16.試験なんて余裕です
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本編に戻ってきました!
今日は魔法の実技試験当日。
余裕そうなルナビアの横で、ぶつぶつと要点を呟くエスメグレーズと、必死でノートを読み返すパドメ。
今いるのは試験の順番を待つ生徒用の教室で、順番がくればグループごとにグランドにある試験会場に呼ばれることになる。
(魔法が使えるのは嬉しいわ。転生して良かったと思える点よね)
この世界では貴族のみに魔力が宿り、火・水・風・土など数十の属性に分かれた魔法が使える。大体の場合、相性が合う属性が1つか2つに絞られるため、それを自分の属性として学び鍛える。
ちなみに平民は魔力を持たないが、巷には魔法石を埋め込んだ生活魔道具――前世の洗濯機やドライヤーのような家電――が普及しており、魔法が使えなくても十分生活していける。
パドメのような平民に近い立場のものは魔力が少ないことが多く、魔法を効率よく出力するため魔力を正確に練り上げタイミングよく呪文を唱える必要がある。
ルナビアやエスメグレーズのような高位貴族は生まれ持った魔力が高いことが多く魔法は難なく放てる一方、魔力のバランス調整に苦労する者も多い。
「ルナ様は余裕ですこと!」
エスメグレーズはピリピリしながらそう言った。
「まあ、得意な属性だけでいいのだから気が楽ね」
「得意な属性……。選べるのが羨ましいです……」
「一通りは入学前に家庭教師から習っているし、王妃教育で教え込まれていた時よりも気楽だわ」
「「一通り」」
「へ?」
「一通りとは、ルナ様の属性の魔法についてですわよね?」
「ええ、風魔法と治癒魔法については一通り。あとは属性魔法以外もさらっと一通り使えるわ」
それが?という目でこてりと首を傾げるルナビア。
エスメグレーズとパドメが若干引き気味な気がするが、きっと気のせいだ。
「ルナ様は、属性魔法以外もさらっと使えるのですか? いつそんな練習されているんですか?」
私なんて自分の属性魔法でさえ必死なのに、と恐ろしいものを見るような目でパドメがこちらを見てくる。失礼な。
「得意なのが風魔法と治癒魔法なだけで、それ以外も適当にレベル上げしているわよ? そういうものでしょう? ソルお兄様がそう言っていたもの。ただ、休暇の時に領地でしか練習しないわね」
「そういうものではないと思います……」
パドメ、そのヒェッという顔をやめろ。
「やはりお忙しいので休暇くらいしか時間が割けないのですね?」
「いいえエスメ様。王都で思い切り魔法を使うのはやめなさいと、私も兄もお父様から禁止されていますの。昔は兄とふたりで勝手に魔法を使って、よく家を破壊していたけれど、まあ兄が留学したのでそういうこともなくなったわね」
「え……。ソルジール様が家を壊すという話は噂に聞きましたけれど、ルナ様もだったのですね……。ショックですわ……」
「なにかしらその噂?」
「ソルジール様って、ルナ様のお兄様で神童、鬼才と名高い方ですよね?」
「そうよパドメ。魔法大臣のルクレシア公爵を凌ぐ才能と言われていて、飛び級に飛び級を重ねて今は帝国の魔法大学に交換留学されているのですわ。次期魔法大臣の座もほぼ決まっているようなものですわ」
「へえ! うちのルーカス兄さんとは全然違いますね」
「魔法省の魔導士をまとめて吹っ飛ばしたことがあるとか」
「えええ! そんなことできるんですか? 私たちとひとつ歳が違うだけですよね?」
「そんなこと、やろうと思えば誰でもできるでしょう? ソルお兄様はちょっと変わっているけど優しいわよ?」
「「へえ……?」」
何故かこいつおかしいんじゃないかという疑いの目を向けられたため、もう少し言い返そうとしたが、ちょうどルナビアたちの順番が回ってきたためお開きとなった。
***
実技試験はグラウンドに立てられた的を自分の属性魔法で攻撃すると言うもので、20メートルほど先の人間サイズの的を少しでも傷つけられればよい。
この学園に通うような令息令嬢であれば、普段の外出には使用人などの護衛がつくが、簡単な自己防衛ができる程度には魔法を身につけさせたいのだろう。
ルナビアは自分の順番になると、ひょいと風大砲を繰り出した。
「よいしょ」
ズドオオオオオオオンンンン……
「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」
「うわあ! えぐった! ねえ、地面ごとえぐれて的が消し飛んだ!」
「こっわ、ソルジール様の陰に隠れて妹のほうもえぐい」
「ごほっ、げほっ」
轟音とともに的が消し飛び、直径5メートルのクレーターが出現したことで、周囲が騒然とする。ちなみに的の近くに控えていた試験官役の教師たちのなかでも数人は、咄嗟に防御壁を張り損ねたのかズタボロの様相だ。
「あら? ごめんなさい?」
ズタボロ教師に申し訳なくなって、手早く治癒魔法を掛けていく。回復効果のある光の羽がルナビアを中心に教師たちのところまで、広範囲にふわふわと舞い降りた。
