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始まり

 僕は、北柳智幸きたばたけともゆき、つい先日中学校を卒業したばかりの中学生と高校生の間の男子だ。


 そんな僕は今、男子禁制の学校である、エストリア歌劇学校の門を叩こうとしていた。


 入学式と書かれた看板が、入り口に立てかけてある。



 いや、先に言っておくけど、違うから。違うよ?犯罪じゃないからね?ちょっと待って、まだ警察は呼ばないで?お願いします、その110を押す手を止めてください。


 事情がね、事情があるんですよ!え?犯罪者は皆んなそう言う?いや、そう言われたらより怪しくなるじゃないですか!やめてよ!



 自分の事を男だと言ったすぐそばから自分の意見を変えるのなんて申し訳ないけど、僕は()()()()()


 うん、そうだよね。話に一貫性がないと犯罪者を疑われるよね。うん、通報はもうちょっと待ってね?


 事情っていうのはね、ちゃんとしてるんですよホント。


 実は………




 僕がある朝起きたら、突然女の子になってたんです!





 待って待って待って待って!!通報しようとしないで!


 ホントなんです!ホントのことなんです!ついちょっと前までは元気な男だったんです!


 話は最後まで聞こう?ね?



 僕が女の子になった日、その事をすぐに母さんに説明した。


 戸籍も今までの生活も何もかもが変わってしまった上に、前例の無いあまりにも異質な出来事だったから、絶望の淵に立たされていた矢先。


 母さんがとんでもない事を言い出した。



『じゃあさ、母さんが理事長やってる学校に入学したらいいじゃん!』


 ホントにこんな軽い調子で言ってた。


 いやね?知ってたよ?母さんが理事長やってて、うちがまあまあ裕福だって事。だから、僕が小さい頃に父さんが出て行っても、ここまでやって来れたって事。



 でもね?同時に知ってたんだよ?



『いや、母さんがやってる学校って、女子校じゃん!』



 僕はその時、こんな感じで心から叫んだ。っていうか、もう助けてって気分で叫んだよ。


 結果、助かりませんでしたとさ。




 ☆☆☆☆☆




 理事長室。



 重厚な焦茶の木のドアを、コンコン、と叩くと、「どうぞ」という返事が返ってきたのでドアを開けた。


 すると中から飛び出してきたのは、犬でも猿でもなく、僕の実の母親だった。



「あら、いらっしゃ〜い!私の可愛いユ・キ・ちゃん!」


 母さんは僕に飛びついた。



「その名前で呼ばないで!」


 離れようとしても全然離れないっていうかなんだよこの力強すぎるだろおい!


「良い名前じゃない?『トモユキ』って名前は、今のアナタには似合わないでしょ?」


「そうだけどさー………実の母親に呼ばれると、なんかくるものがあるっていうか」


「何言ってんのよ。アナタは今日から『北柳友紀きたやなぎゆき』としてこのエストリア歌劇学校の女子生徒の1人になるのよ?」


「うう………それはそうなんだよね………っていうか、いいのホントに入学して?僕なんか、歌もダンスも人前で演じた経験も無いよ?」


「それは、そうねぇ。きっと、貴女にはこれから、苦労をかけることになるかもしれない。もしかしたら、コネ入学だってバレて、非難を浴びるかもしれない」


「なら……」


「でもね?()()


 母さんに智幸と呼ばれて、話の真剣さが伝わった。


「これしか方法が思いつかなかったの。母親というものはね?自分の子供の身に危険が迫った時、最初に動かなきゃいけないものなの。それが使命だから。だから、誰がなんと言おうが、貴女はここの生徒になるのよ?」


「母さん………」


 非難を浴びても母さんの責任だ、と言っているようにも聞こえた。



「………まぁ、我が子がエストリアの舞台で演じるのを観たかったっていうのもあるけどね?」


「母さん!」


 全く、この人はどこまでが本気でどこまでが冗談なんだ……?




