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 私は、噂が本当かどうか確かめてみる事に致しました。だって、気にならないと言ったら噓になりますもの。ドーラさん達から話を聞いた次の日、私はシリウス様に会いに行きましたの。


「ごきげんよう、シリウス様。急で申し訳ございませんが、今夜のオペラのチケットをドーラさんから頂きましたの、ご一緒に如何ですか?」


 いくら疑っていても、率直に噂話を口には致しませんわ。まずはゆっくりお話し出来る環境を作らないといけませんものね。


「やあ、ラキアこんにちは。お誘いは凄く嬉しいんだけど、今夜はセドリック達とカードをやる予定が入っているんだ、すまないね」

「まあ、そうでしたのね。私こそ突然お誘いしてしまって申し訳ございませんでしたわ」

「僕もラキアと過ごせる方が楽しくて良いのだけれど、前々から決まっていた予定だから断れないんだ」


 セドリック様は、シリウス様のご友人の中でも群を抜いて親しい方ですもの、断れなんて言えませんわ。


「私も一人で行くのは寂しいので、もし良かったらシリウス様のご友人の方で興味がある方がいらっしゃれば、お渡しくださいませ」

「それはドーラ嬢に悪いよ、誰か誘ってみたらどうなんだい?」

「それが、皆今夜は用事があるみたいですの。ドーラさんも凄く残念がっておりましたわ。」

「…そうか、なら僕の友人に当たって見るよ。チケットは無駄にしないからとドーラ嬢に伝えて置いてくれるかい?」

「勿論ですわ、ありがとうございますシリウス様。ではよろしくお願い致します」


 オペラのチケットを渡し、シリウス様と別れた。その様子を陰から見ていたドーラさん、マルティナさん、ユリアさんが顔を出した。


「チケット受け取りましたわね。さあ、私達も参りましょうか」

「もし来なかったら?チケットを無駄にするのは心苦しいわ」

「来なければ、噂はただの噂って事だもの。ラキアさんも安心できるでしょう?チケットの事なんて気にしないで頂戴。私たちはラキアさんの悲しむ顔は見たくないのよ」


 そう、私達はシリウス様の噂が本当かどうか確認をする為一芝居打ったのですわ。昨日の私の様子がおかしい事に気づいていた3人に、モヤモヤしているより確認した方が良いと説得され、気になっていた私は彼女たちに力を借りて、シリウス様をお誘いしてみたのです。私は、彼女達の様な素敵な友人に巡り会えたことに心から感謝しますわ。


 今夜のオペラに素直に私と行けば噂は所詮噂でしかなく、一緒にいたという女性の事も直接聞くことが出来ますしね。

 でも、もし断った場合は劇場に先回りし、誰が来るか監視しようと。どちらに転んでも確認できる様に計画を立てたのです。


 シリウス様に渡したチケットは2階の中央寄りのボックス席。私たちが取ったチケットは、舞台寄りの3階ボックス席。オペラを見るには不向きな席ですが、今日は舞台が目的ではありませんので問題ありませんわ。お目当てのボックス席はとてもよく見えますから。


 私達は、普段よりも少し控えめなドレスを身に纏い、早々に会場入りしましたの。万が一シリウス様が来られた場合、鉢合わせしては困りますものね。


「ラキアさん、もしシリウス様がいらしたらどうするおつもりですか?勿論、来ない事を願ってはいますが」

「…実は私にも分からないのです。何しろ初めての事ですし、先程のシリウス様もいつも通りに見えましたわ。噂を教えて頂いた時は気が動転してしまっておりましたが、今は信じたいと思っておりますの」


 シリウス様と婚約して4年。大きな喧嘩もなく、穏やかな時間を過ごしながらお互いの気持ちを深めてきた筈ですもの。でも、もしシリウス様が私に不満を抱いていたとしたら?私に至らぬ点があり、そのせいでシリウス様の心が離れ始めているとしたら?

 私は急に怖くなり、この計画を中止しましょうと口を開きかけた時、


「ボックス席にどなたか来られましたわ」


 ユリアさんの言葉に、私はとっさに俯いてボックス席から視線を逸らしてしまいました。シリウス様ではありません様に!私は祈るような思いでユリアさんの言葉を待ちました。


「ラキアさん、ご自分で確認した方が宜しいかと」


 ドーラさんが私の手にそっとオペラグラスを置いた瞬間、見なくても誰が来たのか分かってしまいましたわ。ドーラさんの悲しすぎる位優しい声で。

 私は、顔を上げオペラグラスを覗き込みました。2階のボックス席には、予想通りシリウス様がいらっしゃいました。そして、その横にいるのは、ウェーブのかかった金色の髪に碧色の瞳をした可愛らしい女性。お二人は楽しそうに笑い合いながら顔を近づけおしゃべりを楽しんでいるように見えます。


 あの方が従妹なのか尋ねられても、私には分かりません。ただ、いくら従妹だからと言って、あんな親しげにお話しするものでしょうか…。これ以上二人の仲睦まじい姿を見る事が出来ず、オペラグラスをドーラさんにお返ししました。


「あの方、どこかで見た覚えがございますわ」


 マルティナさんがオペラグラスを覗き、どこだったかしらと呟いています。その言葉で従妹ではない事が私の中で確定されました。つまり、シリウス様は浮気をしている。その言葉が私の胸にストンと落ちました。長いようで短かった4年間、私はシリウス様の気持ちを繋ぎ止める魅力もない女性だったのだと、そして誠実な方だと思っていた彼が、実際は私にも彼女にも良い顔をして弄ぶ最低の男性だったのだと、私の彼への想いはこの瞬間砕け散りました。


「皆さま、退出致しましょう」


 私は二度と2階のボックス席を見ることなく、劇場を後に致しました。


「ドーラさん、マルティナさん、ユリアさん、今夜はお付き合い下さってありがとうございました」


 にっこりと笑ってお別れのご挨拶をしたのですが、マルティナさんにガシッと手を握られてしまいましたわ。どうしてかしら?


「ラキアさん、そんな顔をしないで下さい。私たちはラキアさんの味方ですわ」


 スッとハンカチで目を押さえられ、私は引き攣った笑顔で涙を流していたのだと気が付きました。

 ああ、私は自分が思っていたより傷ついていたのですね。彼女たちがいてくれて、本当に良かったですわ。


 寄宿舎へ戻る馬車の中で、マルティナさんが彼女の事をどこで見たか思い出してくれました。何と、アカデミーで見たとおっしゃったのです。


「制服姿しか見たことがなかったので、印象が違い過ぎて分からなかったのですわ。でも、間違いなくアカデミーの1年生ですわよ」

「何てことなのかしら!自分の婚約者も通っているアカデミーで堂々と浮気するなんて、最低ですわ!」


 言った途端、失言だったと思ったのがドーラさんは手で口を覆ってすまなそうに私を見ました。その様子が可愛らしくて、私は思わず笑ってしまいましたの。


「ドーラさん、私の代わりに怒ってくれてありがとう。貴女の言う通りよ、最低の男ですわ。私、あの二人に復讐しようと思っていますの」


 突然の復讐と言う言葉に、三人はぎょっとした様子でした。

 それはそうですわよね、いきなりそんな物騒な事を言われたら困りますよね。

 でも、その位しても構わないと思いません?婚約者がいながら他の女性に現を抜かす男性と、婚約者がいる事を知っているのかそうではないのかは存じませんが、公共の場で堂々とベタベタする女性に少しばかり痛い目に遭ってもらっても、宜しいですわよね。

 私は、驚きのまま固まっている三人に、計画を実行するべく協力して下さいと頭を下げました。

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