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ブラオと奴隷の首輪  作者: うさぎレーサー
第2章「復讐編」
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第29話 宣戦と暴露

 王城――

 国王のもとに、ひとつの報告が届いた。


「アーマーマスターの封印が解けただと!?」


「封印の祠から、突如アーマーマスターが動き出し、監視に置いていた兵士を襲って逃亡したとの事です」


 ちなみにブラオと魔王の姿は誰も見ていない。

 監視の兵士たちは、全員、魔法で幻覚を見せられていた。「誰も居ない」「何も聞こえない」という幻覚を。だからアーマーマスターが動き出すまで、異変に気づく者はいなかった。


「なんという事だ……!」


 どうしようかと考えを巡らせる国王。

 だが、そこへ新たな伝令兵が飛び込んできた。


「も、申し上げます! アーマーマスターが多数の魔物を率いて接近中! すでに王都近くに迫っております!」


「なにぃ!?」


 国王は急いで王城のバルコニーへ。そこから王都の外が見えた。決して小さくはない王都だが、王城のバルコニーからは王都を囲む防壁までが一望できる。そのさらに向こうに地平線が見えるが、その地平線がなにやら蠢いている。魔物の大軍団が迫っているのだ。


「ふはははは! 我は魔王軍四天王アーマーマスター! いや、先代魔王も他の四天王も亡き今、我こそが新たなる魔王アーマーマスターである!」


 その声は風魔法で拡張され、王都全域に響いた。

 王城では国王をはじめとする首脳陣が、慌てて対策を話し合う。


「今いる兵を総動員して防壁の上へ配置せよ」


「騎士団を伝令に出せ。応援の兵力をかき集めるのだ」


「騎士団抜きでアレと戦えと!?」


「雑兵を伝令にしたのでは受け手の反応が遅くなる。真偽を確かめに偵察の兵など数人ばかり寄越されても、なんの役にも立たんぞ」


「しかし応援が来るまでに我々が危ういではないか!」


「持ちこたえる自信もないということか。情けない貴族もいたものだ」


「なんだと!?」


「そもそも状況を考えたらどうかね。速やかに応援が来なければ、危ういのは変わらん」


 紛糾する王城に、新たな声が届く。


「名乗り返す者がおらんとは、つまらぬ町だ。剛の者なくば、戦を楽しむこともできん。とく滅びよ」


 これに慌てた王城側は、まず名乗り返すことにした。時間を稼がなくては、防衛戦力が防壁に集まる暇すらない。

 だが問題は「誰が名乗るか」だ。


「ここは通例に従って陛下に名乗りを上げていただくべきでは」


「馬鹿な。それは人間同士の戦の場合ではないか。奴を人間扱いするというのか」


「そうは言わぬが、あのように言われて言われっぱなしにはできまい」


「いやいや、魔族相手に戦の作法など片腹痛い。そもそも集団の司令官ではなく、戦いを楽しめる『剛の者』とやらを求めておるのだろう? これで陛下に名乗っていただくのでは、陛下に『我々を代表して戦え』と言っているようなものではないか」


「ならば『剛の者』が名乗れば良い。王子殿下は勇者として魔王すら討伐した功績をお持ちだ。しかもその途中でアーマーマスターに勝っている。王子殿下に名乗っていただこう」


 公爵とその派閥の貴族たちは、ついに王権転覆の剣を突きつけた。

 王子は何とか拒否しようとしたが、勇者としての功績を我が物にしているだけに――そして、その事を理由に名乗りを要求されているだけに、「その功績は全部ウソです」と言わない限り、正当に名乗りを拒否する理論が成り立たない。何をどう言い繕っても「でも勇者でしょう?」の一言で論破される。

 とうとう拒否できなくなった王子は、後はどうにでもなれとヤケクソになって名乗る。


「我は勇者にして王子、トーテムォ・ミガッティ! 我が国への狼藉、許すまじ!」


 しかし返ってきたのは、戸惑いの声だった。


「んん~……?」


 その声色は、あきらかに首を傾げている。聞く人すべてが、眉をひそめて首を傾げる鎧の姿(アーマーマスター)を幻視した。鎧に眉も首もないのだが。でも、それほど明らかに戸惑った声だった。


「我を封じていた本物の勇者は死んだと知っているぞ。お前たちが殺した」


「何を言っている!? 我こそが勇者――」


「いやいやいや……! 直接戦った相手だ。その声を聞き間違えるはずもない。明らかに別人の声だしな。……何なのだ、これは? 人間流のジョークなのか? よく分からんセンスだな」


 王城では国王が必死に平静を装っていた。


「デタラメだ。惑わされるな」


 ここで慌てたら、アーマーマスターの言葉を肯定するのと同じだ。すでに大半の貴族が「嘘」に気づいているとしても、貫き通すしかない。貫き通して「今まで通りの真実」に変えてしまうしかない。

 だが、そんな思惑は、次の言葉で吹き飛ばされた。


「我は本物の勇者と戦い、敗れ、その身に装備される形で封じ込められていた。装備解除不可の呪いによって閉じ込められ、身動きもままならず、あまつさえ勇者の身を守る防具にされる屈辱……! だがそんな中、本物の勇者を殺し、我を自由の身にしたのは、この城の者たちではないか。『助かったぞ、愚かな人間ども』」


 そのセリフに覚えのある者は多かった。


「どうやら、本物の勇者があげた功績は、王子が勇者のふりをして掠め取ったらしいな。まあ、そんな事はどうでもよい。人間が誰を祭り上げようと、それも構わん。だが、我に勝った者が誰か――それを偽るというのでは我をナメている。まずは自称勇者の王子を殺し、我が力を知らしめてやろう」

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