 ☆☆☆☆☆




 母さんとの軽い会話を終えて、僕は理事長室を出た。


 式まではまだ少しだけ時間がある。どうせ僕は保護者無しでの入学式になるので、学校を散策してみることにした。


 いくら理事長の子供だからって、女子専用の歌劇学校の中なんて入れるわけがなく、僕が通っていた公立の中学とは比べ物にならないくらい綺麗だった。


 入学式の集合場所は、学校の講堂。


 だから、色々な教室を回っても、誰もいないーーーーはずだった。



「あれ?私以外にも人がいる?」



 後ろから声がして振り向くと、僕と同じ制服を着た女子学生が僕の方を見ていた。



「初めまして。貴女も、今日からエストリアの1年生ですか?」


 気さくに声をかけられた。


「どうも、1年生です。という事は、君も?」


「はい!」


「なら、敬語はいらないね。僕は北柳………友紀、君は?」


真鍋明希まなべあきだよ。よろしくね」


 ふわりと笑う彼女は、僕と同じ歳には見えないくらい大人びて、儚く見えた。


 でも、この、倍率が数十倍を超えるエストリアにあるという事は、めちゃくちゃ歌って踊れるんだろうな、と心の中で感心してしまった。


「北柳さんは、ここで何を?」


「暇だったんだ、式まで」


「あ、私も!ちょっと早く来ちゃって………」


「じゃあ、一緒に講堂に行こうか。なんだかんだで、もうすぐ始まりそうだし」


 と、僕は自然に誘ったが、内心ドキドキのバクバクでした。


 いやだってさ!この人は多分めちゃくちゃ優秀な人でさ!僕なんかが話しかけて良いような人じゃないと思うんだよね!


