Prologue
私の恋人、美子は幼馴染でもある。あの日、私は彼女にこう誘った。
「一緒に五才山に登らない?」
五才山というのは市内の山で、お寺とカフェがある。昔は寺へ行くケーブルウェーがあったらしく、今はその跡地が展望台とカフェになっている。展望台には南京錠が大量に掛けられ、非公式の恋愛の聖地になっている。カフェでの食事に誘った後、展望台で付き合おうと言うつもりであった。
しかしながら、結果だけ記すと、それは失敗した。
彼女は走り去り、寺の中を探し回って、漸く見つけたのはハンカチ1枚。私があげたハンカチである。その先には獣道が広がっていた。この山は街中にあり、整備が隅々まで行き届いているので獣道などあまり無い。だから、そんなものがあると目立つ。気になったので少し入ってみると、いつの間にか研究所のような建物の中にいた。
* * *
目を覚ますと、そこは研究所であった。五才山時空研究所と書いてある。地球外生命体の廃基地があるという噂は聞いた事があるが、ここも未知の技術であふれていて、壁掛けのデジタル時計には、2033年とある。……2033年!? 私はタイムスリップしたのか?
そんな事を考えていると、白衣を纏った、細い丸眼鏡の若い女性が現れた。
「どこから入って来たのかな?」
「誰ですか?」
「誰って、最初に名乗るのは勝手に入って来た貴方の方でしょう」
名前と、ここに来た経緯を話した。
「そうか……なら仕方ないな」
「君への口封じと、君の彼女探しの協力、どっちを選ぶ?」
「そりゃ、彼女探しの協力で」
殺されるのと、協力してもらうのなら、協力してもらう方を選ぶに決まっている。
「良い返事だわ」
* * *
「君の彼女探しだが、思ったより難航しそうだ」
「どうしてですか?」
「恐らくだが、過去に行ってしまっている」
「可能性が色んな時代に散在してるし、全部巡った所で見つからないかもしれない」
「……それでも行く覚悟はあるかい?」
きっと異国の異時代の地で、融通も効かぬまま、一人困っていることだろう。
助けに行かねば。
「じゃあこの時空転移セット入りのリュックと、役立つ時計と眼鏡のセットを」
「あと、翻訳は勝手に行われるから安心してね」
「最後に、この黄色い錠剤を飲んでおいて。不老不死の薬だから、何年向こうに居ても大丈夫よ」
「行ってらっしゃい!」
そう聞こえると同時に、足下に星に丸型の線が通ったと思うや否や、私は過去へ飛ばされた。