちだしたものだ。


「それってやっぱ特別なモノなんじゃないの~?」

「それはっ、ちがっ」


 彼女側の画面に映し出されている音符がどんどん流されていく。


「須賀君はその、愛とか恋とかそんなありきたりなモノじゃなくて、私がずっと欲しくてようやく見つけた人で、須賀君にとってもきっと私は運命を変えた人で……そう! あれよ!」


 もうさっくはゲームなんて上の空だ。


「運命! 私達は出会うべくして出会った運命の人なのよ! こんなにも音楽の趣味が合って互いの全てをさらけ出せる関係なんてそうそう出会わない! だから愛の恋だの俗っぽい関係で終わるものなんかじゃないわ!」


 言わば、運命共同体ね! とさっくは自信満々に言う。


 ゲームセット。結果はあたしのボロ勝ちだ。


「仕切り直しよもう一回!」


 そう言ってさっくはもうワンコイン投入した。


「いやあ、ねぇ?」


 趣味が合って全てをさらけ出せる関係って、恋愛市場としてはもの凄く価値があると思うんだけどなぁ。

 ま、今日のところはこれでいっか。

 意気揚々と仕掛けてくるチャレンジャーをあたしは軽く捻ってあげるのだった。

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