 でも、これから同じ学校に通うんだ。ここで仲良く出来なかったら、ずっと出来ない。




 ☆☆☆☆☆




 講堂に入ると、すでにかなりの人が入っていた。


 エストリアの入学式は特別で、在校生とその保護者だけでなく、千人程度の一般の観客がいるのだ。


 その理由はーーーー



「入学式公演、何やるんだろうね!!」「楽しみだなぁ!」「絶対面白いよね!」


 と、至る所で聞こえるように、入学式で3年生が公演をするのが習わしだからである。


 エストリアは、1年生から3年生まで1クラスずつしかなく、それぞれが公演に向けて毎日練習をすることになる。



「北柳さんは楽しみにしてた?入学式公演」


「あー………まあ、うん」


 実を言うとそんなに興味があるわけではなかった。だって、歌劇なんて観に行った事ないし、観に行こうと思った事もない。


「真鍋さんは?」


「私は、ちょっと怖いんだ。何か、嫌な予感がするの」


「嫌な予感?」


「うん、よくわからないんだけどーーーー」



 《開式いたしますので、御着席をお願いします》



 マイクから発された声を聞き、僕たちは会話を途中で切って、慌てて近くの席に座った。


 僕たちが席に座るのとほぼ同時に、沈黙が波及していった。

 速やかに式が執り行われそうな雰囲気があり、流石お嬢様学校だな、と感心してしまった。



 《それではまず、3年生による入学式公演を開演いたします》



 重く下ろされていた緞帳が上がる。


 ゆっくり上がっていく緞帳に釣られて、観客のボルテージも上がっていくようで、息を呑む音さえ聞こえた気がした。




 そしてーーーー




 目の前で繰り広げられたのは、感情の濁流による嵐だった。


 音楽に合わせた振り付けは、揃う毎に台風が吹き荒れ、メロディに乗せられた歌声は、脳の表面に歌詞を書き込まれているようだった。


 暴力と形容するに等しい()()は、見逃す事も、瞬きさえも許さず、観客の一人一人に稲妻が落ちるように会場を呑んだ。


 嵐の中心地は、主役の男役。

 女性らしく長くしなやかに伸びた手足から、想像もつかないような力強いダンス。自然と目が奪われてしまう。



 これがエストリアの舞台なんだーーーー



 今更ながらに、僕が今いる場所の重大さに気がついて、自分自身が恥ずかしくなった。




 舞台はいつのまにか終わっていて、会場が揺れるような拍手の中でも、まだ夢から覚めないようだった。


 凄い、凄すぎる。


 初めて観た素人の僕ですら、虜になってしまった。



「………はぁ、凄かったね」



 僕はようやくいつもの呼吸を取り戻し、真鍋さんに話しかける。


 そして、気づく。



「真鍋さん………?」


 彼女は、幕の閉じた舞台を、呆然と見ていた。


 いや、彼女だけじゃない。

 僕たちの周りに座っている1年生全員が、同じように自分を忘れて、ただただ呆然としていた。



「こ、こんなの、無理だ………」


 真鍋さんが小声で漏らす。



「こんなの、勝てるわけ、ない………」


「真鍋さん……?」


 同様の嘆きが、よく聞いてみれば周りの1年生全員から聞こえる。


 僕以外の全員から、およそ僕くらいにしか聞こえていないくらいのか細い言葉が発されていた。



「………あ、そうか」



 そこでようやく、僕はあの劇の意味を理解した。


 3年生が残していったのは、感動だけではなく、挑戦状。


『お前たちは後2年でここまで来れるか?』と、僕たち1年生に問うていたのだ。


 ここに座っている優秀なエストリア生には、その途方もない差を縮めるための途方もない茨の道が、容易に想像できたのだ。


 だから、僕みたいな素人じゃない他の人たちは皆、絶望した。


 こんな高い壁、超えられるわけがないと。




 《それでは、ご来賓のーーー》


 式は、いつのまにか進んでいた。

 だけど、誰も聞いていない、聞こえていない。


 来賓の話など、先程の劇と比べれば耳に入れてやる情報でもないと、失礼にもそう思ってしまっているみたいだ。


 それも仕方がないほど、あの劇は観客を魅了した。



 《新入生代表挨拶》


 気づけば来賓の話は終わっていて、新入生代表による挨拶が行われようとしていた。



 《新入生代表、真鍋明希》


 真鍋明希。その名前を聞いて、少しの間固まった。


 そしてぐるりと周りを見た後、真横に座っている真鍋さんのことを見た。


 真鍋明希…………って、横にいる真鍋さんのこと!?


 新入生代表という事は、学年首席という事だろう。


 が、全く聞こえていないのか、立つそぶりも、名前を呼ばれた事に気づくそぶりもなかった。



「ま、真鍋さん!呼ばれてますよ!」


 肩を優しく叩く。


「え……あ、挨拶………そ、そっか、挨拶、しなきゃ……」


 気づいてくれたようだったが、どう見てもまだまともに戻ったとは言えない様子である。


 立ち上がろうとしていたが、足は震え、顔面蒼白。僕が思っていたよりも、3年生が残していった絶望感は、彼女達を支配していたようだ。


「真鍋さん、大丈夫?挨拶、できる?」


「でき………る、と、思う………」


 いや、どう見てもできないでしょ。

 声には出さなかったけど、誰が見ても僕と同じことを考えたと思う。



 酷いよ、3年生は。大人気ない。

 きっとあの人たちは、こうなることが分かってて公演をしたんだ。それでも乗り越えて来るような生徒を求めて。


 だとしても、やり過ぎだ。



 ーーーーだから。



 僕だって呑気に受け入れてばっかりじゃない。




「はい!」




 僕は、広い講堂に響く声で返事をした。


 そして、立ち上がる。


 誰もが、僕の事を『新入生代表』だと思うように。



 《え、えっ?》


 マイクに、動揺した先生の声が入って、教員たちが少しだけざわめいた。


 それを無視して、舞台上に上がる。



 舞台の上にいたのは、理事長である僕の母さん。


 そして、台の上のマイクが僕の方を向いていた。



 生徒や観客に背を向けてマイクの前に立ち、母さんの方を見ると、母さんは笑みを浮かべていた。


 優しい笑顔だった。

 今から僕がやろうとしている事を察して、全部許してくれようとしているみたいに。


 他の教員たちも、そんな理事長の顔を見て、僕の事を止めようとするのを辞めてくれたようだった。



「えー、真鍋明希です」


 いや、新入生代表挨拶で自己紹介から始めるやつがあるか!と、自分でツッコんでしまったが、こう言う時によく持ってるのを見る、挨拶の文が書かれた紙が無いのでしょうがない。



「えー、春が、うららかでね、あー……桜が、咲いて、散って……みたいな季節………ですよね、今って!花見とか行きたいし、ピクニックとかして桜見たりってこれ花見だ!えっと、あと、あと………なんか、全体的にピンクですよね!?」


 え、何言ってんの僕!?


