第9話 ナスと棍棒
街道をちょっと進むと、すぐに魔物と遭遇した。
それが「魔物だ」と分かったのは、地球では絶対に見ない姿だったからだ。
なんだよ、肌色の手足が生えた人間大のナスって。やたら渋いおっさんみたいな顔まで付いてるし。眉毛ふっとい。なぜか矢みたいな細い槍を持っている。どう見ても実用的ではない。
「アキナスワヨメニクワスナァァァ!」
mad動画――既存の動画や音声、画像を寄せ集めて切り貼りし、再編集された二次創作物――みたいな、不揃いな感じのある奇妙な叫び声だった。
教科書の落書きみたいな姿のくせに、そこだけちょっとホラーちっくだ。
そして細い槍を片手で投げるようにして突き刺してきた。
「いやいやいや……」
もちろん、ひょいと避けて木の棒で殴る。
「ナスヤダゴニャァァァ!?」
砕け散りながら悲鳴を上げて吹き飛んでいく。細い槍も折れた。
弱っ!? え? 俺が強いのか? STR上げたけども。
「準備しろ」
馬車の窓から王子が言った。
護衛の騎士たちの一部が動き、俺に何かを投げつける。
変な匂いがした。
直後、遠くから馬の群が走ってくるようなドドド……という音が聞こえてきた。
「アキナスワヨメニクワスナァァァ!」
「アキナスワヨメニクワスナァァァ!」
「アキナスワヨメニクワスナァァァ!」
「ア「ア「ア「ア「アキナスワヨメニクワスナァァァ!」」」」」
うわ!? いっぱい来た!?
魔物寄せの香みたいなアイテムだったのか。騎士たちは馬車の守りに戻り、動く気配がない。俺1人でやれ、という事か。まったくロクな事をしやがらねぇ。
しかしAGIを大きく上げてあるので、相手の動きがまるでスローモーションのようだ。ひょいと避けて叩く。ひょいと避けて叩く。その繰り返し。アクション映画なら様々な撮影技術を駆使して盛り上げるところだが、現実にやってみると単純作業だな。まるで工場のライン工になった気分だ。
「ナスヤダゴニャァァァ!?」
「ナスヤダゴニャァァァ!?」
「ナスヤダゴニャァァァ!?」
「「「「「ナスヤダゴニャァァァ!?」ゴニャァァァ!?」ゴニャァァァ!?」ゴニャァァァ!?」ゴニャァァァ!?」
それにしても、この姿はもうちょっと何とかならなかったのか? 眉毛ふといおっさんの集団(紫色)とか。顔色わるいゴノレゴの集団が迫ってくるみたいで、実際の数以上の圧迫感がある。