第154話 観察者<エピローグ①>
前回のあらすじ)二人の弟子は深い地の底で師匠の幻影と邂逅することができた
※今回エピローグなので短いです
「あの役立たずめっ」
金貨の詰まった袋を抱えて、水路を駆けるのはかつてのヴェリトラの側近、エルゲンだ。
莫大な富を生むはずだった蘇生魔法。それに失敗した今、あいつに用はない。
隙をついて致命傷を与え、持てる分の金貨を奪ってきた。あの場にいた二人は治癒魔法の使い手だが、もう満足な魔力は残っていなかったはずだ。回復は不可能だろう。
この金を元手に、新たな研究を始める。もしくは――
胸のうちで今後の算段をしていたエルゲンは、ふと立ち止まった。
薄暗い通路の先に、鼠色のローブを頭からかぶった人物が立っていたからだ。
「貴様は……【案内人】」
「やあ」
相手は場違いに甲高い声で、片手を挙げた。
「落胆する気持ちはわかるよ。ボクも蘇生魔法を楽しみにしていたからね。またゼノス君に邪魔をされて腹立たしい思いもあるけど、あれはあれで面白い見世物だった。死んでしまった他人を弔うというのはとても興味深い感情だ」
「何の用だ」
「金は大していらないなんて言っちゃったけど、それなりの協力をしたから、せめて今後の活動資金くらいはもらっておこうと思ってね。それに――」
【案内人】は足音も立てずに近づいてきた。
「ゴミが放置されたままなのは気になる性質なんだ」
「ふん、丁度いい。貴様のことは前から気に入らなかったんだ」
金貨入りの袋を地面に置いたエルゲンは、懐から鋭利なナイフを取り出す。
「わざわざ始末されに来るとは愚かな。死ぬがいいっ!」
「さて……」
【案内人】は軽く息を吐いて、埃を払うように手の平を打ち鳴らした。
水路に転がる物言わぬ骸を見下ろす双眸が、闇色に輝く。
「……人間は弱い。こんなに弱い生き物にどうして三百年前、魔王様が負けたのか、ボクはそれが知りたかった。だから人間を知るために、どういう状況でどんな行動を取るのか実験と研究を繰り返した。わかってきたのは人間はやっぱりとても弱い。でも――同時にとても強いということだ」
【案内人】は金貨の詰まった袋をおもむろに持ち上げて呟いた。
「いずれまた会おうゼノス君。ボクも懲りずに研究を進めるよ、来たる日に向けてね」
ローブの裾が翻り、後には闇だけが残った。
もう一つのエピローグで4章終了です。
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今回はヴェリトラのキャラデザを紹介します。
凛々しいですね。
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