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第202話 授業終わり

前回のあらすじ)聖カーミラ学園の運営が始まる中、剣聖の娘を名乗るクミル族の少女ロアは、冒険者になるために魔獣狩りを行っていた

 聖カーミラ学園の初回授業とその後の給食が終わり、総括も兼ねていつものメンバーが治療院に集まった。


「どうだったかな……?」


 リリが不安そうに皆を見回す。


「わかりやすくてよかったと思うぞ。手を動かす課題が多いから、飽きずにできてたと思うし」 

「ほんと、よかった! 緊張した……」


 ゼノスが褒めると、リリは安堵の息を吐いて、ゾンデと顔を見合わせた。


「リリ、眼鏡があったからなんとかなった」

「そうだな、眼鏡に助けられたぜ」

「そろそろちゃんと言っておくけど、眼鏡にそんな力はないぞ……?」


 話題はそのままクミル族の少女に移る。


 ゾフィアがやれやれと肩をすくめた。


「ロアも困った奴だよ。大人の言うことなんか聞きやしないんだから。あれじゃいつか痛い目をみるよ」

「やっぱり姉さんそっくりだ」

「一言多いよ、ゾンデ。ま、確かに昔の自分を見ている感じはするけどさ」

「ゾフィア。クミル族って、もしかして……」


 ワーウルフのリンガが少し神妙な表情を浮かべた。


「ああ、そうさ」

「どういうことだ?」


 レーヴェが首を傾げると、ゾフィアは椅子で足を組んで言った。


「知らないかい? クミル族は集落に分かれて住んでるんだけど、結構大きな集落の一つが十年くらい前に魔獣の襲来で壊滅したんだ。ロアはその集落の生き残りなのさ。あんまり詳しく話してくれないし、こっちも聞かないけどね」

「なるほど……あのむすめが魔獣狩りをしているのはそういう背景もあるのかもな」

「できれば、ほどほどにして欲しいけどな」


 ゼノスは紅茶のカップを手に取って言った。


 貧民街の外側には手つかずの山林が広がっており、魔獣が姿を現すこともある。


 国家はその際の防護壁として、敢えて貧民街を放置しているらしい。現れるのは小型魔獣が中心だが、場所によっては獰猛な魔獣に出くわすこともあるのだ。クミル族は元々狩りが得意な民族らしいが、それでも危険はある。 


「確か剣聖の娘って言ってたけど……そもそも剣聖って何?」


 小首を傾げるリリ。ゼノスは紅茶を飲み干して答えた。


「その時代の随一の剣士を剣聖って呼ぶんだよ。確か当時は【雷神】っていう通り名の男だったはず。剣技が速すぎて雷みたいだって」


 パーティリーダーだったアストンが憧れて、剣の実験台にされかけた忌々しい記憶がある。身を守るために防護魔法を独学で習得せざるを得なかった訳だが、今ではそれが色んな場面で役立っているので人生とは本当にわからないものだ。


「娘って本当かな?」

「弟子がいるって噂はあったけど、娘がいるって話は聞いたことないな……いずれにせよだいぶ前に【雷神】は消息不明になっていて、今は別の剣聖がいるはず」


 行方不明になった元剣聖。病気で亡くなったという説や、剣を捨てて山にこもっているという説などが現れては消えていったが、真実を聞いた者はいない。


 その後、新たに剣聖と呼ばれる者がいたはずだ。


 冒険者をやっていた時に聞いた記憶はあるが、名前が思い出せない。


「リリ、そういえば冒険者のこと全然知らない」

「あたしも詳しくはないねぇ」

「リンガも」

「我らには縁のないものだと思っているからな」

「そうだなぁ……」


 ゼノスは診察椅子にゆっくりと腰を下ろした。


「市民以上なら筆記試験と実技試験で冒険者資格が取れるんだ。パーティで活動している場合はパーティに、個人の場合は個人にランクが付けられる。普通はホワイトクラスから始まって、ブルー、レッド、ブロンズ、シルバー……みたいに、実績で段々ランクが上がっていくんだ」

「ゼノスのパーティはどのランクだったの?」

「最後はゴールドクラスだったかな。上から三番目……実質的には上から二番目のランクだ」

「すごい」


 感心して手を叩くリリ。ゾフィアが軽く手を挙げて質問する。


「先生、実質的ってどういうことだい?」

「ええと……ゴールドクラスの上はプラチナクラスで、そこが一応の頂点なんだ。実は更に上にブラッククラスがあるんだが、桁違いの能力と実績が必要だから、目指そうと思って目指せるもんじゃない」


 それもあって、ブラッククラスの冒険者には引退後に貴族になれる特別な権利が与えられる。実際貴族になるには、他にも推薦などの条件が必要らしく、全員がなる訳でもないらしいが。


 怪物。化物。奇才。人外。


 そのように形容される突出した異能者のみが辿り着ける世界。


 確か王立治療院の院長は元ブラックランクの冒険者だったはずだが、一つの時代に多くて数人いるかどうかの貴重な人材ということになる。


「ゼノスもロアちゃんみたいに、冒険者をやりたいと思うの?」

「うーん……冒険自体は嫌いじゃなかったけど、今はやることも沢山あるし、その気はないよ。そもそも貧民は普通そんな機会ないし」

「先生っ!」


 ふいに治療院のドアが開いて、貧民街の子供達が顔を出した。


「どうした? 誰か怪我でもしたか?」


 尋ねると、先頭の亜人の子が肩で息をしながら首を横に振った。


「あのっ、俺たちロアと遊ぼうと思ってあいつの小屋に行ったんだ。そしたらロアはいなかったんだけど、中にこれがあって」


 子供が握りしめた紙を差し出してくる。


 それはぼろぼろの紙に手書きされた地形図だった。ぱっと見わかりにくいが、おそらく貧民街の外側に広がる山林の地図だ。ロアが作ったものだろう。


 ところどころに丸印があり、お世辞にも上手とは言えない文字で簡単なメモ書きがある。


「6の月13日、一角ねずみ……7の月9日、穴豚二匹………これ、魔獣狩りの記録だな」


 討伐魔獣の名前とその日付だ。


「あいつ、こんなものを……」


 横から覗きこんだゾフィアがつぶやく。


 そのまま紙面に目を滑らせていたゼノスは、ある一点で動きを止めた。 


 地図の右上にある丸印。本日の日付が小さく記されているが、討伐魔獣の記載はない。


 おそらく今日向かう予定の場所なのだろう。


「ここは……」


 ゼノスがわずかに目を見開くと、子供たちが不安そうに言った。


「先生。ロアの奴もしかして……」

「ああ、急いだほうがいいな」

「どうしたの、ゼノス?」


 ゼノスは地図から顔を上げると、壁掛けの外套を手に取り、リリ達を振り返った。


「まずいぞ。あいつ危険区域に向かってる」

眼鏡に助けられたぜ


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挿絵(By みてみん)


また、十乃壱先生によるコミカライズ2巻も続々重版発売中です。

是非是非~!


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[一言] ええ、眼鏡の力は絶大です。
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