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「ラキアさん、ご存知でしたら申し訳ないのですが…」


 仲の良い友人たちとの楽しいお茶会。新しいカフェがオープンしたとか、今度のパーティのドレスをどうするのか等他愛もない話をしていた最中、突然ドーラさんが奥歯に何か挟まった様なものの言い方をしてきたの。話の腰を折ってまでドーラさんが言い出したのだから、よほど重要な事だと考え、私は話の続きを促した。

「最近、貴女の婚約者のシリウス様について変な噂を耳にしましたのよ。お耳に入ってますかしら?」

「いいえ、存じませんわ。どんな噂ですの?」

「…何でも、親しくしている女性がいるとか。その方と頻繁に出かけられていて、まるで恋人同士の様に仲睦まじくしているという噂ですわ」


 あくまでも噂ですわと念を押しながら教えてくれたのだけれど、お付き合いの長いドーラさんがこんな言い方をするのは初めての事で、私はその噂が真実なのだと悟ったわ。

 横にいるマルティナさんやユリアさんも複雑そうなお顔で私を見ている。おそらくお二人もご存じの様ね。

 知らないのは、当人である私1人ですのね。


「楽しいお茶会の場を私のせいで台無しにしてしまって申し訳ないのだけれど、詳しくお話を聞かせて頂けますかしら?当事者である私が何も知らなくてお恥ずかしいわ」

「いいえ、ラキアさんのせいではありません。私もつい最近耳にした噂で信憑性が薄いと思い、ラキアさんにお話しするのもどうかと思っていましたの。…ですが、実際に目撃した方もいらっしゃるらしくて…」

「…私が聞いた話ですと、その女性とオペラ鑑賞をされていたと。シリウス様のご友人であるユースト様に従妹だと説明されたらしいのですが、どう見ても従妹に対する態度ではなかったとおっしゃっているのですわ」


 ドーラさんに続きユリアさんもご自身で聞いた噂を教えて下さったわ。

 シリウス様から従妹が来ているという話は聞いたことがありませんでしたが、最近はお会いする事も少なくなっていたので、私に言うのを忘れていた可能性もありますわね。


「皆さまがご心配されるお気持ちも分かりますが、噂とは尾ひれがついて大げさに触れ回ってしまうものですし、私はシリウス様から直接お話を聞いて判断致しますわ。でも、教えて下さってありがとうございます」


 にっこりと笑い、ドーラさんたちを見る。そのような噂に惑わされない私の毅然とした態度に、彼女たちはホッとしたのか、その後はいつも通りの会話に戻りお茶を楽しんだ。


 ですが、私の心の中はブリザードが吹き荒れていましたわ。婚約者が別の女性をエスコートしていると聞いて、気にならない筈がないではありませんか。

 お茶会が終了するまでの間、皆様のお話がほとんど耳に入らぬままでしたわ。


 私の婚約者であるシリウス様のご実家は、隣国のルイーダ国との貿易を営んでいるダン伯爵家。その3男がシリウス様ですわ。王都の商会を纏める商家で、お義父様は主に貴族相手に宝石や絹などの商品を扱っている商会の長なのです。


 私の自己紹介がまだでしたわね。私は、そのルイーダ国との国境を守るディアス辺境伯家の長女でラキア・ディアスと申します。辺境伯家と言うのは、もし隣国が攻め入ってきた場合国の盾となり、最前線で戦い国を守る守備の要ですわ。勿論、現在隣国とは友好的なお付き合いをしているので、争いごとは無いのですが、国境の検問所を守ると言う責任ある任務を任されておりますので、貴族としては少し無骨な父に厳しく躾けられましたの。少々話し方が固いかもしれませんが、その辺はご容赦くださいませね。


 何故、シリウス様との婚約が決まったかのお話もさせて頂きますわ。ダン伯爵はルイーダ国との貿易の為、我が領地へ良くいらっしゃっていましたの。通り道ですから当たり前なのですが、私が幼いころから、ルイーダ国からの帰りにはルイーダ国で流行っているお菓子やお酒を、必ず我が家にお土産として下さっていました。

 父とお酒を酌み交わしながら、意気投合し我が家にお泊り頂くこともしばしばございました。その際に、シリウス様を伴い来られることも。そうして、私たちは何度かお顔を合わせ、お話し致しました。領地を案内したり、私なりのおもてなしを致しましたわ。

 そうこうする内に、シリウス様と私が相性が良いと判断されたダン伯爵様より、婚約の申し込みを頂きましたの。始め、まだ早いと反対していた父も、シリウス様が真面目でいずれ、お父様の後を継ぎ、国のさらなる発展に尽力したいと頑張っていらっしゃる姿を見て、有望株だと思ったのでしょう。私の許可なく婚約を承諾してしまいましたの。

 まあ、貴族の家に生まれた以上政略結婚は当然の事でしたので、私に拒否権はございませんでした。幸いなことにシリウス様は人並み以上のルックスと知識をお持ちでしたので、これから愛を育んでいければ良いのだと考えました。私が13歳の時のお話です。


 そして、現在私は17歳。女性でも知識を身に付け、家を守るべきだとの父の考えにより、王都のアカデミーへ入学し2年が経ちました。領地を離れアカデミーで学ぶことはとても楽しかったですわ。とても信頼のおける友人も出来ましたし、何より婚約者であるシリウス様もアカデミーに入学され、頻繁にお会いする事も出来ましたもの。シリウス様は優しく、私を色々な所へエスコートして下さいました。それこそ、オペラ鑑賞などにもですわ。社交界のパーティがある時は、必ず婚約者として私を紹介して下さりましたし、燃えるような愛情はございませんでしたが、私なりに愛情をもって接してきました。勿論、シリウス様も同じ気持ちだと疑ってはおりませんでした。


 アカデミーを卒業した後、1年ほど花嫁修業をしシリウス様と結婚する事を私なりに楽しみにしておりましたのに…。

 まさか、後数か月でアカデミー卒業という時期に、シリウス様が浮気をしているという疑いが浮上するとは。


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