反骨の徒
気がつくと私は横たわっていて周りにはジンとニーナ、そして長と何人かの仮面達が取り囲んで居た。
「無理だった…のですね?」
弱々しい言葉を長に投げかける。
「そうだ、継手の君。貴方の心臓は一度止まった。我々は穢れた神が出てくるのを用意して待っていた。一の刻程経ったろうか。
しかし、何事も起こらずしばらくすると再び心臓の鼓動が始まり貴方が目を覚ましたのだ。」
その言葉には少なからずの諦念が混ざっているように聞こえた。
「私は大いなる神と話しました。あいつは言った、"敵"は何人たりとも自分を殺す事が出来ない、と。 」
【清め火】達はざわめき、長は失望の表情を隠さなくなった。
「そうか、我々がやって来た事は全て徒労に終わった訳か…我々の考えが甘かったのだな…
こうなってしまえば…残念だが継手の君、貴方を燃やして全て灰燼に帰す方法しかもはや無くなってしまった。すまない、すまない継手の君よ。このまま綺麗に終わらせる事は出来ないようだ。」
まともに動く事ができない私を数人の仮面達が持ち上げどこかへ連れ去ろうとする。
「話が違うじゃないか!助けてくれるって言ったのに!何の為にここまで来たと思ってるんだ!全員ぶっ殺してやる!クソ野郎!」
ニーナが激昂した。
しかし何人かの仮面を拳で打ち倒した後、抵抗虚しく床に押さえつけられてしまった。
ジンも同様に倒され殴りつけられている。
私は大声で叫んだ。
「止めろ!二人を傷つけるのは止めてくれ、お前達の言う事に従うから、もう仲間を殴るのを止めてくれ…」
心の底から彼らに懇願した。ジンとニーナが痛めつけられるのをただ何も出来ずに見ているのが耐えられなかった。
長の合図で二人が解放される。
「連れて行け、明日、継手の君、貴方を燃やす事になるだろう。殺す事が出来なくても心臓ごと燃やす事なら出来るはずだ…
これが上手くいかなければいよいよ我々も終わる。若い者を神に取られないように戦って来た我々の結末が何の罪も無い貴方を燃やす事で成就されるとは…なんという皮肉、すまない、本当にすまない。」
白髪の老婆の顔に苦悶の表情が浮かぶ、松明に照らされたそれはまるで異国の伝承にある鬼の様に見えた。
そして私は幽閉された。
明日には私は燃やされてしまうだろう。
ただ、私は諦めた訳ではなかった。大いなる神の言葉を反芻するように何度も思い出しあの傲慢な物言いを繋ぎ合わせ、私なりの結論がもう少しで導き出せそうだった。
これが見当違いの答えであれば私は明後日の太陽を見る事は二度と出来ないだろう。
最後の賭けであり私達の最期の戦いだった。




