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第283話 キャンプと怪談【後】

前回のあらすじ)湖畔でキャンプを楽しむ一同。浮遊体が怪談を話す番になった。

 カーミラが発した人魔戦争という単語に、ゼノスが反応する。


「ああ、大昔の魔族と人間の戦争だよな」


 魔族と人間は元々別の場所で暮らしていたという。だが、四百年ほど前に、魔族の王たる魔王が配下を率いて南方大陸から人間の棲み処へと攻め込んできた。


 略奪。虐殺。魔族による侵略は酸鼻を極めたが、人間たちも必死の抵抗を続けた。


 大陸全土を覆う戦火は百年近くも続いたらしいが、ようやく三百年前に魔王と魔族は滅ぼされ、人の世に平和が訪れたという。


「それはそれは悲惨な世の中じゃったが、魔族に対抗するために、色んな技術が開発された時代でもあった。山を吹き飛ばす強力な攻撃魔法や、遠方に物体を転移させる魔法陣、魔法の力を宿した剣などな」

「結局、最後は勇者ってのが魔王を倒したんだっけ? おとぎ話で聞いたことあるけどねぇ」


 ゾフィアが持ち込んだ葡萄酒を口に含んで言った。


 ただ、百年にも渡る侵略に終止符と打つというとてつもない偉業を成し遂げた割に、勇者という人物の記録は不思議とほとんど残っていないらしい。


「さぞやすごい人だったんだろうねぇ」

「きっとゼノス殿みたいな人だとリンガは思う」

「なんせ世界を救った英雄だからな」

「いや、ただの場末の治癒師を、救国の英雄と一緒にしないでくれ……」


 口々に勇者を称える亜人たちをゼノスが諭すと、カーミラは揺れる焚き火を見ながら瞳を細めた。


「……あやつが英雄のぉ」

「え、カーミラさん、まさか勇者を知ってるの?」


 リリが驚いて言うと、カーミラはふと顔を上げる。


「ん……まあ、噂くらいはのぅ」

「なあ、カーミラ」


 ゼノスは溜め息をついて、怪談をそのまま体現している半透明の俗物に言った。


「時々聞いてるけど、お前が生きていた三百年前って、何やってたんだ?」

「だから、何度も言っておるじゃろう。そんな昔のことはとうに忘れたと」

「お前、本当に自分の事は言わないのな」

「自分の話なぞ漫談にも怪談にもならぬわ。酒のツマミにならぬ話など無用よ」


 カーミラは葡萄酒を木製のコップについで、くいと飲み干した。


「まあそう急くな。わらわが話そうと思っていたのは人魔戦争の前の話じゃ」

「前……?」


 一同が顔を見合わせると、カーミラは葡萄酒をもう一杯コップに向けて傾ける。


「四百年前、魔王は人の住む大陸に侵攻してきた。逆に言うと、なぜ四百年前までは侵攻してこなかったのか」


 亜人たちが一斉に首を傾げた。


「それまで人の住む大陸があることを知らなかったんじゃないかい?」

「知ってはいたけど、移動手段がなかったとリンガは思う」

「我はなんとなくその気にならなかった、だと思ったぞ」


 カーミラの視線はゼノスに向く。


「貴様はどう思う?」

「えぇっと……それどころじゃなかった、とか?」

「うむ、まあそう言われておる」


 ゆっくりと首を縦に振って、カーミラは続きを口にした。


「南方大陸は魔王が統一するまでは魑魅魍魎の跋扈する魔境じゃった。まずは足元をどうにかしなければ、人間社会に攻め込むどころではなかったという訳じゃ。数多の強者が乱立する中、後の魔王がようやく全ての魔族共を従えた。だが、まだそれで終わりではない。南方大陸には他にも幅を利かせている種族が複数いた」 

「幅を利かせている種族?」

「うむ、特に問題となったのは魔竜という種族じゃ」

「魔竜……」

「魔竜の王ガルハムートと魔王の戦いは十年にも百年にも及んだと言われる。いずれにせよ凄絶なる死闘の後、ようやく魔族は魔竜に勝利。魔王はそこから百年以上をかけて傷を癒やし、軍を立て直し、他大陸に侵攻できる準備が整ったのが、今から約四百年前だった――と言われておる」


 亜人たちは軽く頷いた後、最高位のアンデッドに視線を向けた。


「なるほどねぇ……でも、それのどこが怪談なんだい?」

「うん、ただの昔話だとリンガは思う」

「しかも、我は怖くないぞ」 

「まあ、待つがよい。この話には続きがあっての」


 カーミラはコップのアルコールをぺろりと舐めた。


「実は魔竜の王はとても強く、あの魔王ですらトドメを刺すことはできなかった、という噂があるのじゃ」

「えっ?」

「重傷を負った魔竜は、魔王の支配下となった南方大陸から必死の思いで逃げ出し、そして――この大陸に辿り着いた」

「ええっ?」


 亜人達の驚きの声に満足したように、カーミラは終わりまで一気に話した。


「じゃが、もはや瀕死の状態で力はほとんど残っていない。ひとまず深い深い地の底に身を横たえ、魔王への恨みを募らせながら、いつか傷が癒え、復活する時を待っている――」


 リリがゼノスの外套の裾を握る。


「じゃ、じゃあ、その怖い竜さんがこの大陸のどこかに潜んでいるということ……?」

「まあ、単なる噂話で、それこそ怪談の類ではあるがの。わらわの曽祖父の時代は、言うことを聞かないと魔竜ガルハムートに食われるぞ、とよく脅されたらしいぞ。いつしかその脅し文句も消えてしまったがの」


 カーミラがそう話を締めくくると、少しの沈黙の後、亜人達は小さく首を捻った。


「まあ、怪談っちゃあ……怪談なのかもしれないけどさ」

「リンガが期待したのとはちょっと違う」

「うむ、話が壮大すぎてついていけなかったぞ」

「なんじゃとぉ。今の世ではほとんど知る者のいない、とっておきの話じゃというのに」

「ね、ねえ、あの……」


 亜人とレイスが言い合う前で、リリが突然怯えた表情で言った。


「わ、私たちって六人だよね」

「ん、そうだけど」


 ゼノス。リリ。カーミラ。ゾフィア。リンガ。レーヴェ。


 キャンプの参加人数は六人のはずだ。


 しかし、リリは語尾をわずかに震わせる。


「で、でも、そこにもう一人いるよ?」

もう一人いるよ?


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― 新着の感想 ―
最後に持っていくさすリリw
 夜中に電気を消して、部屋を暗くしつつ読むべきだったと反省してます。  そして恐る恐る後ろを振り返るのが醍醐味。
例の聖女だとは思うが、物語の中の人はそんなの知らないからな……
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