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「桜彼女」  作者: でふ
最終羽
7/7

桜彼女

 季節は巡り、満開の桜の咲く三月二十一日、三年生の卒業式が迫ってきていた。

 この街では卒業式は北部北高校、中部中心高校、南部中央学園の3校同時に開催される。僕は早朝から身支度をして鏡の前で学ランの詰襟を正した。卒業式が開催される場所は舞鶴城。中部中央駅から電車で一時間弱で着く場所にあるその城の敷地内だった。

 僕たち北高在校生はまず舞鶴駅に向かい、その近くにある舞鶴生花卸売市場で縦一たち中高生徒会メンバーが発注した生花を受け取りに来たのだ。

「改めて見ると、なかなか数が多いな」

 机に並べてある大量の生花を見て短澤がそう言った。

「北高で四十人、中高で数百人、南中学園も数百人規模だからな」

 中谷がそう言って隣に立つ長代にこれって何の花?と聞く。

「目の前の真っ白の花束がハナミズキっすね。「想いを受け取ってください」と言う花言葉で有名で、歌詞にも使われるケースが多いっす。その隣がマリーゴールド。「変わらぬ愛」「健康」「勇者」「生命の輝き」と言った力強い花言葉があるっす。そして最後の花束がスズラン。「再び幸せが訪れる」「幸福の再来」と言った花言葉があり、新たなスタートを切った人へ向けてのエールや、困難を乗り越えて欲しいという想いを込めて贈るのが多いっす」

「南部中央学園がハナミズキ、中部中心高校がマリーゴールド、北部北高校がスズランだ。渡すときに間違えるなよ」

 縦一がそう言って横から割ってきた。

「…花音ちゃんのために一番綺麗な花をチョイスしておこう」

 中谷はそう言って花束の中からハナミズキを選ぼうとする。

「それずるくね」

「どう考えても抜け駆けは良くないっす」

 男たちは口々に捲し立てる。

「まあまあ、今は会場に届けるのが先決だろう」

 縦一に諭された僕たちは花束を中高生徒会メンバーが用意した袋に入れていく。僕は誰にも見つからないように一輪のハナミズキをそっと選んで胸の内ポケットに差した。


 会場に着いた僕らは満開の桜に囲まれた舞鶴城を見上げる。

 快晴の青空の下、入り口の城門には「祝卒業式」と書かれた立て看板が設置されており、ちょうど南中学園と中高の女子在校生たちが入っていくところであった。縦一がその中の一人に駆け寄っていくのを見る。そして何やら話し、相手の荷物を持って中に入って行った。後ろ姿からでもわかる。その女子高生は檸檬さんだった。

「やってんね〜、青春」

 そう言った声が漏れ聞こえてくる。早く俺らも行こうぜ。続く男たちも城門に向かった。僕は荷物を背負い直し、ゆっくりと桜散る門の中に足を踏み入れた。頭上の桜の木に止まる一羽のホトトギスから、春の訪れが聞こえてくる。


 敷地の中には卒業証書を授与するステージがあり、その壇上には演台とマイクがあった。ステージに向かって左側に来賓席、右側に教職員席、中央に卒業生が座るパイプ椅子が並ぶ。僕らの席はというと、その遥か後方にある在校生席だ。

 僕は在校生席から見た眺めに圧倒された。ステージを見ると参加する生徒席の数に脱帽し、そのステージの後方には一本の大きな桜の木が立っていたのだ。その桜の木から桜の花びらが風に揺れて宙を舞い、ステージを彩る。そして、その後ろに舞鶴城が鎮座しているのだ。

 入り口からは続々と卒業生の保護者たちが来賓する。来賓者の中にはテレビか雑誌かで見たことあるような大物議員や企業の代表、芸能人や著名人がいた。彼らと教職員が自席に着いた頃には厳かな雰囲気になり、会場全体が静寂に包まれた。

「卒業生、入場です」

 アナウンスが鳴り、入り口から卒業生が学校別に入場する。男子卒業生は袴姿、女子卒業生は着物姿で入場してきたのだ。その彼らが列を成して席まで行進する姿はまるで、嫁入り行列のように見えた。

「県知事、登壇」

 全員が着席した後に再度アナウンスが鳴り、県知事の男性がステージに登壇し、告辞を行う。その告辞は威厳がこもっており、卒業生への激励でもあった。

「在校生、登壇」

 ステージに制服姿の男子在校生が登壇する。彼は演台のマイク位置を調整し、内ポケットから送辞原稿を取り出した。

「卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。今日こうして在校生を代表して皆さんに送辞をお送りできることを大変光栄に思います」

 在校生代表は縦一であった。今年中部中心高校二年生になる彼の右腕に巻かれた腕章には「中部中心高校生徒会長」の文字が踊っていた。彼なりの言葉で紡ぐ送辞には生徒会長を引き継ぐという強い意志のようなものを感じた。そしておそらく、彼から卒業生に贈る感謝の気持ちだったのだろう。

「卒業生、登壇」

 アナウンスが鳴り、着物姿の女子卒業生が登壇した。桃咲カレンさんである。

「在校生の皆さん、温かい送辞の言葉をありがとうございました。そして、本日私たち卒業生のために、このような素晴らしい式を開いていただいた先生方、保護者の皆さま、関係者の皆さまに心より感謝申し上げます」

 カレンさんの声は少し震えて聞こえたが、表情は凛としているようだった。

「…卒業生一同を代表しての答辞とさせていただきます」


 桜舞い散る中、僕ら在校生は卒業生に手渡しで花束を贈る。その花束は前回の生徒会副会長たちとの画策の結果であった。僕ら北高在校生は北高卒業生にスズランを贈った。卒業していく先輩の姿は他校生とは違い、まるで面構えが違うそれであった。


 卒業式後、僕はカリンさんをひとり呼び出す。彼女は白い着物姿であった。僕は書き上げた脚本と一緒に一輪のハナミズキを彼女に渡した。

 風が吹いて、桜の花びらが宙を舞った。

 彼女の微笑む顔がそこにはあった。


〜Fin〜











最後まで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。


本小説、桜彼女について色々ぶっちゃけると、話を途中までしか考えておらず、ええいままよの勢いで連載ボタンを押してしまい、数ヶ月話の続きが思い起こせず、悶々としていました。

何とか着地点が見えたのですが、高校生の僕がいきなり結婚は流石にないな、というか土台無理だわ、という結論に至り、方向性を修正した形になります。

小説のシリーズを考えていた当初から桃咲カリンの学年を何年にすればいいかと言うことにしっかりとした結論が出せず、タイトルを記載したときに「新しい出会いもあれば別れもある季節、それが春。」などと宣言にも近い言葉選びをしてしまったため、どうにかこうにか「片思い感」を上手く作り出せないかとこねくり回した結果、実は三年生で卒業間近でした、が一番着地点としていい気がしてこのような物語構成にしました。

ちなみにいつメンの長代、中谷、短澤たちの恋の行方についてですが、他人の恋路に茶々を入れるのも良くないと思い、割愛させていただきます。

ちなみにちなみに、横田先輩と桃咲カレンの結末も途中まで書こうとしたのですが、HAPPYENDの結末を書いても仕方がないなあ、などと思って筆が進まず、ここはやはりご想像にお任せします。の謳い文句を使わせていただきます。


ぜひ、感想をお待ちしております。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

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