第327話 魔族退治
前回のあらすじ)生贄を要求する魔族。父の代わりに生贄になろうとしている宿の女主人を眠らせ、勇者パーティは魔族を倒しにむかった
山頂には古い祭壇がある。
そこで待つのは、三本の角を持つ大柄な魔族だった。
筋骨隆々とした青い肌のその魔族は、魔王が率いる魔族軍の幹部の一角――獄魔のガグレオだ。
「早く食わせろ」
ガグレオは口元を拭いながら言った。
その気になれば、村など一瞬で滅ぼせる。だが、それでは面白くない。
悲壮な思いでやってくる生贄の、絶望に染まる顔を眺めながら食うのが楽しいのだ。
人間たちには今回が最後の生贄で、それが終われば呪いを解いてやると話しているが、勿論そんなつもりは毛頭ない。
一年間それなりに楽しんだ。後は皆殺しにして、また次の遊び場を探す。
魔王の腹心であるメフィレトからは、もっと人魔戦争の支配地拡大に協力するように言われているが、人間はおもちゃなのだ。もっと楽しまなくてどうする。
「ん……」
山道から現れたのはローブに身を包んだ女だ。弱弱しい足取りで祭壇へと近づいてくる。
「お前が最後の生贄か」
女はか細い声で答えた。
「……はい。これで村の皆は助けて頂けますか?」
「ああ、勿論だ」
ローブに手をかけて下ろすと、黒髪の、端正な顔立ちの女だった。
その赤い口元がにやりと持ち上がる。
「くくく……下手な嘘じゃ。部下も連れずに来るとは魔族は傲慢よの。その傲慢さが身を亡ぼす」
「……なに?」
――《発光》
女が右手をかざすと、眩い光が当たりを照らした。一瞬目を奪われた瞬間、女が声を上げた。
「ダンゼルト!」
「おっしゃああっ!」
背後から獰猛な何かが近づいてくる。咄嗟に身をかわすが、振り下ろされた大剣によって左手が吹き飛んだ。土くれが爆ぜ、土砂が盛大に舞い上がる。
「……っ?」
ガグレオは怪訝な表情を浮かべた。人間ごときの一撃では、鋼の皮膚に傷一つつかないはずだ。
一体何が起こった。
「馬鹿ものっ、外してどうする。せっかくわらわが気をひいてやったというのにっ」
「だって、一撃で倒したら面白くねえだろうが」
「なんと、わざと外したのかっ。貴様はアホかっ」
「よく言われるぜっ」
女と男が言い合いをしている。
が、すぐに二人の意識はこっちに向かい、剣と魔法で攻め立ててきた。
「ぐ……」
一撃一撃が重く、速い。
男の振るう剣が嵐を巻き起こし、防ぐのがやっとだ。隙をつこうとしても、女の魔法がとんでもない速度でうち出され、失った腕を再生する暇すらない。
「貴様らはなんだ?」
「通りすがりの天才美女賢者じゃあ」
「ぐははは、俺ぁダンゼルトだっ。強えじゃねえか、魔族。もっとやろうぜ」
「大馬鹿ものっ、正直に名乗ってどうするっ」
「あ? 別にいいだろ。どうせこいつはここで倒すし」
「はあ、頭が痛いわ。これで絶対に逃がす訳にはいかなくなったの」
「なん、だ……?」
人魔戦争が始まっておよそ百年。これまでに数多の人間を葬りさってきたが、いずれも見たことのないタイプの人間だ。
しかし、強い。信じられないほどに。
押されている。魔王軍幹部の自分が。
「ぐがああああっ!」
ガグレオが吠え、皮膚が青から赤へと変化していく。
このままでは分が悪いことを認識。
一気に第三形態へと移行して蹂躙する――
「……っ」
そこでガグレオは息を呑んだ。左の脇腹から刃が突き出ている。
振り返ると、背後に小柄な少年が身をかがめるようにして、剣の柄を握っていた。
「ここだけかばうように戦っていましたね。あなたの魔核はここですね」
「……ぎ、が」
魔核。魔族にとっての心臓であり、力の源。
それを正確に貫かれた。
「嘘、だ」
初めての予感に、ガグレオの芯が冷える。
敗北の予感。死の予感。
こんな事態は想定すらしていなかった。
人間はただの獲物であり玩具。そのはずだったのに――
「ぎあああっ!」
背中から羽根を生やし、この場を離脱しようと飛び上がる。
だが、できなかった。少し浮いたところで、見えない壁に阻まれたのだ。
「もうこの一帯は結界で封じています。逃げられませんよ」
見ると、青い髪の女が木陰で微笑みながら佇んでいた。
そしてガグレオが何かを言う前に、男の大剣と、黒髪の女の津波のような魔法が襲いかかってきた。
「アァァァァァッァ……」
そんな小さな断末魔の悲鳴が、魔王軍幹部、獄魔のガグレオの最後の言葉となった。
塵となって消えていく魔族の姿を眺めて、ダンゼルトが笑う。
「ぐはは、楽しかったな。もっとやりたかったぜ。次回は一人でやっていいか?」
「馬鹿者。勝てたのは敵が油断しておったからじゃ。本領を発揮する前になんとか倒せた。次にわざと外すような真似をしたら呪うぞ。のう、セーラ」
「神様、私の善行を見ていて下さいましたか?」
「駄目じゃ……聞いとらん。こんなパーティで大丈夫か……?」
溜め息をついたカーミラは、茫然と佇んだままのエリクに目を向けた。
「どうしたんじゃ、エリク」
「あ、いえ……僕、みんなと会うまではずっと一人で魔境で狩りをしていたので……」
そうつぶやくと、エリクは嬉しそうに笑った。
「確かに皆さん個性が強いですけど……でも、なんだか、改めて思いましたけど……僕たちは最高のパーティですねっ」
最高のパーティ
次回もアニメ放送日の木曜日に更新予定です。
アニメは本日6/5(木)第10話放送開始となるので、よろしくお願いします!
【地上波】
TOKYOMX:毎週木曜 23時30分~
BS11:毎週木曜 23時30分~
サンテレビ:毎週木曜 24時00分~
KBS京都:毎週木曜 24時00分~
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アニメは2025年4月3日(木)より放送中です。
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