表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/28

6.学園に登校すると

拙作をお読みいただき、本当に本当にありがとうございます!!


 庭での出来事があってから、ウイリアムは毎日のように花を持ってルナビアを訪ねてきた。何か用事があって訪ねられない日には、必ず花と手紙を送ってくる。


 1週間もすると花はルナビアの部屋から溢れ、納まりきらなくなった花――ナターシャ曰く、屋敷の使用人たちにこっそりウィル花と呼ばれている――が屋敷を埋め尽くし、ついには飾る場所がなくなってしまった。


「もう庭に植えるしかないから鉢植えでちょうだい」


 冗談半分でそう伝えると、見事な鉢植えが贈られるようになった。


 なんとなく使用人に任せる気にならなくて、せっせと自ら鉢植えを庭に植え替えていると、気付けばガーデニングにドハマりしていた。


「こっちのはここに植えるでしょ……。それでこっちはあれで」


「ルナ様、やけに手馴れていらっしゃいますが?」


 全部自分でやりたいの! と宣言したルナビアをナターシャが呆れた様子で見ている。


「うーん? ソル兄様のせいかしら?」


 いや、前世の実家が農家だったのだけど。


「いくらソル様といえ、ガーデニングにお詳しいとは思えませんが」


 いや、あるのかしら? うん、あるな? とナターシャがぶつぶつと呟いている。いつもダシにしてごめんなさい、ソル兄様。でも何故か皆納得してくれるんだもの。


「持つべきものは優しくて便利なお兄様よ」


「何かおっしゃいましたか?」


「い、いいえ。あ、そろそろ学園に行こうかしらって言ったわ」


「そうですか」


 なんだその疑いの目は。


「ゴホン、そうよ! 一日中静養するって言ったって、暇つぶしに困るだけだし。暇すぎてそろそろガーデニングを極めそうだわ。お父様はほとぼりが冷めるまで好きなだけ休みなさいと言ってくださったのだけど、そろそろ良い頃合いだと思うのよ」


 思い立ったが吉日だと、エドモンドにお伺いを立てると、「ウイリアムくんが付き添ってくれるだろうから安心」とか意味の分からないことを言われつつ、通学の許可が下りた。


 花に添えられていたウイリアムからの手紙の返事――ウイリアムからは日々の出来事が詳しく書き綴られている一方、ルナビアには「今日も花を上手に植えられました」くらいしか書くことがない――に、明日から学園に通うことを書き足しておいた。


「ルナ、おはよう」


 学園に向かおうと玄関を出ると、ローズの家紋の馬車とウイリアムが待ち構えていた。


「道理でうちの馬番がのんびりしていたわけね!」


 キイッ!と喚くルナビアに、ウイリアムが最高に爽やかな笑みを向ける。差し出される手を取ってエスコートされながら、ぷりぷりと馬車に乗り込んだ。


「ルナがわざわざ手紙を寄越したくせに。迎えに来いってことじゃなかったのか?」


「登校するとは書いたけど、迎えに来いだなんて言ってない!」


「でも、俺は一緒に登校したかったんだ」


 当たり前といった顔つきでウイリアムが隣に座ってくる


「……近くないかしら?」


「少しでも近くにいたいから、学園にも一緒に登校したいし、馬車でも隣に座りたい」


「そ、そんな、ははは恥ずかしいことを堂々と言わないでちょうだい!」


「恥ずかしくないぞ? 俺は本気でそう思ってる。何ならルナにはずっと学園を休んでもらって、2人きりで過ごすのでもよかったのにとさえ思っている」


「ぐぬぬ……」


 ウイリアムの発言がどんどん過激になっている気がするのは気のせいだろうか?

