第147話 アンデッド襲来【後】
前回のあらすじ)大幹部会の裏では地下水路の底で、ヴェリトラ達による大量のアンデッド生成と蘇生魔法の準備が着々と進んでいた。
その頃、大幹部会の会場は、いまだ混乱の最中にあった。
攻め込んできたアンデッドは、大幹部達が一蹴したが、敵は後から後から湧いてくる。アンデッドに追われる形で、控室からピスタや【獣王】の側近もやってきた。
「こりゃどういうことじゃっ」
「おそらく、ヴェリトラ――【黒の治癒師】の仕業だ」
大声を上げる【獣王】に、ゼノスは言った。
旧治療院でもアンデッドに襲われたことがあるし、ヴェリトラが死霊魔法の研究をした痕があった。確証がなかったため言わなかったが、【獣王】が患っていた腐食肺は、抵抗力が弱っているところにアンデッドの灰を吸うことが原因になることがある。おそらく地下水路でもヴェリトラは死霊魔法の研究をしていたのかもしれない。
アンデッドは次から次に現れる。大本を絶たなければ、終わりはないだろう。
「地下水路で大量の遺体が埋まっているような場所はあるか?」
早口で尋ねると、ピスタの耳がぴんと立った。
「聞いたことはあるにゃ。地下水路には水の流れが行きつく終着点のような場所があるって。そこには流れ着いた遺体がたくさん埋まってるらしいにゃ」
「わしゃあ幾つか知っておる。だが、そのうちのどこなのかはわからん」
【獣王】が腕を組んで唸った。しらみつぶしに当たるしかないかもしれないが、それぞれの場所はかなり離れているようで、もし外せばロスが大きくなる。
対策を思案していると――
「そろそろわらわの出番のようじゃな」
「うおお、っと!」
突然声がして、リリに渡されたお守りの腕輪から、にゅうと何かが出てきた。
漆黒の衣をまとった半透明の女が、ふわふわと浮かんでいる。
「カーミラ……?」
「うわ、わ、レイスだにゃぁぁっ」
驚いて腰を抜かしたピスタに、ゼノスは言った。
「ああ、ピスタはまだ直接会ったことなかったか。うちで同居してるカーミラだ。一応、悪いレイスじゃないぞ」
「一応、とはどういう意味じゃ」
カーミラがじろりと睨んでくる。
「わ、悪くないレイスなんている訳ないにゃあっ」
「ふあはは、レイスと同居とはさすが豪胆な男じゃのう、ゼノス」
娘と違って、さすがに大幹部の【獣王】は腰を抜かすようなことはなかった。
そもそも場が大混乱しているため、他の者達は気づいてもいないようだ。
「そもそも、お前どうして?」
「くくく……わらわは思い入れのあるものに宿ることができると言ったじゃろう。貴様がつけている腕輪も大昔にわらわが使っていたものじゃ。まあ、杖ほど自由は効かぬがな」
「ていうか、なんでいるの?」
「冷やかしに決まっておろうが」
「そうだと思ったよぉ!」
駄目だ。ただでさえ状況が切迫しているのに、更に面倒くさい奴が現れた。
というか、以前みたいにこいつが大量のアンデッドを引き寄せたのではないかという別の考えも一瞬浮かびかけたが、カーミラが地下にいた時間は短いし、それだけでは説明がつかない。やはりヴェリトラが関わっているのは間違いないと直感している。
カーミラは得意げな表情で含み笑いをした。
「くくく……予想以上に面白いことになっておるではないか」
「面白いってお前」
「前に地下水路に来た時に、ここは匂うという話をしたじゃろう」
「そういえば、そうだったような……」
「今わかったぞ。あれはアンデッドが放つ死の臭いじゃ。今この瞬間もアホみたいに沢山産まれておるのう」
「え?」
一同が顔を見合わせる。
「待てよ。ってことは、お前アンデッドが生まれているところが臭いでわかるのか?」
「もちもちのろんろんじゃあっ。死臭が最も濃いところに行けばいいんじゃろう。わらわを誰だと思うておる!」
「おお、さすが……っていうか、まさか心配だったからついてきてくれたのか」
カーミラの動きがぴたりと止まる。
「……馬鹿を言うでない」
「助かった。お前って、なんだかんだいい奴だよな」
「ふん、勘違いするな、ゼノス。わらわは冷やかしのためなら命も惜しまぬだけじゃあ!」
既に命はないが、突っ込むのはやめた。
「か、会話が成立するレイスなんて初めて見たにゃ。確かに悪くないレイスかもしれないにゃ」
へたりこんでいたピスタが、よろよろと起き上がる。大量のアンデッドに囲まれようとしている中、今更レイスに驚いていても仕方がないと腹をくくったようだ。
とにかく、最高位アンデッドのおかげで道が見えてきた。
「闇ヒーラーちゃん。あたしは出口を探してみんなを案内するにゃ。地上への道は塞がれているらしいけど、【情報屋】として隠し通路には詳しいにゃ」
ピスタの言葉を受けて、父親の【獣王】が側近のスキンヘッドの男に言った。
「お前もペシューカ……ではなく、ピスタを手伝え」
「はいっ。ですが、ボスは?」
「わしゃあ、他の大幹部共に共闘を提案してみる。一筋縄ではいかん奴らばかりじゃが、緊急事態じゃ。何人かの協力は得られるかもしれん」
「そんなことできるにゃか?」
娘の質問に、【獣王】はにやりと笑って返す。
「そこの闇ヒーラーは、交わらないはずのわしと娘を繋げた。だったら、大幹部同士を繋げるくらいのことに挑戦せにゃあ男がすたる。引退するつもりじゃったが、一番の古株として、わしにもできることがまだあるかもしれん」
「うわ、また来たぞぉぉっ!」
ドアを必死で押さえていた運営達が押し倒され、ゾンビの群れがなだれ込んできた。室内の大幹部達が戦闘態勢を取る中――
「《高度治癒》」
ゼノスの右手から放たれた白色光が、津波のようにゾンビの群れを飲み込む。
細い断末魔の悲鳴とともに、アンデッド達は塵となって消えた。
「ほぉ、面白え奴がいるじゃねえか」
【蛇鬼】の声を背中に聞きながら、ゼノスは開けた道へと駆け出した。
「行ってくる」
「任せたにゃ、ボス!」
「ああ。行け、闇ヒーラー!」
ピスタが抜け道を探し、【獣王】が他の大幹部に働きかける。
おそらく【カーミラ様と愉快な僕達】の派閥員達も奮闘しているだろう。
加勢に行きたいところだが、今の自分の仕事は元凶を止めることだ。
ゼノスは走りながら、後ろを浮遊しながらついてくるカーミラに話しかけた。
「道案内を頼んだぞ。アンデッドが生まれている場所に、きっとヴェリトラはいる」
「ふん、このわらわを案内役にするとは、貴様もえらくなったもんじゃ」
「頼むよ。無事に戻ったら、上等な酒を用意する」
「一本や二本じゃ足りぬぞ」
「十本用意する」
「くくく……乗った」
闇ヒーラーはレイスを引き連れ駆ける。
一路、かつての親友の元へ――
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