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第320話 エリクの誘い

前回のあらすじ)追放されて森で暮らすカーミラのもとに、エリクと名乗る少年が現れ、魔王退治に誘った

「魔王を、一緒に倒す……?」


 魔法国家フライザードを追放され、魔獣だらけの大森林で暮らすカーミラの元に現れた少年は、素朴な笑顔でそう語った。


 エリクと名乗った少年は、にこにこ顔で頷く。


「そうです。僕と一緒に魔王を倒しましょう」

「却下」

「ええっ、さらっと否定。なんでですか?」

「わらわは面白おかしく生きたいだけじゃ。そんな無謀な挑戦に時間を割きたくないわ」

「無謀……無謀ですか?」


 きょとんとしたエリクに、カーミラは溜め息をついて言う。


「人魔戦争が始まってもうすぐ百年が経つというのに、一向に終息の気配もない。むしろ魔族の領土は拡大するばかり。有名な冒険者も、各国の精鋭たちも軒並みやられてしまっておる。ここから戦況をひっくり返すなど現実的ではないのがわからぬか」

「そんなものですか?」 

「そんなものじゃ。その程度の道理はわきまえよ」

「すいません、僕、山育ちであまり常識がなくて」

「ふん、わかったら帰るがよい。わらわは魔法の研究が大詰めなんじゃ。邪魔をするな」


 カーミラは素っ気なく言って踵を返した。


 背後でエリクがぽつりとつぶやく。


「……そうですか。大陸最強の賢者と呼ばれた方が……自信がないんですね」

「……なんじゃと?」


 ぴたりと足を止めたカーミラは、ゆっくりと振り返った。


「くくく……虫も殺さぬような顔をしておきながら、このわらわに向かってなかなか言うではないか」


 右手に杖を出現させ、その先端をエリクに向ける。


「そこまで言うなら、何か勝算はあるんじゃろうな」

「勝算、というか、魔王さえ倒せば人魔戦争は終わりますよね」


 カーミラはぴくと片眉を持ち上げた。


「……ほう、何も知らぬ訳ではなさそうじゃの」


 魔族の王である大魔王ハデスは、配下の全ての魔族に自らの血を与え、力を強化していると聞く。


 逆に言うと、魔王が滅びれば、魔王の血は効力を失い、それまで魔王の血に頼り切っていた魔族は一気に弱体化する可能性がある。


 当然魔王もそんなリスクは承知の上だろうが、そんなことはお構いなしのようだ。


 つまり、絶対に自分が倒されることはないと考えている訳だ。


 なんという自信。

 なんという傲慢。


 しかし、それこそが魔王が魔王である所以でもある。


「確かに魔王を倒せば、人間は勝利する。じゃが、それが一番難しい」


 カーミラは杖をエリクに向けたまま言った。


 魔王が前線に出てくることはほとんどないし、魔族に対抗できる有力な人間はその多くが滅ぼされてしまっている。


 だが、エリクはにこりと笑ってこう返した。


「ええ、だから目立たず倒すんです」

「……む?」

「魔族側も情報を集めていて、目立つ人って個別撃破されちゃってますよね。だから、目立たずひっそりと魔王に近づいて倒せばいいのかなって」

「むむぅ?」

「ほら、僕って地味ですよね。それに山育ちのせいもあって、魔獣にも魔族にもあまり認識されないんです」

「……」


 確かにこの魔獣だらけのドルガネフ大森林で、ここまで無傷でやってこられていることが、それを証明している。


「そして、カーミラ・デ・ラマネルさん。あなたは魔法王国の著名人ですが、既に追放され、その罪で経歴が消されている。最近魔法王国に攻め入った魔族からは、まだちゃんと認識されていないはず。少なくともどういう姿形をしているかは知られていません。そういう人達を集めてパーティを組もうと思うんです」

「目立たず、ひっそり、魔王を倒すじゃと……」


 どんな英雄譚を読んでも、普通は盛大に国民から送り出され、名乗りを上げ、魔王城に正面から堂々と切り込むものだ。


 それが日陰者だけを集めたパーティで、騙し討ちのように敵の親玉を排除しようとこの男は言う。


 エリクはカーミラを真っすぐ見つめて口を開いた。


「どうですか? ここに篭って一人魔法研究にいそしむ人生と、魔王をこっそり倒す人生。どっちが面白おかしい人生になりそうですか?」

「……ふっ」


 カーミラはおもむろに杖を下ろし、声を上げて笑った。


「くくく、ふはははっ。なるほどのぅ……いいじゃろう」


 そして、口元に微笑を浮かべ、未来の勇者となる少年にこう告げる。


「面白いのは貴様じゃ。少しばかり付き合ってやろうではないか。魔王退治とやらにな」


付き合ってやろうではないか


次回もアニメ放送日の木曜日に更新予定です。

アニメは本日4/17(木)第三話放送開始となるので、よろしくお願いします!


【地上波】

TOKYOMX:2025年4月3日(木) 23時30分~

BS11:2025年4月3日(木) 23時30分~

サンテレビ:2025年4月3日(木) 24時00分~

KBS京都:2025年4月3日(木) 24時00分~

【地上波同時・先行配信】

ABEMA・dアニメストア 2025年4月3日より毎週木曜日23時30分~

その他、各配信サイトにて順次配信開始


前章を収録した小説8巻が好評発売中です。


挿絵(By みてみん)


また、闇ヒーラーのウェブトゥーン版「クレスフォール潜入編」というオリジナルストーリーも是非!


挿絵(By みてみん)


また、十乃壱先生による続々重版のコミック4巻も大好評発売中です!


挿絵(By みてみん)


アニメは2025年4月3日(木)より放送中です。

本作の公式X、公式サイト、PV公開中です。


★★★★★★

公式Xのフォローを是非宜しくお願いします。またアニメでお会いしましょう!!

★★★★★★


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
隠密勇者エリク・・・
たしかにちょっとゼノス味があるな 常識分からんって言ってるとことか
カーミラって結局のところフ〇ーレン的なポジになってただけではなかろうか…
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