王太子ネブガドネザルの要求
早速、ニトクリスと私は王太子・ネブカドネザルに会いに行く。
「ニトクリスよ、その者は?」
「この方は遥か彼方の地・メルッハからお越しになった方です」
「それより、父王に寄越せと言っていた『超絶優秀な補佐官』はまだか?」
「この方です」
(えっ。私は『超絶優秀な補佐官』なんですか!? 期待大き過ぎない!?)
「うむ。ならば話を聞こう」
雰囲気からして、父王よりも強い野心が見える。
「早速本題に入りますが、何を目指していますか?」
何を目指すかを訊いてみない事には話が始まらない。
「都市とは、国そのものである」
「加えて、我が国は世界帝国となるべきなのだ」
「よって私は、アッシリア国都ニネヴェを超える都を作らねばならないのだ」
まあ、まずは『何をするにせよ必要なもの』を挙げておこう。
「では、まずは人材ですね」
「人材? 資材ではなくて?」
「私の故郷には、人は城、人は石垣という言葉がありまして」
「人あっての国という事じゃな」
「左様にございます」
* * *
「皆の衆、バビロンを富ませるには如何にすべきか、忌憚なく意見を述べよ!」
ここに集められたのは都市計画家か。灌漑の充実、交易路の保護、徙民政策の実施などの意見が出される。
「そこの異邦人、何か意見を述べよ」
突然の指名に驚いたが、一応用意はしてある。
「新居住区とそれに伴う外壁の建設、河川交通と宗教建築の拡充あたりでしょうか」
「案が一番固まってそうじゃな、他には」
他といっても、大抵はここの都市計画家たちと同じなのだが。
「やはり、最重要事項は食糧確保にあるでしょう」
世界の文明発展は常に食糧生産と共にあった。農業革命があって、世界が動く。食糧の効率的生産は文明の質であるといっても過言ではない。事実、後に高効率化に成功した中国・インドにバビロニアの流れを汲む西洋世界は追い越され、それを西洋世界は新作物によって追い越し返し、産業革命を実現したのだから。
「なるほど、貴殿に都市設計を任せるとしよう」
「明日、粘土板を出せ」
無茶苦茶だ。古代国家の朝は早い。夜明けと共に政務が始まる。つまり、今が午後5時であるから、夜明けの5時までに仕上げねばならない。粘土板を乾かす時間を含めれば、12時間という時間すらない。
急いでバビロン市内の統計を取って、現状を把握せねば。
「お困りのようですね」
誰かと思えば王太子秘書ニトクリス。
「期限を延ばすよう掛け合ってみましょうか?」
ここで私はつまらぬ見栄を張った。美子に激似だからといって、こんな事をすべきではなかった。
「いや、少し助けがあれば今日中にできますよ」