第322話 三人目
前回のあらすじ)魔境に捨てられたというエリクの生い立ちが明らかになった
「……という訳で、ダンゼルトさんには是非魔王討伐の仲間になってほしいんです」
「あのな、おい」
「駄目ですか?」
「だからな……」
眉の端を下げるエリクに、相手の反応が厳しい口調で返ってくる。
「なんで俺は監獄で仲間に勧誘されてんだよっ!」
希少金属で作られた強固な檻の奥にいるダンゼルトという男は炎のような真っ赤な髪をしていた。
髪と同色の深紅の瞳には、強い凶暴性を宿しているが、今は両手足を特殊な鎖で縛られた状態なので満足に動けない状態にある。
「てめえら何者だ。ここがどこだか知らねえ訳じゃねえだろ」
「はい、勿論」
「重犯罪者ばかりを閉じこめた監獄じゃろう」
檻の前に立つエリクとカーミラは同時に頷いて答える。
ここは大陸中南部にあるバルミューラ監獄。無期刑以上の凶悪犯が収監される陸の孤島であり、犯罪者にとっての鉄の棺桶でもある。
「しかも、ここは監獄の最深部だ。気軽に来られる場所じゃねえぞ。一体何のつもりだ」
男の言葉に、エリクは笑顔で頷いた。
「僕は気配を消して忍び込むのが得意なんです」
「そういうレベルの警備じゃねえだろ」
「さすがにいくつかの関門は突破する必要があったが、そこの見張りには眠ってもらっておる」
「……」
カーミラの言葉に怪訝な表情を浮かべた男に、エリクは親しげに語りかける。
「ダンゼルトさんはイズール国の出身の剣士ですね」
「俺のことを知ってんのか」
「勿論。ただ名のある剣士や軍人に道場破りみたいに勝負を挑んで叩きのめしてしまうため、危険視され、遂に軍隊まで出動してここに捕えられた」
「ひーひっひ、まぬけな奴じゃ」
思わず笑うカーミラを、ダンゼルトは睨みつけた。
「おい、こら、女っ。笑うんじゃねえっ」
「エリク、こんな歩く爆薬みたいな奴を仲間にして大丈夫かえ?」
「はい、最後まで気づかれずに魔王に接近するのが理想ではありますが、魔王城に近づくにつれてどうしても魔族との戦闘が避けられない場面があると思うんです。そういう時に囮になってくれる強力な前衛が必要です」
「囮ってはっきり言いやがったな。気弱そうな顔をして言いやがる」
「イズール国には剣聖と呼ばれた男がおったじゃろう。そっちでは駄目なのか?」
「最近はあまり戦場に出ていないという噂ですし、さすがに名前も顔も知られすぎています。その点ダンゼルトさんは単なる一剣士ですし、今や永久監獄に捕らわれの身でもある。魔族のマークからも外れているはずです。討伐パーティの仲間にぴったりだと思いませんか、カーミラさん」
「なるほどのぅ……」
「って、さっきから勝手に話を進めるな。俺の意見は無視かよ」
「仲間になってくれたら、ダンゼルトさんを外に連れ出します。悪い話ではないと思いますが」
「あぁ?」
ダンゼルトは低い声を出した。
「坊主。俺をなめんじゃねえぞ、俺は自分の意思と信念でここにいるんだ。甘い条件を提示されたからって、ほいほい取引に乗るような男じゃねえんだ」
「では、貴様の信念とはなんじゃ?」
「俺の夢は俺が世界一の剣士だと証明することだ」
カーミラの質問にダンゼルトはそう答え、にやりと笑った。
「さっき剣聖がどうのこうの言っていたな。あいつを仲間にするのはどうせ無理だぜ。俺に負けて引退しちまったからな」
「……ほう? ただのアホだと思ったが、それほどの使い手であったか」
「はっ、アホは余計だ」
「つまり剣聖を倒してしまったから、もうやることがなくなった。だから、大人しく軍隊に捕まってここにいるということか?」
「ああ、ここなら黙って寝てりゃ飯はでてくるしな。わかったらさっさと帰れ」
「やっぱりただのアホじゃの」
「なんだとっ!」
紅蓮の瞳に殺気を宿らせたダンゼルトを、カーミラは冷たく見下ろす。
「剣聖に勝って世界一とはおこがましい。もっと強い相手がおるじゃろうが」
「誰だ、そりゃあ」
「魔王じゃ」
「魔王……」
ぱちくりと瞼を瞬かせるダンゼルトを前に、エリクは嬉しそうに手を叩いた。
「確かにっ。だったら、ちょうどいいですね。世界一強いのは魔王です。その魔王を倒せばダンゼルトさんが真の世界一だと証明できますよ。僕たちとも目的が一致します」
「真の世界一……」
ダンゼルトは眉をひそめて考え込む。
しばらくの沈黙の後、男は納得したように言った。
「……そうか。剣士しか見てなかったが、魔王ってのがいたな。魔族の王……相手にとって不足はねえ」
「その通りです!」
「そんな当たり前のことにも気づかぬとは、まじで賢くないのぅ、ひーひひ」
大笑いするカーミラの横で、エリクは腰をかがめて檻の中のダンゼルトに言った。
「じゃあ、魔王討伐パーティの仲間になってくれますね?」
「確かに悪い話じゃねえ。ただ、一つ条件がある」
「条件?」
首を傾げるエリクを赤い瞳で眺め、ダンゼルトは自身の手足を拘束していた鎖を軽々と引きちぎった。
「俺は弱え奴と群れる気はねえ。俺を仲間にしたきゃ、戦ってお前らの実力を見せろ」
条件がある
次回もアニメ放送日の木曜日に更新予定です。
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