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第167話 初日終わって

前回のあらすじ)ゼノスはFクラスの生徒と対面した


 朝礼が終わり、職員室の端に用意された自席に腰を下ろすと、向かいの席の男が立ち上がった。


「新任のゼノ先生ですか?」


 歳はぱっと見、三十前後。整えられたブラウンヘアーで、爽やかな笑顔をしている。


「一年Dクラス担任のハンクス・エルナーです。宜しく」

「ゼノと呼んでくれ」


 差し出された手を握り返すと、ハンクスと名乗った男は感心した様子で言った。


「早速、噂になってますよ。Fクラスにいきなり宣戦布告したって」

「え、そうなの……?」


 郷に従っただけで、そういう意図はなかったが。

 ハンクスはからからと笑う。


「まあ、いいんじゃないですかね。そのくらい強気のほうが。なんせあのクラスの生徒には僕も随分と手を焼かされましたから」


 聞くと、新学園長の指示により、元々下級貴族の属するCクラスとDクラスにいた生徒のうち、問題を抱えた者を集めてFクラスは作られたらしい。


「問題児だけを集めるって、学校はそういう場所なのか?」

「勿論、公にはより細やかな教育をするためクラスを分割したと謳ってますけどね」


 ハンクスは辺りを伺うように声を落とした。


「Fクラスの担任、ゼノ先生で五人目なんです。身の回りにはくれぐれも注意して下さいね」

「それは聞いたけど、なんでそんなことになったんだ」

「詳しいことは、わからないんです。辞めた担任は皆夜逃げのようにいなくなったみたいで、何かしら嫌がらせがあったようですが……」


 軽く溜め息をついてハンクスは続ける。


「僕としては厄介払いみたいな方法でFクラスを作ったのは正直どうかと思ってますが、学園長の指示ですから、現場は勿論、保護者だってなかなか文句は言えないんですよ」

「へぇ……」


 学園長とは留守中で会えなかったが、Fクラスの生徒は全員貴族だ。

 貴族の親は当然貴族であり、その親達も文句を言えない相手というのは一体何者だろう。


 すると、ハンクスは驚いた様子で瞬きをした。


「知らないんですか? 新学園長はかつてこの学園を主席で卒業した、七大貴族ベイクラッド家の次期当主ですよ」


  +++


 その日、学園敷地の端にある職員寮に戻ったのは夕方だった。


 学園の教師には貴族出身者と市民出身者がいて、上位クラスは貴族出身者、下位クラスは市民出身者が主に教えることになっているらしい。この寮は市民出身者のためのもののようだ。当然、貧民出身者のことなど想定すらされていない。


 どこまでいっても階級が色濃く影響する社会だが、それでも十分に立派な建物ではある。


「おかえり、ゼノス」


 ドアを開けると、奥からスリッパを履いたリリがぱたぱたとやってきた。


「ご飯にする? お風呂にする? それとも、リリ?」

「リリ。多分妹はそんなこと言わないぞ」

「ぶぅ」


 妹設定のリリの後ろには、件のアンデッドがふよふよと浮いている。


「なんじゃ、初日は無事か」

「無事じゃない前提やめてくれるか?」


 その後、食卓についたゼノスは、二人に今日一日の話をした。


「ええっ。そのクラス大丈夫なの、ゼノス?」

「ひひひ、全力で返り討ちにしてやる、は傑作じゃ。貴様は期待を裏切らん奴じゃ」


 驚くリリと、腹を抱えるカーミラ。ゼノスは頬杖をついて唇をわずかに尖らせる。


「仕方ないだろ、学校を知らないんだから。あれが普通だと思ったんだよ」

「それにしても、七大貴族の娘に、挙動不審な小娘。いかにもやられ役風のいきり男に、無言で睨んでくる訳あり風赤髪少女。しかも学園長は超エリートの七大貴族ときておる。くくく……面白そうなカードが揃ってきたではないか」

「お前はいつも楽しそうで羨ましいよ」


 と言うか、いかにもやられ役風ってなんだ。


 朝礼の後は、Fクラスに対して治癒魔法学の授業も行ったが、背中に突き刺さるような視線をちょくちょく感じた。宣戦布告によっていきなり関係が悪化したかもしれない。


「で、肝心の学校教育とやらは学べそうなのか?」

「それがなぁ……」


 カーミラの質問に、ゼノスは腕を組んで虚空を眺める。


 空き時間に他の授業も見学させてもらって、どういう内容を教えているのかを学ぶつもりだったし、事前にそういう要望も伝えていた。だが、高圧的な教頭から宣戦布告の件を厳しく注意され、古い資料の整理や、校舎の傷んだ場所の修理といった多くの雑事を押し付けられてしまった。


 授業見学の希望を改めて伝えたが、素性も知れない男を自由に教室に出入りさせる訳にはいかないと断られたし、実際、素性が怪しいのは確かなので反論もしにくい。 


「あ、じゃあゼノスの代わりにカーミラさんに授業を聞いてもらうとか?」


 リリがぽんと手を叩いて言った。カーミラに杖に宿ってもらい、それを教室の目立たないところに置いておく。その状態で授業を聞いてもらい、後でゼノス達に共有する案だ。


 しかし、当のカーミラはあまり乗り気ではなさそうだ。


「うぅむ。多少興味はあるが、あまり長時間杖に入るのは厳しいのぅ。身体がばきばきになる」

「身体ないだろ……」


 同僚のハンクスは幸い話しやすい人物だが、さすがに基礎教育を一から教えてくれとは頼めない。

 ゼノスは頬杖をついて、ぼんやりと言った。


「誰か教えてくれる奴、いないかなぁ」

今回は繋ぎ回…!


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見つけてくれてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 確か教育機関を作りたいから、 教師の仕事を教わるために行こうとしたんじゃなかったっけ? 結局何のサポートもなく、難しいクラスの教師やることになってて草 いや主人公の場合、全然教師の技術…
[一言] >郷に従っただけで、そういう意図はなかったが。 従ってないんだよなあ。 >高圧的な教頭から宣戦布告の件を厳しく注意され、古い資料の整理や、校舎の傷んだ場所の修理といった多くの雑事を押し付け…
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