第324話 神を愛しすぎた女
前回のあらすじ)脳筋剣士ダンゼルトが仲間になった
ダンゼルトを仲間に加えたエリク、カーミラは再び大陸を南下していた。
「こりゃひでえな。瓦礫しかねえじゃねえか」
山道を抜けてしばらくして、ダンゼルトが立ち止まってつぶやく。
三人の目の前に広がるのは廃墟と化した街だ。
宗教都市ベルツリット。
かつては多くの神殿や教会が林立し、大陸中から信者が集まる一大都市だったが、魔族の侵攻によって今は瓦礫の山へと変わり果ててしまっている。
「こんなところに立ち寄ってどうするつもりじゃ、エリクよ」
「勿論、新しい戦力を獲得しに来たんですよ」
「……?」
カーミラとダンゼルトは顔を見合わせる。
「ここでか?」
抜けるような青空の下、街は無音で、風の音だけが寂しげに響いている。
何か有用なものがあるようには見えないが、エリクは笑顔で言った。
「皆さんはカーティス教会の奇蹟を知ってますか?」
「はっ、俺が知る訳ねえだろ」
「なんで自慢げなんじゃ。わらわは聞いたことはあるぞ」
胸を張るダンゼルトに突っ込みつつ、カーミラは頷いた。
ベルツリットは数年前に大規模な魔族の侵攻にさらされ、人々は逃げ惑い、建物は軒並み破壊された。しかし、神を信仰するかつて最大規模を誇ったカーティス教団の本部の建物だけは、奇跡的に破壊を免れたという。
瓦礫の中に勇ましく屹立する教会の姿は、魔族に立ち向かう象徴として一時期もてはやされたが、だからといって魔族との戦況が改善する訳でもなく、いつしかあまり話題にする者もいなくなった。
「それがあれだと思うんです」
エリクは街の北東部を指さす。
確かに積み上がった瓦礫の奥に、原型をしっかり留めた真っ白な外壁の教会があった。
「ほーお、なかなか根性ある建物じゃねえか」
「建物に根性などないわ。建材に魔力加工がなされておるのか?」
ダンゼルトを横目で眺めて、カーミラは言った。
由緒ある教会らしいので、建材の一つ一つに防護の魔力が込められているのだろう。
それでもあれだけ大きな建物になると、腕のいい魔導具師が大人数で何年もかけて取り組まなければならなかっただろう。
「魔族の侵攻で傷一つつかないとは、大したものじゃな」
「いえ、それが以前ベルツリットから逃げ出した人の話を聞いたことがあるんですが、建材への魔力付与はとっくに劣化していてほとんど機能していなかったみたいなんです」
「……どういうことじゃ?」
「それを確かめようと思って、ここに来たんです」
エリクの先導で、一同は教会へと向かった。
入り口の扉をゆっくりと押し開けると、そこは広々とした礼拝堂だった。
戦火の只中にあったとは思えない整然とした内装。
静謐な空気の中に、佇む人影があった。
「お客様ですか? 何年ぶりでしょう」
振り返ったのは、修道服をまとった濃紺の髪をした若い女だ。
女は品のある所作で頭を下げてくる。
「初めまして。私は修道士のセーラ・ビネットと申します。お腹をすかせていませんか? 神の御心に従い、施しを授けましょう。畑の野菜を使ったスープでもお出ししましょうか」
「おぉ、助かるぜ。でも、あんたこんな廃墟に一人で住んでんのか? 監獄みたいに寝てても飯が出てくる訳じゃないだろ。不便じゃねえか?」
ダンゼルトの言葉に、セーラと名乗った修道女は微笑みながら答えた。
「何をおっしゃいます。こんなに最高の環境はありませんよ。だって神様と二人きりで過ごせるのですから」
「……」
カーミラは眉をひそめて、エリクと目を合わせた。
ダンゼルトはぽりぽりと頬を掻いて礼拝堂を見回す。
「ふーん、そういやここは教会だったな。教会なんて初めて入ったぜ」
そのまま祭壇に近づこうとしたダンゼルトだが、ふと足を止めた。
そこに見えない壁があるかのように身体が前に進まない。
「ん? なんだこりゃ? 足が進まねえ」
首をひねるダンゼルトに、セーラという修道女が鋭く告げる。
「お客様、それ以上神様に近づかないで下さい」
「ん、そりゃどういう……?」
言い終わる前に、ダンゼルトの目の前の空間が七色に輝き、剣士の身体が吹き飛ぶ。そのままダンゼルトのがっしりとした体躯は、礼拝堂の半開きの扉からごろごろと外へと転がっていった。
「うおぉっと、何が起こった?」
首をこきこきと鳴らしながら立ち上がったダンゼルトを見て、カーミラはつぶやく。
「……結界魔法か」
空間に結界を張り外敵の侵入を防ぐ、高度な魔法の一種だ。
魔法陣も詠唱もなしに、あのダンゼルトを吹き飛ばすとは、相当な技量だと思われる。
そして、カーミラは思わず息を呑んだ。
「まさか――」
このカーティス教会は、大規模な魔族の侵攻にも傷一つ負わない奇蹟の教会と言われている。
てっきり魔力を帯びた建材のおかげかと思ったが、劣化しているらしく、確かに外壁に魔力は感じない。
では、どうして街を瓦礫に変えるほどの魔族の苛烈な襲撃の中で、この教会だけが無事だったのか。
その答えが目の前にあることにようやく気づく。
祭壇の前に立つセーラは、翡翠色の瞳を細めて言った。
「魔族だろうが、人であろうが、何人たりとも私の許可なく神へ近づくことは禁じます。だって、神様は私だけのものですから」
私だけのものですから
次回もアニメ放送日の木曜日に更新予定です。
アニメは本日5/15(木)第7話放送開始となるので、よろしくお願いします!
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