 悔しくなってぷいと顔を背ける。


「そんなに嫌だったか? 俺だけが嬉しいみたいでごめん?」


 ウイリアムがわざとらしくしょんぼりとした表情を向けてこちらを見てきた。


「謝る気がないなら謝罪は結構よ!! 久しぶりの登校だしウィルがいると安心だわどうもありがとうございます!!」


 ますますぷんすこしながら一気に言い募ると、ウイリアムはコロリと満面の笑みを浮かべた。


 自分の発言ひとつでこんなに一喜一憂するだなんて。胸の奥がむずむずする。


「……ウィルはそういう顔をしていなさいよ」


「ん?」


「ウィルはそういう! にこにこしてればいいのよ! その方が私は」


 ……好きよ。


 その先は言葉に詰まって言えなかった。無理に言おうとすると身体がぽっぽと熱くなり、羞恥で馬車から飛び降りてしまいそうになる。

 真っ赤になって俯くルナビアを見て、ウイリアムは益々笑みを深めるのだった。


 学園に着くと、ウイリアムが先に馬車から降りて、ルナビアに優しく手を差し伸べた。

 ルナビアはその手を取るのをためらい、不安げに顔を顰めた。


「いざ来てみると不安なものね」


「ルナ、大丈夫だ。俺がついてる」


「そうね、そうだったわ。ウィル、ちゃんと守ってちょうだいよ」


 よしっ! と自分に気合を入れて、取り澄ました公爵令嬢スマイルを顔面に貼り付ける。それから自分の手をウイリアムの手に重ね、ゆっくりと足を踏み出す。


 こつり。


 ルナビアは馬車を降りると、冷静に周囲を見回した。例の事件から1週間は過ぎたが、それでも注目を集めるだろうなと想定はしていた。


 励ますように手を握ってくるウイリアムに元気づけられて、ここぞとばかりに完璧なカーテシーを決めた。


「皆さまお久しぶりでございます。ご機嫌よう?」


 ふわりと優しい微笑みを浮かべ、どうしたのかしらとばかりに小首をかしげて見せる。


「「きゃあ」」


 女子生徒はおろか、男子生徒からも黄色い悲鳴が上がった。



「やめろ。男まで変な声が出ている」


「……? それよりあの方は大丈夫? 顔が随分赤いようだけど具合でも悪いのかしら」


「……大丈夫だ、いくぞ」


 ウイリアムはため息をつき、ルナビアの手を自分の腕に絡ませ、さっさと教室の方に歩きだしてしまう。


 ウイリアムに促されるままに教室に歩いていくと、その道中でも生徒たちがこちらを見て何やら噂話をしている。


「ルクレシア公爵令嬢のルナビア様が登校されているわよ!」


「なんて素敵なの。あの艶やかな銀髪!」


「王太子殿下たちに目を付けられそうで、今まで交流できませんでしたの。今日頑張って話しかけてみようかしら」


「『救国の転生者』にまもなく認定されるとか」


「随分前から月の聖女様って評判で」


「王太子の婚約者じゃなくなったんだろう? 話しかけるチャンスだな」


「冷たい人だと思ってたけど、平民にも分け隔てなく優しいらしいぞ」


 思いっきり注目されているようだが、陰口をたたかれている訳ではなさそうだ。今までは王太子に蔑ろにされている婚約者として腫れ物扱いだったのに。仲良くしたいってことかしら?


 試しにその辺に向かって「ご機嫌よう」と言ってみる。

 すると女子生徒からは「応援してます!」「ルナビア様は私たちの憧れですわ!」と熱烈な声援が返ってくる。


 男子生徒は突然顔を赤らめて絶句するばかりで、残念ながら大した反応は返ってこなかった。ルナビアたちが通り過ぎた後で、「可愛い」「聖女というか天使……」「婚約してないならチャンスだって……!」だとかなんとかひそひそ話をしている。


「女子生徒から人気が出るのは良いとして、男子生徒が目障りだな」


「ウィル?」


「いや、こっちの話だ」


 どっちの話だ? 訳が分からずルナビアは眉をひそめた。


「それより皆、すっかり態度を変えて。長い物には巻かれろって家で教えられているのかしら」


 ルナビアは周囲を見るためにウイリアムの陰からひょこひょこと顔を出した。ウイリアムが先ほどからなんとなくルナビアの視線を遮る位置に割り込んでくるから邪魔なのだが。


「出てくるな。見せたくない」


 ウイリアムが周囲――特に男子生徒が固まっている方向――を見て、渋い顔でうめいている。


「あら、ウィルはそんなに私のことを隠しておきたいの?」


「……うん。皆がルナを好きになると困る」


 一瞬ためらって、それから少し照れた様子で素直に告げられると、嬉しいような恥ずかしいような気持になって、思わずへにょりと表情を崩してしまう。


 すると周囲からうわっと歓声が沸き、ウイリアムはぶわっと殺気立っていた。

最後のシーンでウィルと目が合った周りの生徒(特に男の子)「ヒェ……ッ」


◆◆◆


感想をいただけると励みになります。1文字でもありがたいです……。お時間があればお寄せください!


続きが気になると思っていただけたら、下にある【☆☆☆☆☆】を多めにつけてくださると幸いです。


そうでもなかったな……と言う場合は少なめで。


ブックマークでの応援もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ありふれているいるようで結構面白い視点で書かれいます。とてもうまいと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