ずうっと一緒だよ
あんなに愛し合っていたのに、どうして?
彼がボートの縁から私を投げ捨てた。重しをつけられた体が水底へ沈んでいく。
――俺、ほかに好きな人ができたんだ。
その一言がきっかけだった。信じられなかった。彼が私以外の誰かに目を向けるなんて。
私たちはケンカになった。彼に突き飛ばされた私は階段を転げ落ちていく。
そして、死んだ。
彼が死体を始末する場所に選んだのは、皮肉なことに私たちが初めてデートした湖だった。
あの時は私も彼もボートに乗っていたのに、今じゃ彼は船の上で私は水中。なんだか変な感じ。
彼がオールを漕ぐ音が遠ざかる。待って。行かないで。私はまだあなたと居たいのに。
そんな私の想いが水に溶け出していく。ゆっくり、じっくり。時間をかけて。
そのうちに私は天に昇った。だけど、向かった先は天国じゃない。彼を残してそんなところへは行けないもの。私はただ、雲になっただけだ。
ああ、地上に彼の姿が見える。
待っててね。今会いに行くから。
「急に降り出したね」
彼はそう言って、隣の女に笑いかけた。
これが新しい彼女? 大して美人でもないんだね。ちょっと拍子抜け。
まあ、相手が誰であろうと、もう嫉妬なんてするつもりはなかったけれど。だって、そんなのバカげているから。
しっとりとした霧雨になった私は、全身で彼を包み込む。彼が呼吸をする度に、私は彼の中に入っていく。
そうして私は、彼の中に元々あった水と混じり合って一つになった。
人間の体って、六十パーセントが水分でできてるんだって。
つまり、彼のほとんどは私で構成されてるってこと。
もう離れない。
これからはずうっと一緒だよ。