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13.閑話 弱虫姫と……(パドメサイド)

お読みいただきありがとうございます! 評価(☆のやつ)もつけてくださって嬉しいです……!!


ヒロイン役のサマンサよりもずっとヒロインなパドメのお話。ここから3話だけお付き合いくださいませ。

 赤毛の女子生徒が校舎裏の庭園をとぼとぼと歩いている。嗚咽を堪えるようにきつく結ばれた唇がふるふると震え、ぽたりぽたりと涙がこぼれる。


 パドメ・キーリッシュはいつもの木陰にたどり着くと、膝を抱えて座り込んだ。


(こんな高位貴族だらけの学園なんて……場違いにもほどがあるわ……)


 男爵といっても名ばかりのキーリッシュ家では、平民とほとんど変わりのない生活を送っていた。両親は優しくて大好きだが、男性である兄ルーカスと違って何かと物入りな娘のために、洋服や靴を用意するのに苦労しているのが伝わってきて辛い。


 今日着ているワンピースだって、手持ちの中では特別上等なはずなのに、教室では一番質素、いや惨めにさえ見えてくる。


 授業にだってついていくのは簡単ではない。他の令息令嬢たちは幼いころから家庭教師に叩き込まれてきた魔法の基礎だって、パドメは学園入学前に慌てて自分で調べた程度の知識しかない。


 そこにきてルーカスの不祥事だ。主犯は王太子とサマンサ嬢とはいえ、ルーカスがその2人に付き従い、声高に王太子の婚約者だったルナビア嬢を断罪した――しかもその全てが間違いだった――のは周知の事実だ。


 ルーカスの妹、キーリッシュ家の娘。そう言われて後ろ指を指されている状態では、ただでさえ馴染めていない学園生活が楽しいわけがなかった。


 勉強ももっと頑張らなくてはいけないのに上手くいかないし、兄にだって注意すべきだったのにできなかった。


「もういや……。消えてしまいたい……」


「き、消えるのは良くないんじゃないか……?」


 むせび泣きながら消え入りそうな声でそう呟くと、驚くことに返事が聞こえてくる。パドメがぎょっとして顔を上げると、濃緑の髪をした青年がおずおずと立っていた。


「ご、ごめんなさい……」


 泣いた顔も拭かずにみっともない顔を向けてしまった。パドメは動転してとにかく手で顔を覆い隠した。


「こ、こちらこそ急にごめんね。よ、よければハンカチを……」


 すると濃緑の青年も、何故だか少し動転した様子でハンカチを差し出してきた。いや、むしろ押し付けてきた。押し付けられたら断ることもできず、パドメはハンカチを目元に押し当て「とてもお恥ずかしいところを見せてしまいました」と赤面した。


「い、いや、そんなことはないよ。そうだ、恥ずかしいついでに泣いていた理由を聞かせてくれないか? き、君がよければだけど……」


 最後の方はほとんど消え入りそうな声で「僕の名前はレオン・ケインズナー……」と告げてくる。迷うような言動とは裏腹にその表情はパドメを心底心配しており、気づいたときには問われるがままに理由を話していた。


 話を聞き終えたレオンの第一声は


「自分を責めすぎないで」


 だった。


「で、でも私……」


「とても辛いのはわかる。僕だって学園に馴染めていないし……。でも、苦労しているのはこれまでの環境のせいであって、キーリッシュ嬢のせいではないし、お兄さんのこともそうだよ。キーリッシュ嬢が消えてしまう必要はないと思うな」


 目の前で消えられるととても怖い、そういって頼りなさそうにへらりと笑うレオンにつられて、パドメの表情も徐々に明るくなってくる。


「僕も実は苦労していることがあって」


 そういうとレオンは優し気なたれ目をわざとらしくしかめ、年の離れた妹が強くて口喧嘩ではいつもこてんぱんにやられていること、そもそも言い返すのが苦手なこと、あまり軟弱ならば子爵家を妹に継がせると脅されているが、本当はそうなれば気楽だと思っていることなどを、面白おかしく話してくれた。


「あははっ、全然だめじゃない!! あ、ごめんなさい」


「いいんだ、臆病なのは本当のことだもの。キーリッシュ嬢の方がずっと強いよ」


「……そ、そのキーリッシュ嬢というのも慣れなくて。できればパドメと呼び捨てていただけないかしら? お嫌なら無理強いはしませんわ」


 レオンがびくっと身を震わせたので、また場違いなことを言ってしまったかしらと不安に思っていると、レオンも遠慮がちに「なら僕のこともレオンと」と言ってきた。


「レオン様?」


「いや、ただのレオンでいいよ。弱虫同士、気軽に話そう」


 弱音を吐き合う仲間ができたのがとても嬉しくて、それからパドメは何かとレオンと話すようになった。あまり近づいたらレオンにも傷がつくのではないかとの思いから、初めて出会った木陰でこっそり落ち合うようにしている。


 パドメとレオンはクラスが違えど同じ学年だったので、今日もあれができなかった、これに言い返せなかったと情けない愚痴を言いながら、お互いに勉強を教え合っていて、それはもう楽しい時間だった。


「私、たぶんレオンしか友達がいないわ! なんて社交性がないのかしら。どうしよう!」


 しまったわ、両親に叱られちゃうとパドメが笑うと、レオンが何かを言いかけてやめた。気になるから教えてと詰め寄ると、ぷいっと顔を背けられてしまった。


「……ぼ、僕も友達がいないから。同じだなって」


「……もう知っているわ?」


 パドメがいつもの「ばれていたか!」とおどけた返事を期待していると、どうしたわけかレオンからは一向に何も返ってこない。


 そっと隣に座るレオンの様子をうかがうと、心なしか熱のこもった視線を浴びてしまい狼狽えてしまう。


(こ、困ったわ……)


 レオンとは弱虫仲間だから、視線に込められた意味だってわかってしまう。でもパドメは弱虫だから、何も言わずにやり過ごしてしまったのだった。


 なんとなく気まずい空気のまま、パドメとレオンは下校するために玄関に向かっていた。


(ど、どうやって話せば良かったんだったっけ?)


 お互い戸惑いながら歩いていると、パドメを呼ぶ声がした気がして、自分を呼び止めるような人がいただろうかと訝しげに足を止めた。声の方向を見てみると、黒髪を縦ロールにした令嬢とその友人が5人で軍団を組み、淑女が出して差し支えない範囲ではトップスピードでこちらに近寄ってくる。


「ちょっとお待ちなさいッ」


「そうよ無視しないでちょうだい」


「え、ええっと?」


 そうよそうよと勢いよく詰め寄られ、タジタジになったパドメが助けを求めて隣を見ると、レオンもレオンで固まってしまっていた。


「パドメ・キーリッシュ様、お話がございますのでこちらに来ていただいてもよろしくって!?」


 縦ロール令嬢はそういうと、パドメの手をガシリと掴んで中庭の方向に引いていく。パドメの前後左右を友人たちが絶対逃がさないとばかりに囲んできた。


 パドメは最後の望みをかけてレオンの方を見たが、目が合った瞬間にレオンが困ったように視線をうろつかせ、無言でふっと顔を下げてしまった。


(あ、だめなやつだ)


 パドメはレオンから引きはがされ、縦ロール軍団に連れ去られたのだった。

続きが気になると思っていただけたら、下にある――ブラウザによっては物凄く下にあります――【☆☆☆☆☆】を多めにつけてくださると嬉しいです。


そうでもなかったな……と言う場合は少なめで。


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