第149話 再会
前回のあらすじ)ゾンビロードに無視された浮遊体が憤る一方、ゼノスは一人地底へと向かった。
その頃、地下水路の底では、ヴェリトラの部下のエルゲンがゾンビを生み出し続けていた。
「エルゲン、まだいけるか?」
額に汗を流し、肩で息をしながらも、エルゲンは笑みを浮かべる。
「勿論です、【黒の治癒師】様。完全なる蘇生魔法は我らネクロマンサーの悲願でもあります。このエルゲン、その場に立ち会える幸運を噛み締めておりますっ」
――悲願、か……。
ヴェリトラは巨大な死霊魔法陣の後方にある、死霊魔法陣より更に二回り以上大きく描かれた魔法陣の中心に立った。師匠の手記に隠されるように描かれていた魔法陣だ。
視線の先にあるエルゲンの背中と、死霊魔法陣から無数に生み出されるアンデッド達をぼんやり見つめる。
正直、ネクロマンサーの悲願などどうでもいい。
ヴェリトラの目的はただ一つ。敬愛する師匠にもう一度会うこと。
蘇生魔法はそのための手段に過ぎない。そのために全てを捧げて来た。
大量のアンデッドを地下水路に解き放って数刻、そろそろ先発のアンデッドが瀕死の被害者達を運んでくるだろう。
大量の命、そしてこれまで稼いだ多額の金貨。
それら価値あるものと引き換えに、この魔法陣を発動させる。
全ては、ただもう一度、師と会うために。
足下には紙に包んだ師匠の髪の毛がある。
「もうすぐですよ……」
一人つぶやいて、地下水路へと繋がる細い通路に目を向けた。
命の匂いに誘われたアンデッド達が列を為して殺到する小道。
その奥が、白く光った。
「……?」
ようやく先発のアンデッドが命を連れて戻ってきた。
いや――違う。
「あれは……」
壁のように立ち塞がっていたアンデッド達が塵となって消え、代わりに一人の男が姿を現す。
闇よりも深い漆黒の外套を羽織った、その人物の名は――
「ゼノスっ……」
かつて同じ師のもとで治癒魔法を学んだ親友は、手にした仮面をぽいと投げると、昔と同じ飄々とした顔で言った。
「よう、ヴェリトラ。旧交を温めに来たぞ」
「き、貴様ぁ、生きていたのかっ」
死霊魔法陣に立つエルゲンが、腰の刀を抜いて襲い掛かった。
だが、ゼノスは剣先を難なくかわすと、右の手刀を首筋に叩き込んだ。
「ぐっ」
低い呻き声とともに、エルゲンが膝から崩れ落ちる。
「悪いな。今日はあんたと遊んでる暇はないんだ」
「なぜ、お前がここに」
ヴェリトラは、ゆっくりと足を進める。
ゼノスも同じようにゆったりした足取りで近づいてきた。
「いや、大変だったんだよ。大幹部には大幹部しか会えないらしいから、頑張って出世したんだ」
「お前が……?」
「でも、せっかく大幹部会まで辿り着いたってのに、ヴェリトラはいないしさ」
ゼノスは淡々とした口調で返した。
「地下で生きるってのは本当に大変だな。お前はずっと一人で頑張ってきたんだな」
「……」
「孤児院が焼けた後、俺は冒険者になったんだよ。なかなか大変な日々だったけど、今思えばいい経験だった。師匠が言ってた世界の広さってのを少しは感じることができたからな」
「何が言いたい」
「別に。単なる昔話だよ。久しぶりに会ったんだ、それくらいいいだろう」
「目的を言え」
「言っただろ。旧交を温めに来たって」
ゼノスはどこか穏やかな表情で続けた。
「ヴェリトラ。蘇生魔法に手を出すのは危ないからやめたほうがいいぞ」
「余計な世話だ」
「そうもいかない。親友だからな」
「ふざけるなっ!」
ヴェリトラの全身から瘴気のようなものが立ち昇る。
「部下を昏倒させたくらいでいい気になるな。蘇生魔法に備えて魔力を温存していたが、研究を通して死霊魔法はもう私のほうが上手く扱える」
言葉とともに死霊魔法陣に大量の魔力が注がれ、湿った黒土から、再び無数の屍達が這い出してきた。
「やるなぁ、ヴェリトラ。俺も知らなかったけど、普通は二系統の魔法を操るのは難しいらしいぞ」
「黙れ」
あの人がまとっていた外套で、
あの人のような澄んだ瞳で、
あの人みたいな口調で、
私の前に立つな。
「師匠を救えなかったお前に、私の何がわかるっ!」
「ああ、その通りだ」
立ち止まったゼノスは、黒い外套を右手で掴みながらこう言った。
「だから、救うんだよ。今度はな」
死と闇に支配された地の底で、今、二人の弟子が邂逅する。
相まみえる二人の弟子。
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