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27.「   」

ちょっとおかしいところを修正しました(2023/1/2)

「ルナッ! ルナッ!」


 背後から必死でルナビアの名を呼びながら、大慌てで走り寄ってくる音がした。


 恐る恐る振り向いてみると、ウイリアムがこれまでに見たことがないほど髪を振り乱し、動転した様子で駆け寄ってきた。


 うずくまる銀色の乙女を見つけると、駆け寄る勢いはそのままに、目の前に滑り込むようにしゃがみ込んで思い切りルナビアを抱きしめた。


「……!!」


 苦しいほどきつく抱きしめられて、言葉が出てこない。


「ごめん、本当にごめん。俺の考えが足りないせいで、ルナを不安にさせてしまった」


 ウイリアムが震える声でそういった。


「……隠し事をされて、何も教えてもらえなくてつまらなかったわ」


 そう言うと、ウイリアムは左手をルナビアの背に置き、ガラス細工を扱うようにルナビアの頬にそっと右手を添え、そのままルナビアの顔を上に向けた。


 泣いて赤くなった瞼を見ると、もう一度「ごめん」と呟いて、そっと瞼にキスを落とした。


「ルナ、理由を説明させてくれないか」


 ルナビアはどうしても重苦しい気持ちが晴れなくて、ふっと視線をそらした。


 するとウイリアムが酷く苦しそうに呻いた。背に添えられた手がぎこちなく揺らいだ気がする。


 気を取られて思わず視線を元に戻すと、ウイリアムの切なそうに歪んだ顔と真剣な紺の瞳が目に入った。


 思わず魅入られていると、じわりと瞳に涙が浮かび、そのまま一粒はらりと頬を伝った。


「え……」


 あのウイリアムが、泣いた。


 ルナビアは衝撃を受けた。

 いつも優しく冷静で、なんでも飄々とこなす爽やかな青年。破天荒な兄に振り回されながら、それでも面白がったりたしなめたりする余裕があった。


 その彼が、苦しさも後悔も愛情も、全てが伝わってくるような涙を流した。


(……綺麗)


 呑気にそんなことを思うだなんて、なんて酷い女なんだろう。


 ――まさに悪役令嬢だわ。


 静かなはずの廊下に、ふわりと優しい風が吹き抜ける。


 ふっと胸が軽くなった気がして、ルナビアの身体が自然に動き出した。


 膝をついて腰を上げると、ウイリアムの肩に両手を置いて、今度はルナビアが上から覗き込む。


 不安そうなウイリアムがちょっと上目遣いの角度になって、茫然としている。こんなに間抜けな表情をしているだなんて、今まであっただろうか。


 そう思うとクスリと笑えてきて、ルナビアは柔らかな表情をのせたまま、顔をウイリアムにそっと寄せた。


 そのまま硬直している愛しい額に唇を寄せると、ゆっくりと腕に抱きしめた。


「う……うう」


 優しい口づけを終えて、黙って抱きしめていると腕の中から嗚咽が聞こえてくる。


「何も教えてもらえなくて、相手もしてくれないのだもの。せっかく勇気を出して会いに行ったのに嫌そうにするし。とても辛かったわ」


「……悪かった。悪かったと思っている」


「わかっているわ、ウィル」


「わかっているわ、ウィル。私も泣かせて悪かったわ」


 そう言って頬を撫でると、ウイリアムがほんのりと頬を染めた。泣かせておいて悪いが、可愛いがすぎる。


 ウイリアムが落ち着いて話をさせてほしいと懇願してきたので――とっくに許しているし、気分も落ち着いているのだが――、ちょっぴり偉そうに東屋に連れて行った。


 椅子に腰かけてウイリアムと向かい合うと、ルナビアはそわそわと切り出す。


「理由を教えてくれる気はまだあるのかしら? 教えてちょうだいな」


「……ずっと言いたいことがあったんだが、相応しい人間になれるようにソルに鍛えてもらっていたんだ。ほら、この前の王宮でも、危うく死んでしまいそうになってルナに怒られただろう?」


「ええ、捨て身で守られても、残された私はどうしたらいいのかしら。二度とあんな思いをするのはごめんよ」


「だから、ソルの攻撃を受け流せるくらいには魔法を鍛えようと思って……」


 ウイリアムが「あんまり格好いい話じゃないだろう」と言って頭を掻いた。


「それでソルお兄様との特訓はどうなったの?」


「一応受け流せるようにはなった。一瞬吸収して勢いを殺してから角度を変えて受け流すのがコツで……」


 そこまで言うと、ウイリアムはハッとして言葉を止め、それからゆっくりとルナビアを見つめる。


「そんなことより、言いたいことがある」


 ルナビアは唇を震わせながら――どうか平気に見えますように――、


「どうぞ」


 とだけ言った。


 東屋に優しい風が駆け抜ける。ルナビアのドレスの裾が少しだけ、ふわりと舞い上がった。


 ウイリアムはゆっくりと椅子から立ち上がり、ルナビアを見つめたままその前に立つ。それからうやうやしくひざまずいて、ルナビアの手を取る。


「ルナ。俺はこれまでも、これからも、ルナだけを愛している。一生をかけて守る。一生そばにいる。どうか結婚してくれないか」


 真剣な目でこちらを見つめるその人は、この国で一番信じられる存在。そんな人から、一生の約束をもらうことができるだなんて。


(ああ、心臓が破れてしまうんじゃないかしら……)


 待ちに待った言葉で早鐘を打つ心臓を抱えて、泣き笑いするルナビア。


 自分が悪役令嬢だと知ってから、こんなに幸せな気持ちになれるとは思わなかった。諦めていた人生、それでも少しずつ色づいていた人生が、ここで一気に満開になった気がする。


 ――悪役令嬢に生まれ変わってしまったけれど、もう少し、この国で生きることに期待をしてもいいのだろうか。


「もちろん、もちろんよ! ウィルしかいないわ!」


 愛しているわと叫びながら、思い切り最愛の人の胸に飛び込む。

 その人は尻もちをつきながらもしっかりと抱き留め、もう絶対に話さないと微笑んだ。


 どちらからともなく顔を寄せ、唇を重ねる。


 初めてのキスは、この世界の優しさを全部詰め込んだような感覚だった。



 ***



 親友の言葉に応えて、その腕に抱き留められる妹のようすを見届けると、ソルジールは木の陰からそっと抜け出した。


「さあさあお父様、大急ぎで婚約の手続きを進めてくださいよっと」


 小走りで屋敷に戻り、父エドモンドの書斎に向かうソルジールの背中は、とても幸せそうだった。

きっとルナとウィルが父と兄に報告しに行くと、ふたりは書類一式を完璧に揃えて、満面の笑みで待ち構えていると思います。

ルナは嬉し恥ずかしで「キイッ!」ってなるんだろうな……。


タイトルの「 」の中身は皆様で考えてみてください。


ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

ブックマークや評価などが本当に嬉しく、心から感謝しております。

初めての投稿で完結までたどり着けたのは、読者の皆様のおかげです。


この物語はここで区切りとし、気が向いたら(そして需要があれば)小ネタを投稿しようと考えております。もし「こんな話が読みたい!」などリクエストがあればどうぞ。


よかったら★の評価、最後にお願いします。


本日より新作を投稿しておりますので、よろしければご覧ください。


ありがとうございました!!!!

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