第318話 プロローグ ~あの時代~
番外編です
大陸の雄、太陽王国とも称されるハーゼス王国の王都。
その片隅にある廃墟街に、夜の闇に紛れるようにしてひっそりと佇む闇営業の治療院がある。かつて伝染病で滅んだその街は、まるで生命が途絶したような冷たい静寂に包まれているが、その治療院だけは今夜も明るい笑い声に満ちていた。
「やっぱりリリの料理はいつ食べても美味いねぇ」
「うん。リリのご飯を食べるようになってから、リンガは健康になった気がする」
「我も身体のキレが明らかによくなったな」
「えへへ、みんな褒めすぎだよぉ」
貧民街の盟主たる三亜人が、リリの料理に舌鼓を打っている。
オーク族のレーヴェがおもむろに立ち上がった。
「実はスタイルも更によくなったのだ。ゼノス、ちょっと成長した我の身体を見てくれないか?」
「食事中に脱ぎ始めるんじゃないよ、レーヴェ」
「せっかくのご飯がまずくなるとリンガは思う」
「くっ、自然な流れでゼノスに我の極上の裸体を見せつけようと思ったのに」
「不自然極まりないよ」
「ふぅ、そういえばリンガもなんだか暑くなってきた。ちょっと上着を――」
「だから脱ぐんじゃないよっ、この露出魔どもっ」
「というか、お前ら、午前中からずっといるけど、そろそろ帰らないの?」
いつも通りにやり合う亜人たちを眺め、ここの主である闇ヒーラーのゼノスは、呆れ顔で紅茶を啜っている。
「やだねぇ、先生。さすがに帰るよ、デザート食べたらさ」
「デザートまでは居座る気か」
「デザートまでが晩御飯だとリンガは思う」
「うむ、リリのデザートを食べずに帰るなど、冒涜以外の何物でもないぞ」
「はいはい、わかったよ」
ゼノスが苦笑しながら答えると、リザードマンのゾフィアがふと顔を上げて言った。
「ところで、先生。カーミラはいないのかい?」
「いや、二階にいると思うぞ」
この建物の元々の住人である最高位アンデッドのカーミラは、二階を主な棲み処にしている。
「どうして顔を見せないのかとリンガは思う」
「うむ、今日はいつもみたいに茶々を入れにこないな」
「ああ……」
ゼノスはリリと顔を見合わせて、ぽりぽりと頭を掻いた。
「俺もよくわからないけど、今日は静かに過ごすらしい」
「静かに、過ごす?」
首を傾げるゾフィアに、リリが二階を見上げて言った。
「リリも詳しくは聞いてないけど……追悼と鎮魂の日なんだって」
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治療院の二階では、レイスのカーミラが溜め息をつきながら、闇の中を彷徨っていた。
「まったく、いつもいつも騒がしいのぅ」
階下からは亜人たちの賑やかな声が響いている。
元々は生物が死に絶えたこの廃墟街の居心地がよくて住み着いたのだが、今ではすっかり生命エネルギーに満ち満ちた活気溢れる場所へと変貌してしまった。
漆黒の闇に覆われた廊下をふよふよと漂い、カーミラは物置部屋のドアを擦り抜ける。
埃をかぶった魔導具を飛び越えて、奥の壁際へと向かった。
「うむ、これじゃこれじゃ」
板張りの壁には一枚の絵画が掛けられていた。
カーミラはそれをおもむろに壁から外すと、絵を小脇に挟んで廊下へと進み出た。
窓を開けて、そのまま治療院の屋根の上へと降り立つ。
「……」
満天の星。薄い月明かりの下で、カーミラは絵をじっと眺めた。
そこには数人の人物が描かれている。
三百年前のものだが、ずっと暗所に置いていたおかげでそれほど劣化はしていない。
「こんなに賑やかな日々を過ごすは、この時代以来じゃな」
絵の表面を優しく撫でながら、カーミラはうっすらと微笑んだ。
「のう、勇者エリクよ」
短めの番外編はじまります。
今のところはアニメ放送日の木曜日の夜に更新予定です。
アニメは本日4/3(木)から開始となりますのでよろしくお願いします!
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【地上波】
TOKYOMX:2025年4月3日(木) 23時30分~
BS11:2025年4月3日(木) 23時30分~
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KBS京都:2025年4月3日(木) 24時00分~
【地上波同時・先行配信】
ABEMA・dアニメストア 2025年4月3日より毎週木曜日23時30分~
その他、各配信サイトにて順次配信開始
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アニメは2025年4月3日(木)放送予定です。
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