 まともな言葉を紡ぐ脳の器官死んじゃったの?



「こんな良い季節に、僕たちは入学します!3年間頑張ります!」


 ………


 ………あ、終わっちゃった!


 めちゃくちゃドヤ顔で、真鍋さんの代わりに壇上に上がって何を話すかと思ったら、しどろもどろでしょうもない事言って終わっちゃった!


 母さんも、「え、終わり!?」みたいな顔でこっち見てるし。


 違う、違うよ!こんな事言いに上がってきたわけじゃないよ!


 覚悟決めろ僕!


 何を言っても、母さんが許してくれるから!




「…………えー、後、それともう1つ」


 頭の中で、さっきの皆んなの呆然とした顔を思い出す。



「さっき観た3年生の劇、凄かったです」


 多分今、聞いてる人は『なんで今そんな事?』って思っただろう。



「でも、凄かっただけです。僕たち1年生は優秀なので、もっと凄い劇を作れます」


 聞いている人が、ざわっ、と一斉に声を上げた。



「だから、僕たちが1年生でいるうちに、3年生を倒します」


 あくまでも、無神経に。劇の事を全く知らない素人として。



 僕は、舞台の下に座っている1年生たちの方を向く。



「皆んなで勝とう!僕たちの方が凄いって、お客さんに認めてもらおう!」


 おー!とばかりに、僕は拳を突き上げた。


 誰も賛同してくれなかったし、千人くらいいるお客さんはみんな騒ぎ立てて、前代未聞だとばかりに僕に注目していたが、僕はそんな事意に介さず、「以上です」と告げて舞台を降りた。


 きっと、めちゃくちゃ批判されてるだろうなぁ色んなところで……後ろの方に座ってる一般のお客さんからびしびし視線感じるし………怖いなぁ。


 でも、僕がこんな大それた事やるなんて、自分でも思ってなかった。中学の時も、人前で何かをするなんて事ほとんどなかったし。



「き、北柳さん」


 元の席に戻ると、すっかり目の色を取り戻した真鍋さんが、なんとも言えない表情で僕を見ていた。


 そんな彼女に、僕が言える事は1つ。



「ごめんなさい!本当に!真鍋さんが新入生代表なのに、勝手に挨拶して、勝手に変な事して、本当にごめんなさい!」


 謝罪だけだった。


 場所が場所だけに土下座はできなかったけど、心の中では土下座してたし、許してくれるとも思ってなかった。



「謝らないで!むしろカッコよかったし、感謝してるくらい!」


「せ、聖母か!?」


 真鍋さんはめちゃくちゃ優しかった。

 普通ならブチギレだし、いきなりこんな事する奴ヤバすぎて絶縁するよ普通、っていうかした方がいい。


 けど、こんな僕に、感謝するなんて………優しすぎて怖いよもう。



 《皆様、ご静粛にお願いします》


 と、マイクから語気強めの声が聞こえた。


 うわぁめっちゃ見てる、進行担当の先生めっちゃこっち見てるよ……それどころか睨みすぎてもう黒目がどっかいっちゃってるよ……



 でもなんだかんだで、お客さんも興奮は冷めやらぬが一応式には協力するといった体で、入学式は進められた。


 最後に理事長としての母さんからの挨拶があって、いつもの母さんからは想像出来ないくらい真面目で、思わずカッコいいと思ってしまった。


 後から考えれば、あの凛とした理事長としての姿は、場を荒らしに荒らした僕への責任追求をさせないようにするための、一種の威嚇だったのかもしれないとも思った。



 ☆☆☆☆☆



 入学式が終わり、僕たち1年生は皆、講堂を出て教室に案内される事となった。


 引率の先生に連れられて、講堂を出る。


 すると出てすぐの所、他のお客さんが多数いるようなところで、先生が止まった。



「あれ、どうしたんだろう」


 頑張って前の方を覗き込む。


 すると、僕たちの列の前に、人が1人立っていた。



「真鍋明希………ではなく、北柳友紀!」


「え!?」


 誰?しかも、僕を呼んでる?


