第317話 エピローグ② ~廃墟街の闇ヒーラー~
前回のあらすじ)ゼノスは闇ヒーラーとして王族に対価を求めた
魔竜王との死闘から一ヶ月が経った晴れた日の午後。
従来は一部の者しか立ち入れなかった聖域たる王宮の広場に、多くの国民が集まっていた。
ざわつく人々の視線の先、バルコニーに立つのは薄桃色の髪をした世にも美しい少女だ。
少女は正面に置かれた小型の魔導拡声器に唇を近づける。
「こんにちは、皆さん。聖女……いや、王女アルティミシア・ハーゼスです」
スカートの裾をつまんで、アルティミシアは軽く腰を落とす。
集合した国民は王族の姿を初めて見た者ばかりで、その美貌と真摯な姿勢に、大歓声が上がった。
アルティミシアは軽く微笑んだ後、おもむろに右手を持ち上げる。
「私はかつて聖女として、あの塔で国家の安寧を日々祈り続けていました」
彼女が指さした先には、聖女の塔の跡地があった。塔自体はほぼ取り壊され、今は低層階部分が負の遺産として記念碑的に残されるのみだ。
「しかし、皆さんも魔竜の王の言葉を聞いた通り、それらは全て魔竜に仕組まれていたものでした。強固な階級を作り、王家が絶対の権力を持ち、魔竜の寝床を聖域として守り続けてしまった。我が国はその成り立ちからして誤った方向に進んでいたのです」
沈痛な面もちで俯いた後、アルティミシアは顔を上げる。
「ですから、危機を脱した今、我々は自らを省みて、過ちを正す必要があります」
そして、決意を込めてこう宣言した。
「国家の在り方を一から見直したいと思います。勿論、階級制度も含めて」
集団に衝撃が走り、歓声と悲鳴が同時にあがった。
「当然ながら、簡単にはいかないでしょう。時間もかかると思います。長い期間をかけてしみついた階級意識や差別感情は簡単に消えるものではありません。しかし、思い出して下さい。今回率先して街を守ったのは貧民の方々でした。そして、王国を救った彼もまた――」
集団をまっすぐに見つめて、アルティミシアは語りかける。
「私はもう目に見えない何かに祈り、すがることをやめます。今後は我々自身の手で、我々みんなの居場所をよりよいものに変えていく必要がある。それが彼との約束です」
当然、特権階級の中には今回の改革に眉をひそめる者も多くいるが、王族の命の恩人であり、救国の英雄でもあるゼノスへの対価をアルティミシアは王家としてなんとしてでも支払うつもりでいる。
それが救国という偉業に対する、相応の対価だろう。
この目で貧民街を見てきたことも決断の根拠になっており、聖女の塔から王宮に居を移したアルティミシアは、兄を始めとして家事はおろか自分の身の回りのことすらろくにできない王家の男どもの尻を叩きまくって、今日の式典にこぎつけたのだった。
意外にも第二王子のフィガロは協力的で、それは命を救われた恩義というより、一介の治癒師なんぞに貸しを作ったままにしておきたくない、または絶対権力者のくせに取引した改革の一つもできないと思われるのが容認できないというプライドによるものだと思われるが、動機はともかく味方になってくれるならば心強い相手ではある。
大厄災を共に生き抜いた国民たちには身分を超えた一体感が生まれており、この気運は改革の大きな後押しになるはずだ。
そして、その気運を生み出したのは、たった一人の闇ヒーラーである。
「王女様、英雄はどこですか? 何をしてるんですか?」
集団の先頭で、一人の子供が声をあげるが、アルティミシアは笑顔で首を横に振った。
「残念ながら、彼はここにはいません。何をしているかも正確にはわかりません」
集団からため息のようなものが漏れる。
――目立つと面倒だから、俺のことは表沙汰にしないでくれるか。無ライセンスだし、あんまりおおごとにしたくないんだ。
気の遠くなるような時間この国をむしばんでいた病魔を退け、国ごと治療してしまった治癒師のもう一つの要求がそれだった。おおごとどころか、人魔戦争時代の勇者に匹敵する偉業を達成した訳だが、おそらく彼にとっては、人を救うのも国を救うのも大差はなかったのだろう。
本当は毎日でもゼノスに会いたいが、王女が行くとさすがに目立つので、アルティミシアはここ一ヶ月は約束通りゼノスと積極的に接触するのは避けてきた。
だから、今ゼノスがどんな風に過ごしているのかは本当にわからない。
それでも、一つ確信していることがある。
アルティミシアは微笑を浮かべながら、蒼天を見上げて言った。
「彼は……きっとこの空の下、今もどこかでひっそりと、誰かを助けているでしょう」
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王都の外れ。
廃墟街の片隅に、どんな怪我や病気も立ちどころに治してしまうという闇営業の治療院があるという。
半ば傾きかけたドアを恐る恐る押し開けると、すぐに看護師の格好をした可憐なエルフの少女がぱたぱたとやってくる。
「いらっしゃい。こちらは初めてですね」
おもむろに頷くと、二階からはぼそぼそと楽しそうな声が響いてきた。
――くくく……今回はどんな厄介ごとかのう。
「カーミラ、新規客をいきなり脅かすな」
診察机でため息をついているのが、ここの主らしい。
真新しい漆黒の外套を羽織ったその男は、目の前の椅子を指さし、不敵な笑みでこう言った。
「さあ、ここに座ってくれ。なんでも治してやるぞ。相応の対価さえ払ってくればな」
闇ヒーラーは第二部・完となります。
長い間、お付き合いありがとうございました!
また多くの感想、いいね等もありがとうございます、大変励みになりました!!
ちなみに第一部は1~4章のゼノスが元パーティや師匠・親友との過去に決着をつけ自分の居場所を見つけるまでの話。
第二部は5~8章の聖女の【最重症】の預言が下される中、ゼノスが王都のあちこちで活躍して世を正していく話になります。
今後ですが、ひとまずアニメが4/3(木)から開始になるので、4/3アニメ開始に合わせて何か番外編的なものを掲載しようと思っていますので、是非ご覧ください。
その後、第三部については諸々の状況によるかなというところです。
ですので、是非アニメ化のお祝い&応援頂ける方は本作のご購入もお願いいたします!
本章を収録した小説8巻は【本日3/15(土)】発売予定ですので、お祝い&応援してもよいという方は是非よろしくお願いします~!!
また、闇ヒーラーのウェブトゥーン版をコミック形式にまとめた電子書籍版が【本日3/15】からピッコマ様で配信開始します(その他配信サイトでの販売は4/15頃)。「クレスフォール潜入編」というオリジナルストーリーで、ウェブトゥーンならではの闇ヒーラーと仲間たちに会えますのでこちらも是非!
また、十乃壱先生による続々重版のコミック4巻も大好評発売中です!
アニメは2025年4月3日(木)放送予定です。
本作の公式X、公式サイト、PV公開中です。
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