家に帰ったら後輩がなぜかいた
「先輩、こんにちは!」
俺は本屋で漫画を買ってきて、家へと戻ってきた。そして、いつも通り「ただいま」と言って靴を脱ぐと、目の前にここにはいないはずの人物がいた。
赤崎遥。俺と同じ高校に通い、今年委員会で一緒になって知り合った相手だ。委員会の仕事で一緒になることが多く、部活に入っていない俺にとって一番付き合いが深い後輩だ。
だが、別にそこまで親しい仲じゃない。連絡先すら交換していない。
休日に会うわけがない。あまつさえ俺の家で。
混乱渋滞の頭を落ち着かせながら、問う。
「なんでここにいる?」
「先輩に忘れ物を届けにきました」
赤崎はあっけらかんと言い放つ。俺は「ありがと」と反射的に言うが、それを届けに来ただけなのに、なぜ家の中にいるのだろうか。というかそもそも俺の家を教えた覚えがない。
「てか俺の家なんで知ってんだ?」
「美咲先輩に教えてもらいました。美咲先輩優しくて代わりに届けようかとも言ってくれたんですよ」
美咲。日向美咲。俺と中学時代からの仲で別のクラスだが、今は同じ委員会だ。それに赤崎と同じ部活だとも聞いたことがある。日向からの情報で俺の家まで来たようだ。
「そうか、わざわざ悪いな」
「いえいえ、お気になさらず」
なぜ赤崎が俺の家に上がっているのかはよくわからないが、まあそこはいいだろう。どうせ、母さんが勝手にあげたのだろう。母さんは強引で自分勝手というか思い込みが少し激しいところがある。これからの母さんの謎の追及には少し苦労しそうだ。そう思うと内心でため息をついてしまう。
というわけで、忘れ物とやらを受け取ってさっさと帰らせようとすぐに思い立った。変に長引けば面倒だ。
「で、忘れ物って」
「ちょっと待っててください」
赤崎はそう言うと、リビングに向かった。荷物はどうやらリビングに置いてあるようだ。少しして、赤崎は筆箱を持ってきた。見慣れた筆箱だった。
「先輩の筆箱ですよね、これ?」
「ああ、そういやねえなと思ってたわ、サンキュ」
赤崎の手から筆箱を受け取る。そして、赤崎に別れの言葉をそのまま告げる。「じゃあまた今度な」と。
すると、思ってもみない反応が返ってくる。
「帰る前に先輩の部屋見てみたいんですけど」
「はい?」
「先輩の部屋、見てみたいんです。勝手に上がるのは駄目だなと思って、先輩のお母さんはむしろ入ってという感じだったんですけど」
俺は赤崎の意図が分からなかった。なぜ俺の部屋を見たいのか。
「別になんもないぞ」
「構いません、見たいんです」
赤崎の謎の熱意。俺はその熱意に押され、赤崎を部屋に案内する。昨日偶然片付けと掃除をしたので、部屋は比較的きれいだ。
赤崎は興味深々といった様子で俺の部屋を見回していた。俺は普通の部屋だがなぁと思いながら、満足するまで放置させることにした。見られて困るようなものは特にないし。
しばらくして、赤崎は「先輩、ありがとうございます!」と満足げに言い放った。俺は「どういたしまして」と困惑しながら言った。じゃあ赤崎は帰るかなと思うと、赤崎に帰る様子はなかった。
「帰らないのか?」
「先輩はそんなに私に帰って欲しいんですか?」
と赤崎は悲し気に言った。俺は「そういうわけじゃねえけど」と返してしまう。あまり強い態度も取れなかった。
赤崎はそのまま夕方になるまで俺の家にいた。俺と他愛ない話だけをしていた。途中やってきた母さんの目と顔が非常にうざかった。夕飯の時めんどくさそうだと思った。
「じゃあ先輩、そろそろ帰ります」
「おう、送っていこうか」
赤崎に向かって俺がそういうと、赤崎が少し驚いた様子を見せる。
「先輩って結構恥ずかしげもなく、そういう恥ずかしい言葉言いますよね」
「別に普通の発言だろ、今」
と俺が返すと、「先輩の女たらし」とぼそっと不名誉な言葉が聞こえた気がした。俺がそれに突っ込む前に、赤崎は俺に向かって注意するように言う。
「まあいいです。でも今度からあんま言わないほうがいいですよ。勘違いしちゃう子もいるので」
「まあお前がそういうなら、気をつけるよ」
俺は適当に返事する。
「でも、先輩私はいつでもウェルカムですからね」
赤崎はウインクをして言い放った。俺がポカーンとしていると、赤崎が顔を真っ赤にして言い放つ。
「なんか言ってくれないと恥ずかしいじゃないですか!!!」
俺は「わりい」とだけ返す。何を言えばいいのかあの時に。赤崎ははぁと短くため息をつく。正直ため息をつきたいのはこちらなのだがと俺は少し思ってしまう。
「でもさっきの冗談じゃなく本気ですから」
赤崎はぼそっと言い放つ。俺が今のはどういう発言なのかと問う前に、赤崎は逃げるように別れの言葉を言って部屋を出ていく。
部屋に取り残された俺の心はぐちゃぐちゃであった・・・