 周りの生徒に視線で言われるがままに、僕は列の先頭に躍り出る。



 その人に真っ直ぐ対峙すると、僕よりも10センチくらい背が高くて、威圧感があった。



「え、あれって、瑠衣るい様じゃない!?」「ホントだ、なんで!?」「美しすぎる……!」


 ん?瑠衣様?


「君が友紀か………近くで見ると、可愛い顔をしているね」


「え、え!?」


 いきなり何!?

 そんな整い過ぎてる顔で褒められても何も嬉しくないけど………


「ボクは、3年の天坂瑠衣あまさかるい。先程の舞台では、主役をやっていたよ」


 言われて、合点がいった。

 恐ろしくしなやかに伸びた手足に、普通の人の半分くらいしかないように思える顔。


 その人間離れしたスタイルから発せられるオーラは、正にさっきの舞台で主役から感じたそれだった。



「可愛い1年生から熱烈なアピールを受けたと聞いてね………急いで会いに来たんだよ」


 熱烈なアピール………?


 そんな事はした覚えがないが、きっと僕の新入生代表挨拶の事を言ってるんだろうとは分かった。


 その話となれば、僕だって態度を改めるしかない。



「………3年生の主役様が、わざわざ釘を刺しに来てくれたんですか?」


 挑発的に、それでいて負けないように、強気に出る。


「ううん?違うよ?ただ可愛い娘がいたから来ただけ」


 がくっ。


 挑戦的な態度を取ったことが恥ずかしくなるくらい、素直に彼女はそう言った。


 そして、瑠衣は少し屈んで僕の手を取る。


 彼女に真っ直ぐ見つめられると、魔法がかかったみたいに動けなくなった。



「ボクはね、君の為にここにーーー」



「あーっ!瑠衣!ここにいやがったのかよ!」



 が、そんな瑠衣の言葉を遮ったのは、ヤンキーみたいに叫ぶ女の人の声だった。



「お前がいなきゃ反省会始められねぇだろ!?組長なんだから!」


ともえ、まさかボクがいなくて寂しかったのかい?」


「話を聞け!」


 やってきたのは、これまた美人な女の人で、身長は僕と変わらないかそれ以下といった様子。


 でもそんな可愛らしい見た目に反して、口調は怖い。



「巴様もいらっしゃったわ!」「可愛い過ぎる………」「姫ー!」「ヒロインは巴様しかいらっしゃらないわ……!」


 誰なんだろう?と疑問に思っていると、また一般のお客さんが教えてくれた。


 巴さんか………さっきの舞台でヒロインやってた人なんだ。


 舞台の上とは違って、きっと怖い人なんだろうな。



「なんだいそんなに怒って………まさか、嫉妬してるのかい?」


「は、はぁぁ!?ちが、違う!してない!」


「はは、大丈夫さ。ボクのお姫様は巴だけだよ」


「うぇっ……?お、おう………オレも、お、お前のこと、す、すすす、す………」


「す?」


「す………し」


「寿司?」


「何でもない!」



「ヘタレだ」「ヘタレ姫だ」



「うるせぇー!!」



 案外可愛い人みたいだな。



 顔を真っ赤にした巴は、瑠衣の首根っこを掴んで逃げるようにその場を去ろうとした。



 しかし、急にピタッと止まる。



「………お前、3年に勝つとか言ってたけどよぉ………」


 巴は、少しだけこちらを向いた。



「易々と勝てると思うなよ?」


 その眼光は、僕を殺そうとしてるようにすら思えた。



 ………もしかしたら、恐ろしい人たちを相手にしてしまったのかもしれない。


 今更ながらにちょっと後悔した。

不定期に更新していく予定です。

気長に待っていただけると嬉しいです。

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