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第135話 最初の依頼【前】

前回のあらすじ)ゼノスは【情報屋】のピスタと二人、地下ギルドに潜入した


 複雑に絡まった無数の蛇。あるいは、二度と出られぬ巨大な蜘蛛の巣。


 二人の歩く地下水路はそのように称されることもあるらしい。


 光源と言えば弱弱しいランプが壁に沿って点々と灯っているだけで、初夏だというのに妙に肌寒い。石壁に靴音が幾重にも反響し、方向感覚が次第に曖昧になってくる。どこかで常に水滴の音がしているが、それがどこなのかもわからない。


「【受付】がいるのはこの先にゃ」


 しかし、【情報屋】のピスタのおかげで、地下ギルドの【受付】を見つけるという最初の関門は超えられそうだ。

 三つほど横穴を抜けると、ぼんやりした明かりが見えた。

 各々用意してきた仮面をつけて、粗末なカウンターへと近づく。


「地下ギルドに登録したいんだが」 

「あぁ、新人? ようこそ地下ギルドへ」


 カウンターに頬杖をついてやる気なさげに出迎えたのは、顔の半分に刺青が入っている女だ。

 若くも見えるし、熟年にも見える。女は気怠そうに紙とペンを差し出した。


「二人組ってことでいい? 派閥の登録名だけ決めてここに書いて。文字が書けないなら、面倒だけどこっちで代筆する」

「用意してきたから大丈夫だ」


 ゼノスは昨晩準備した封筒を女に渡した。個人名のつもりで【回復屋】と名付けたが、派閥名としても問題はないだろう。

 さして興味もなさそうにそれを受け取ると、女は中身を確認してわずかに目を細めた。


「ふぅん……ま、いいや。地下ギルドへの依頼は奥にあるラウンジか、私たち【受付】に聞いて。依頼を達成したら規定の報酬を渡す。基本的には早い者勝ちだけど、中には条件付の依頼もあるから一応確認して。他に質問ある?」


 女の目は、自身の毒々しいマニュキュアに注がれている。


「大幹部になるにはどうしたらいいんだ?」


 そう質問すると、女の視線が爪から離れた。


「……あんた、頭おかしいの?」

「その自覚はないけど、たまにそう言われることはある」

「……ま、いっか。ここに来るのなんて頭おかしいのばっかりだし」 


 女は少しだけこちらに興味を持ったようで、さっきより大きめの声量で返答があった。


「依頼をこなすと、報酬の半分が上納金として大幹部会に入る。こなした依頼の数と質、上納金の合計額で出世は決まるって聞くわ」


 報酬の半分が吸い取られるとは、結構な横暴だ。逆に言えば、上に行けば行くほど美味しくなるということなのだろう。


「具体的にどれくらいの実績を上げればいいんだ?」 

「さあ? 私は単なる【受付】。そこまでは知らないわ。大幹部会が定期的にひらかれるから、そこで判断されるみたい」

「わかった。ありがとう」


 ゼノスとピスタは仮面をつけているが、怪しげな出で立ちについては一切言及されない。

 ここはそういう場所なのだろう。


 受付の脇を通って奥に足を踏み入れると、見るからにガラの悪そうな男達がたむろしていた。

 ピスタが咄嗟にゼノスの腕を掴んでくる。じろじろと無遠慮な視線を浴びながら壁際に近づくと、幾つもの依頼が貼り出されていた。


 恐喝。

 窃盗。

 暗殺。

 復讐。


「……なんかきな臭い依頼ばっかりだな」

「仕方ないにゃ。ここはそういうところだにゃ」

「うーん、もうちょっとまともな依頼をやりたいところだが……」


 目を上に向けると、魔獣討伐の依頼書があった。


「お、あれいいんじゃないか? デッドスパイダーを討伐して、鋼の糸を手に入れる。額もかなりでかいぞ」

「な、何言ってるにゃ。横に討伐ランクAって書いてる激やば魔獣だにゃ。きっと冒険者ギルドに出しても受け手がいなくて、こっちに流れてきた案件にゃ」

「まあ、Aランクくらいならなんとかなると思うが……」


 そう言いかけたがやめた。よく見ると、新人は対象外と注意書きがある。


「おい、仮面の奴ら。この辺じゃあ見かけねえが、お前ら新人か?」


 たむろしている男の一人が声をかけてきた。


「ああ、宜しくな」


 そう答えると、男達は一斉に大笑いを始める。


「ぎゃははっ、宜しくだってよ。礼儀正しい野郎だ。じゃあ宜しくついでに金でも寄越せよ」  

「ひ、ひぇ……」


 ピスタは怯えているのか、耳がぺたんと閉じている。

 ゼノスはぼりぼりと頭を掻いた。


「あのな、金ってのはそんな簡単に貰えるものじゃないぞ。見合った労力を提供して初めて――」 

「何ごちゃごちゃ言ってやがる。今すぐ金を寄越すのと、殴られてから金を寄越すのと、どっちがいいか聞いてんだよ」

「悪いけど、依頼表が見えないからそこどいてくれるか?」

「てめえっ!」


 男は逆上して殴りかかってきた。が――


「あたぁぁっ!」


 すぐに右手を押さえて蹲る。続けざまに襲ってきた男達も同様だ。

 防護魔法は発動済なので、素手程度で傷をつけるのはほとんど不可能だろう。


 それでも立ち塞がろうとしてくるので、ゼノスは能力強化魔法で腕力を強化し、男達を薙ぎ払った。悪いが、あまり悠長にしている暇はない。床をごろごろと転がった男達は、荒く息を吐きながら信じられないようなものを見る目を向けてくる。


「んふふ、あーははははっ! 三下共っ、格の違いがわかったかにゃっ。死にたくなければ、うちのボスに気安く声をかけるんじゃないにゃあっ!」

「変わり身⁉」


 突然ふんぞり返ったピスタを横目に、ゼノスは壁の依頼表を順番に確認する。

 そして、ようやく着手できそうな依頼を発見した。


 書いてあったのは、小型魔獣の治療、という文字だ。

明日も更新予定です。


見つけてくれてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先輩からのカツアゲという定番がこんなにあっさりと… [気になる点] 依頼表の「盗難」。 「ある品物を盗んで来てほしい」という種類の依頼であれば、「盗難」ではなく「窃盗」では?
2022/10/19 09:38 退会済み
管理
[一言] ピスタは一度痛い目を見た方がいいんじゃないですかねぇ……w
[良い点] 地下ギルドに来るような依頼って、それこそ本当に人身売買や○春など、犯罪行為しか無いと思ってたし、大幹部になるためにはそういった件やそれに加担している者を助けて恩を売ることになるのだから、そ…
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