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第319話 追放と出会い

前回のあらすじ)浮遊体は昔のことを思い出していた

 時は三百と十年前。


 大陸北部の魔法国家フライザードの宮殿で、宰相の声が響いた。


「大賢者カーミラ・デ・ラマネル。お前を永久国家追放罪とする」

「……はぁ?」 


 切れ長の瞳を細めたのは、意匠が気に入っているとの理由で東洋から取り寄せた黒衣をまとった女だ。当代随一の魔女と呼ばれ、まだ生身の身体を持っていた若き日のカーミラである。


 カーミラは着物の袖を口元に当てて言った。


「随分と唐突な処分じゃのう。なぜそんな話になっておる?」

「その魔力と美貌でもって国家転覆を企み、権力を手中におさめようとした罪だ」

「身に覚えがないのぅ。わらわはただ面白おかしく生きたいだけじゃ。権力などに興味はない」

「あくまで白を切る気か。証拠はあがっているのだぞ」


 宰相は一枚の紙を高々と掲げた。国家転覆計画と書かれた計画書で、これがカーミラの寝室の引き出しから見つかったのだと宰相は言う。


「……なるほどな。くくく……」

「何がおかしいっ」

「要は誰かがわらわの力を怖れた者がいるという訳か。わらわが美貌と人気がありすぎるせいで、いずれ立場が脅かされると怖くなった。それは誰じゃ? 王か? 王子か? それとも貴様か、宰相?」

「な、何を言うっ」


 カーミラから発せられる魔力の圧に、宰相は青ざめて後ずさる。


「宰相よ。王家の魔法指南役であり、最高の宮廷魔導師として名を馳せた貴様が、こんな若い女に筆頭魔導師の座を奪われたと言われるのが怖いのじゃな」

「ち、違うっ」


 宰相は口から泡を飛ばして否定する。


 ひりつくような魔力の波動を押さえて、カーミラは口を開いた。


「まあ……別によい。じゃが、人魔戦争はかなり激化しておるぞ。わらわがおらねば困るのではないか?」


 およそ九十年前に、南方大陸の覇者であり、魔族の王である魔王が人間の世界に攻め込んできた。


 火の粉はすぐに大陸中に広がり、日夜各地で人間と魔族の戦争が繰り広げられている。


 大陸北部にあり、比較的戦火から遠かったこの魔法国家にも魔族の爪は届きかけていた。


「ふ……ふんっ、この国にはわしも含め、優秀な魔導師が何人もいる。お前などいなくとも問題などないわ。いや、お前はもういないも同然なのだ」


 宰相は高笑いを響かせた。


 永久国家追放罪は、これまでの魔法への貢献も含め、全ての存在記録が抹消される。


「ふはは、幾つもの魔法研究。あの転移魔法陣の飛距離を飛躍的に伸ばした研究からも、お前の名は消えるのだ」

「んー? それはなんじゃったかの。あぁ……暇つぶしに考えたあれか。それまで貴様が考えていた理論より、軽く十倍は物を遠くに運べるようになったの」

「くっ……さっさと去れっ! これ以降お前を国内で見かければ、法令により全ての宮廷魔導師が貴様の排除に動く」

「そうか、では去ろうかの。わらわの相手をする宮廷魔導師たちが可哀想じゃ」

「なんだとっ」

「くくく……」


 カーミラはそのまま踵を返して、宮廷を後にした。


 誰の見送りもないまま、長年住んだ魔法国家を離れ、一人森の中へと消える。



 それから二年が経った。


 人魔戦争はますます苛烈さを増し、大陸の南半分はもう魔族の支配下に入ったという。

 戦火を逃れようと、人々は北へと逃げ、世界は混乱の極致にあった。


 魔法国家フライザードも風の噂では半壊したと聞く。


「じゃが、ここは平和じゃのう」


 襲ってくる獰猛な魔獣を、魔法で吹き飛ばしながらカーミラはつぶやいた。


 ここはドルガネフ大森林。


 太古からある巨大な木々が密集する土地で、霧のように立ち込める魔素のせいで魔獣多発地域と知られている。魔王の邪悪な魔気にあてられて、魔獣はますます凶暴化しており、足を踏み入れる人間はほぼおらず、それゆえに魔族も滅多にやってこない。


 最初の一年は、日夜魔獣が襲い掛かってきていたが、大賢者カーミラにとっては野良猫と戯れるようなものだ。最近は怖れをなしたのか、あまり魔獣も近づいてこなくなった。


「それなのに、今日に限って魔獣が襲ってくるとは、新たな餌の匂いを嗅ぎ取ったか」


 カーミラは巨大な千年樹の根本に立てた小屋の前で、おもむろに腕を組んだ。


「木の後ろに隠れておるな。何者じゃ」

「あっ、見つかった……やっぱりすごいな」


 巨木の後ろからおずおずと現れたのは、まだうら若い少年だった。


 秋の稲穂を思わせる少しくすんだ黄金色の髪。


 猫背気味で、良く言えば優しそうな、悪く言えば気弱そうな印象。


「ええと、あなたが、魔法国家フライザードの元筆頭魔導師、大陸最強の大賢者と謳われたカーミラ・デ・ラマネルさんですか?」

「……そうじゃが」


 軽く眉をひそめて答えると、少年はほっと胸を撫でおろした。


「よかった、やっと会えた。僕は、エリクといいます」


 エリクと名乗った彼はにこりと笑い、そして、こう言った。


「あの、僕と一緒に、魔王を倒しませんか?」

魔王を倒しませんか?


次回もアニメ放送日の木曜日に更新予定です。

アニメは本日4/10(木)第二話放送開始となるので、よろしくお願いします!


【地上波】

TOKYOMX:2025年4月3日(木) 23時30分~

BS11:2025年4月3日(木) 23時30分~

サンテレビ:2025年4月3日(木) 24時00分~

KBS京都:2025年4月3日(木) 24時00分~

【地上波同時・先行配信】

ABEMA・dアニメストア 2025年4月3日より毎週木曜日23時30分~

その他、各配信サイトにて順次配信開始


前章を収録した小説8巻が好評発売中です。


挿絵(By みてみん)


また、闇ヒーラーのウェブトゥーン版「クレスフォール潜入編」というオリジナルストーリーも是非!


挿絵(By みてみん)


また、十乃壱先生による続々重版のコミック4巻も大好評発売中です!


挿絵(By みてみん)


アニメは2025年4月3日(木)より放送中です。

本作の公式X、公式サイト、PV公開中です。


★★★★★★

公式Xのフォローを是非宜しくお願いします。またアニメでお会いしましょう!!

★★★★★★


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
私も小説を書いているけど リアクションの表示の仕方がどうしても解りません・・・・ 総合ポイントは14有るけど・・・・ 顔の表示が出ないみたいなのです どの小説にもあるかどうすれば良いのか リアクショ…
 1話をAbemaで視聴できたので、なんとか切腹せずにすみました。  アニメのリリ、可愛いですね。
無能は自分の首を絞めるのが好きですよね。 アニメはゼノスが男前すぎた。
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