第5話 その頃アストンのパーティは(Ⅰ)
「おい、アストン聞いたか?」
王都の特区にほど近い高級宿で、アストン達のパーティは浮き立っていた。
「ああ、フェンネル卿の直々の依頼だ。腕が鳴るな」
王都の七大貴族の一つから、魔獣討伐の依頼がきたのだ。
魔獣退治など冒険者に依頼を出す時は、ギルドに頼むのが一般的だ。
すると、ギルドからクエストという形で公募を出し、腕に覚えのある冒険者達が挑戦する。そして、成功した者に報酬が払われるという仕組みだった。
しかし、気に入ったパーティがある場合は、スポンサーとなって直接依頼することもできる。フェンネル卿は、アストン達の噂を耳にし、是非にと依頼をしてきたのだった。
「ゼノスの野郎を追放した途端にこれだ。いきなり運が向いてきたな」
「やっぱり貧民街の野郎がいたせいで、これまで運気が下がっちまってたんだよ」
「ちげえねえ」
皆で大笑いをする。
依頼内容は、ファイアフォックスという魔獣を狩って、その毛皮を持ち帰ること。
毛の一本一本が、赤く熱を帯びており、防寒具や錬金術の高級素材として知られている。なんでも娘さんの記念日に、マフラーにしてプレゼントをしたいらしい。
討伐ランクはB+。
熟練のパーティでないと厳しめだが、アストン達はこれまでに何体ものA級魔獣の討伐にも成功していた。ファイアフォックスに遭遇したことはないが、今回もおそらく余裕だろう。
「俺の剣と、ユーマの正確無比の弓術。アンドレスの破壊魔法、それにガイルの防御魔法があれば何も問題はない」
「荷物番がいないのだけが残念だけどな」
ガイルが軽口をたたき、再び皆で笑い合う。
今回の任務に成功すれば、七大貴族の一角とお近づきになれるわけだ。
将来的には貴族の仲間入りも決して夢ではない。
「俺達の輝かしい前途を祝して、乾杯!」
アストンは、グラスを高く掲げた。
討伐の日が今から待ちきれない思いだった。
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