第323話 腕試し
前回のあらすじ)剣聖にも勝利したという監獄に囚われたダンゼルトという脳筋男を仲間に誘ったが、実力を見せろと言われた
そのままバルミューラ監獄を脱出したエリク、カーミラ、ダンゼルトの三人は、監獄から離れた湿原で向かい合っていた。
ダンゼルトが首をひねって言う。
「しかし、看守どもが根こそぎ寝てたな。一体どうなってんだ」
「エリクの不意打ちと、わらわのまじないじゃ」
「へっ、この俺を仲間に誘うだけあってやっぱり只者じゃねえみてえだな。そろそろ何者か教えろ」
エリクがこくりと頷いて言った。
「僕はエリクです。ゴルダナ霊峰で育ちました」
「おいおい、魔境育ちとはいきなりパンチのある自己紹介じゃねえか。女、お前は?」
「その呼び方は気に食わんの。わらわには絶世の美女、世界最強の大賢者カーミラ様という名前があるでの」
「なるほどな……確かに絶世の美女だな」
「いや、突っ込まんのか」
真面目に反応されるとそれはそれでやりにくい。
ダンゼルトは拳をばきばきと鳴らした。
「よぉし、覚えたぜ。メリクに、ファーミラか」
「全然覚えておらんではないかっ。貴様の脳は鳥並みかっ」
「へっ、褒めるなよ。照れるじゃねえか」
鼻をこするダンゼルトを、カーミラは呆れた顔で眺めた。
「……駄目じゃ。この男はここで捨てていかぬか、エリクよ」
「なんでですか? 面白いじゃないですか」
あぁ、こいつも駄目だ。
「まさかわらわが突っ込み役にまわることになるとは……」
溜め息混じりにつぶやくと、ダンゼルトがいきなり飛び掛かってきた。
「何言ってるかよくわかんねえが、歯ごたえのある相手なら戦っているうちに覚えるぜ。さあ、楽しもうぜっ!」
監獄で拝借した衛兵の剣を、ダンゼルトは真っすぐに振り下ろす。
ゴウッ!
大地が爆ぜた。地中で巨大な爆発が起こったかのように、下生えが根こそぎ空を舞い、土くれが雨のように降り注ぐ。
「うわわ」
「なんという馬鹿力じゃ」
エリクが慌てて身をかわし、カーミラは黒衣を翻した。
ダンゼルトは身体強化の魔法を使っているようにも見えない。ただ軽く素振りをしたようにしか見えないのにこの威力。素の力が図抜けているという訳だ。
「《火炎弾》」
カーミラは杖をダンゼルトに向けて、呪文を唱えた。
杖の先から一抱えもある火の球が発射される。
「おらああっ!」
しかし、ダンゼルトは剣を振り上げると、迫りくる火球を一刀両断した。
左右に分かれたファイアボールが湿原に黒い焦げ跡を残す。
「魔法を切るとは。一体なんなんじゃ、貴様は」
「俺ぁ、ダンゼルトだ」
「それは知っとるわ。駄目じゃ。こやつ話が通じないんじゃった」
カーミラは杖から火炎弾を連続で放ちながら溜め息をつく。
一方のダンゼルトは、火の球を切り裂きながら、徐々に近づいてくる。
「やるじゃねえか、フォーミュラ。イキのいい花火だぜ」
「名前も間違っとるし、花火でもないわっ。魔法くらい知らんのか」
にやりと笑って、ダンゼルトは頷いた。
「ああ、なるほど、そういや魔法は色んなことができるんだったな。俺ぁ、魔力がなかったからよぅ、魔力がなくても世界一になれる剣士に憧れてたんだ。それで裏山でいつも修行してたんだ」
爆炎と爆音の中、唐突に自分語りが始まった。
やはり読めない男だ。
「で、ある日古びた剣が洞窟の奥に刺さってるのを見つけてよ。せっかくだから引っこ抜いてそれで修行を始めたんだ」
ところが――、とダンゼルトは言う。
「その剣がとにかく重くてよぉ。持ってると冷や汗が止まらねえし、吐き気もしてくるし、意識も飛びそうになるし、変な声聞こえるし。しかも手放そうとしても、手の平にくっついたみてえになってまるで離れねえんだ」
「まさか……」
「村の呪術師が言うには、大昔に封印された呪われた剣だったらしい」
「馬鹿じゃ。ここに馬鹿がおる」
「あぁ? 俺はそうは思わねえぜ。そのおかげで強くなれたからなぁ」
あらゆる状態異常がふりかかる呪いの剣。それでも雨の日も風の日も一心不乱に振り続けているうちに、常人が決して到達できないレベルの膂力と体力と状態異常耐性を身に着けるに至ってしまった。
「まさか呪いを逆手にとって強くなる者がおるとはのぅ。ちなみにその剣はどうした?」
「あぁ? 五年くらい使ってたら壊れたぜ」
「めちゃくちゃじゃな。呪いを込めた者の呪術が頭の中に響かなかったか?」
「そういや四六時中なんか言ってたけど、難しくてよくわかんなかったな。何度も聞き返してたらそのうち黙った」
「ひーひひひひっ、なるほど。馬鹿と言ったのは訂正しよう。貴様は大馬鹿じゃ」
そして、えてして大きな事を成すのはそういう人間だ。
カーミラは後ろに跳んで笑った。
「ならば、わらわも少し本気を出そう」
「はっ、これが本気か? さっきと変わらねえじゃ……」
ダンゼルトはそこで黙った。
火球が次第に大きさを増していたのだ。
最初は頭くらいの大きさだったものが、今はダンゼルトの背丈よりも大きな塊になっている。
それがとてつもない速さで連射され始めた。
「ぐ、くおおおおっ! なんだこりゃ、てめえ何者だっ」
「だから、言ったじゃろう。わらわは世界最強の大賢者カーミラ様じゃと」
そして、視界が埋まるほどの炎の壁がダンゼルトに迫る。
「面白れえっ! 勝負だっ!」
ダンゼルトは咆哮しながら、手にした剣を思い切り振りあげる。
嵐のような突風と共に、地を割るほどの一撃が、炎の壁を二つに裂いた。
「ほう、これも防ぎきるか。やりよるの」
「はっはーっ! 見たかよ。勝負あったな」
「ああ、勝負は終わりじゃ。のう、エリクよ」
「……っ」
ダンゼルトはそこでようやく、自身の状況に気づいた。
首筋に剣を添えられていることに。
冷たい刃を握るのは、斜め後ろで腰をかがめた少年だ。
反応が遅れたのは一切の殺気を感じなかったから。
「い、いつからだ?」
「あの……十二回くらいチャンスはあったんですが、せっかく白熱した戦いだったので、後ろで興味深く見学してました」
「全く、さっさと終わらさんか。何のためにあらゆる攻撃魔法を極めたわらわが火炎魔法ばかり使ったと思っておる」
「そうか……魔法の連発は、音や気配を消すためか」
ダンゼルトはカーミラを睨んで言った。戦いのことになると、頭が働くらしい。
いくらエリクでも、野生の勘の塊のような男に無防備に近づくのは危険だ。
だから、音や匂い、熱や光で相手の注意を奪うために火炎弾を連発した。
「はっ、なるほどな……はははははっ」
ひとしきり大笑いした後、ダンゼルトはにやりと笑って言った。
「こりゃあ面白え旅になりそうじゃねえか。よろしくな、エリクにカーミラ」
確かに絶世の美女だな
次回もアニメ放送日の木曜日に更新予定です。
アニメは本日5/8(木)第6話放送開始となるので、よろしくお願いします!
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