(狙いはよかったけど、もう少し威力を落とせばよかったわね)
ルナビアがやれやれと溜息をつきながら、こつんと地面を蹴ると、地面が揺らぎ先ほどできたクレーターが埋まっていく。
「凄すぎる……。的をピンポイントで抉ってる。なにあの威力」
「治癒魔法をあんなに遠距離に。聖女のような力だ……」
「治癒魔法もすごいけど、属性魔法じゃない土魔法をあんなにすんなりと」
「王妃じゃなくて魔導士になるべきでは?」
(うーん。ソルお兄様に比べたらまだまだねえ。お兄様ならもう少しぐっと射出範囲を狭めてこういうふうに)
あれこれと振り返るルナビアをよそに会場の混乱は収まらず、試験は一時中断となったのだった。
エスメグレーズとパドメも同じタイミングで魔法実技の試験を終えているはずなので、合流するために探すことにした。
しずしずと廊下を進むと、周囲から「試験会場が消し飛んだらしくて……」という囁きが聞こえてくるが、大袈裟なことは言わないでほしい。ちゃんと直したもの。
「あ、エスメ様」
「ルナさまああ!」
エスメグレーズがぶんぶんと手を振り「しまった」という顔をしてから、令嬢らしくすました表情で近づいてきた。
「パドメは一緒ではないの?」
「ルナビア様が会場を破壊したときにまだ試験を終えていなかったので、まだ足止めされていましたわ」
「直したけれど?」
「すごかったですわ! 物凄い威力の風大砲に広範囲の治癒魔法、しかも属性ではない土魔法をあんなにスムーズに!! 見ていて恐ろしかった、いえ、感嘆いたしましたわ!」
「ちょっと聞き捨てならないわね?」
「えええっと、ルナ様はもう王妃じゃなくて魔導士になればいいって話で持ち切りでしたわ!」
「でも私は王太子殿下の婚約……者じゃないんだったわ」
「そうですわ! ルナ様がお望みであれば国家魔導士を目指すことも可能ですわよ!」
「なんとなく忘れていたけれど、婚約は正式に破棄していただいたのだったわ。で、転生者云々はまだお父様がはねつけていて。そういえばクリス様をお見掛けしないわね?」
「当然ですわ!? クリストヴァルド王太子殿下は国王陛下のお怒りを受けて謹慎なさっているそうですわ。学園どころか王宮の外にも出られませんわ」
「へえ?」
「興味がなかったんですわね……。ちなみにサマンサ様は辺境の修道院に送られて軟禁されていると聞いておりますわ」
「あら、辺境のどこの修道院かしら? 南西のあそこなら最近厨房施設を入れ替えたから食事が美味しくなったはずなの」
「そこまで存じ上げませんわ……」
そこかよと言わんばかりの表情のエスメグレーズと、そこよと言う顔のルナビアが見つめ合う。こほんと咳払いをして先に折れたのはエスメグレーズだった。
「王太子殿下と言えばですけれど、廃嫡されるという噂ですわ」
「ええ!? 何もそこまですることないんじゃない?」
「救国の転生者に喧嘩を売って、王位を継承できるわけないですわ!」
「まだ私は国を救うつもりがないのだけど……。荷が重すぎるのよ……」
「でも巷では月の聖女様だと評判ですわよ? 私もそう思います。パドメと友人になることが出来たのもルナ様が手を差し伸べてくださったおかげですわ」
最後の方、エスメグレーズは少しもじもじとして付け加えた。
「……これまでの方々が偉大過ぎるのよ。私だけしょぼい、いえ、心許ないじゃない。並べないでほしいわ。レベルが違いすぎて祟られるわよ」
エスメグレーズは祟られませんわッとすかさず否定した後、周囲を窺うように声を低くして言った。
「はっきり言って、私どもはルクレシア公爵家が後ろ盾になるというから、あの能天気な王太子殿下を支持していただけですもの。そうでなければ優秀な弟君のステファニウス様が王位を継承されるべきですわ」
(でもステフ様はクリス様の10歳年下でまだ7歳。王太子として国王陛下をお支えできるようになるにはあと数年かかる。クリス様が田舎に飛ばされてしまったら、とても不安定な政権になるでしょうね)
「まあ、ルナ様がどうであれ、今の王太子殿下は魂が抜けた廃人のような有様で、とても公務をこなせる状態ではないそうですわ。きっと王位継承権も何もかも返上して、どこか田舎の領地で細々と暮らすのではないのですか?」
あんな方のために納税するのはうんざりですわとエスメグレーズが息巻く。
(あの自信満々なクリス様が廃人ねえ……)
まさか王家がそんなことになっているとは思ってもみなかった。
いや、よく考えればわかることだが、面倒臭くて考えないようにしていた。
それならいっそのこと気づきたくなかったと、ルナビアは物憂げな表情でくるくると銀髪をもてあそんだ。
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そうでもなかったな……と言う場合は少なめで。
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