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昼休み、私は中庭にあるベンチで読書中です。何故、こんなところで一人で読書をしているかと言うと、ある方が通るのをお待ちしているのです。
劇場からの帰り道、私はドーラさん達に出来る限り彼女の情報を集めて欲しいとお願いをしましたの。
マルティナさんから、それは任せて下さいと自信をもって言われたので、お願いする事にしましたわ。マルティナさんは多趣味で、園芸部、吹奏楽部、手芸部等等興味がある所には顔を出していらっしゃるので、お知り合いも多く人望も厚いのですわ。
帰宅部の私とは大違い…。私も入りたい部があったのですが、女性は入部できないと断られてしまいましたの。本当に、残念でしたわ。他に入りたい所も見つからなかったので、結局帰宅部になりました。
まあ、私の事はこれ位にしますわ。目的の方がいらっしゃったので。
「リーナさんですわよね?初めまして、ラキアと申します。ご存知かもしれませんが、シリウス様の婚約者です。シリウス様と頻繁にお会いしているみたいなので、どういったご関係かお聞きしたくて呼び止めてしまいましたの」
初めて会ったというのに、こんな自己紹介とても非常識です。でも、まず言いたい事は言っておかないと、逃げられてしまったら大変ですので。なのに、リーナさんは突然私の足元に跪いて土下座をされたのです!
「申し訳ございません!シリウス様に婚約者様がいらっしゃることは聞いていたのですが、婚約は親が決めたことでアカデミーを卒業と同時に解消するつもりだから、お付き合いして欲しいと言われたのです」
「リーナさん、ちゃんと座ってお話ししましょう」
私はリーナさんを立ち上がらせると、スカートに付いてしまった土を払いベンチへ腰かけました。
見事に彼女の言葉にダメ押しをされてしまいましたね。婚約解消とまで言っていたとは。
「でもお断りしました、本当です。だけど、シリウス様は私の事が諦められない、好きだと、何度も告白され私も段々シリウス様の事が好きになってしまったんです。本当に申し訳ありません」
「…そうでしたの。なのに私には何も言わず、貴女とお付き合いをしていたのですね」
「え?ラキア様には婚約解消するって言ったと聞いていましたが、お聞きになってないのですか?」
「ええ、婚約解消の話は一切出ておりません。それに、この状況で婚約解消すれば非難を浴びるのは貴方とシリウス様ですしね、言い出せないのも無理からぬことだと」
「酷い!シリウス様は私を騙していたんですね。卒業したら結婚しようと言って下さってたのに」
あら?意外でしたわ。婚約者がいるのを知っていてお付き合いを始める非常識な方だとばかり思っていましたが、実際はシリウス様の甘言に騙された被害者、私と同じ境遇ですのね。いいえ、私とは違いますね、彼女はプロポーズされているのですから。
少しお話ししただけですが、クルクル変わる表情や話をするしぐさが愛らしく、守ってあげたくなる可愛らしさを持つ方ですのね。リーナさんに比べ私は守ってあげたくなるような儚さもなく、感情を露わにすることもないので、女性としての可愛らしさは皆無かも知れません。まるでお人形の様と揶揄われた事もありましたわね。
「ラキア様、私達でシリウス様をぎゃふんと言わせませんか?こんなに馬鹿にされて黙っているなんて我慢できません!」
「何か良い案でもございますの?シリウス様をぎゃふんと言わせられるならご協力しましてよ」
予定とはかなり違う展開になりましたが、私達は協力してシリウス様を懲らしめる事にしました。
彼女の作戦はこうです。中庭で、シリウス様とリーナさんが一緒に歩いている所に私が現れ、シリウス様を責める。そして、同時にリーナさんも話が違うと問い詰め、二人でシリウス様を噴水へと突き飛ばすと。のぼせ上った頭を冷やすにはちょうど良いと思いませんか、と笑う彼女は少々怖かったですが、私は承諾しました。
「では、後程お会いしましょう」
「はい、ちゃんとシリウス様を連れて行きます。楽しみですね!」
リーナさんは上機嫌で去っていきました。ちょっと過激ですが、シリウス様がずぶ濡れになる姿を考えると、私も少し楽しくなってきました。放課後が楽しみですわ。