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第125話 賭博勝負【前】

前回のあらすじ)地下ギルド大幹部の情報を賭けてゼノスは【情報屋】のピスタと賭博勝負をすることになった

「リリ心配……」

「先生、賭け事は不慣れだろ。あたしが代わりにやるよっ」

「むしろ、我にリベンジをさせろ!」


 ゼノスと【情報屋】の猫人族――ピスタの間で、地下ギルド幹部の情報売買を賭けた勝負が行われることになった。肝心のカーミラが雲隠れし、リリ達が慌てた様子でやってくる。


「いや、師匠やヴェリトラの件は俺の個人的な問題だからな。誰かに任せる訳にはいかないよ」


 元はと言えばカーミラの挑発で始まった勝負だが、この機会を逃すとかつての親友に繋がる糸は途絶えてしまうだろう。


 ゼノスは、ゆったりした足取りで、ピスタの待つ観客同士の対戦場へと向かった。


「じゃあ、ここでやるにゃ。あたしのお気に入りの席にゃ」


 ピスタは壁を背にして腰を下ろし、ゼノスに前に座るよう顎をしゃくって指示した。


「ここは客同士が自分達でルールを決めて賭博ができる場所にゃ。踏み倒しができないよう、手数料を払って、スタッフが立ち会うことになってるにゃ」

「なるほどな」


 ゼノスとピスタが机の端にチップを置くと、リンガがずいと踏み出てそれを拾い上げた。


「今回はリンガが立ち会わせてもらう」

「うーん、リンガちゃんは闇ヒーラーちゃんの仲間だにゃ。公平な審査ができるかにゃ?」

「ふん。リンガがゼノス殿と相思相愛でラブラブで結婚を誓った間柄なのは確かだが、仕事に私情は挟まない」

「リンガ。今、さらっとまあまあな偽情報を入れこまなかったか?」


 【情報屋】に変な情報を渡さないで欲しい。

 ピスタはわずかに目を細めて、肩をすくめた。


「……ま、いいにゃ。代わりに勝負の内容はあたしに決めさせて欲しいにゃ。よいかな、闇ヒーラーちゃん?」

「構わないが、ルールは簡単なのにしてくれよ。難しい奴だと覚えられないからな」 

「心配いらないにゃ。勝負は数字当て。カードの山から一枚を取って、相手の数字を当てるゲームにゃ。当てれば勝ちの単純なゲームにゃ」


 カーミラの予想通り、相手はレーヴェの時と同じ勝負を指定してきた。


 リンガが蝋で封がされた新しいカードを部下に持ってこさせ、二人の前で箱を開ける。

 お互いがカードをぱらぱらとめくって中身を確認した。


 スペード・ハート・ダイヤ・クローバーの四つのマークがあり、それぞれが1から13まで順番に並んでいる。ピスタはカードの束を裏返してゼノスに差し出す。


「それぞれシャッフルするにゃ」

「カードの扱いは得意じゃないから、あんたに任せるよ」


 ピスタは頷くと、カードを十回ほど切り、裏返しでテーブルの中央に置いた。


「さあ、好きな場所から一枚を取るにゃ。まずはそれをあたしが当てるにゃ」


 ゼノスは言われた通り、カードの山の中央部付近から一枚を抜き出す。

 手元で確認した後、カードを目の前に伏せた。


「んふふ、なにかにゃあ。カードの数字は1から13。どうせ正解の確率は13分の1。運に賭けるしかないにゃ」


 ピスタはにやにやしながら、ゼノスの出したカードを眺める。


「レーヴェ、あいつの腕前はどうなんだい?」


 テーブルから少し離れた位置で、ゾフィアがレーヴェに尋ねた。

 面白そうな勝負の気配を感じ取ったのか、他のカジノ客達も興味深そうにギャンブル対決の場を囲み始めている。


「我と勝負をした時は、お互いが2回外して、3回目にあいつが当てた」

「まあ……普通っちゃ普通だねぇ」


 確率から考えれば3回目で当てるのは早い気もするが、別にあり得ないことでもない。

 少し安心したようにゾフィアが言うと、レーヴェは「ただ――」と付け加えた。


「あいつは最初の二回は本気を出していなかった気がする」

「え?」


 ゾフィアが声を上げた瞬間、ピスタはにやりと笑って言った。


「今回は大事な勝負だから、最初から本気で行くにゃ」


 猫目がきゅうと細まり、ピスタはゼノスを観察するように上目遣いを向ける。


「このカードは6かにゃ、7かにゃ、8かにゃ?」

「質問に答える必要はあるのか? そういうルールはなかったと思うが」

「ただの雑談だにゃ。答えたくなければ答えなくてもいいし、嘘を言っても構わないにゃ」

「じゃあ、黙秘するよ」

「ふふふ、構わないにゃ。2か、3か、4あたりかにゃ」

「……」


 沈黙するゼノスをじっと眺めながら、ピスタは似たような質問を何度か繰り返した。

 そして、不敵な笑みを浮かべる。


「うふふ、どうせこれは単なる運勝負。もし、そう思っているなら――」


 そこで言葉を切って、ピスタは勝ち誇った顔で続けた。


「闇ヒーラーちゃんの負けだにゃっ」

「なに?」

「カードは、3にゃ!」


 高らかに宣言し、ピスタは場に出ている一枚をめくった。


 スペードの3。


 いきなりの正解に、周囲からどよめきが上がる。

 摘まんだカードをひらひら振りながら、ピスタは笑った。


「忘れたのかにゃ? あたしは【情報屋】。黙っていようが、嘘をつこうが、視線の動き、顔の筋肉の収縮、息遣い、小さな情報を積み上げればおのずと真実は見えてくるにゃ。闇ヒーラーちゃんは平静を装ってるけど、目がちょっと充血してるのは動揺かにゃ? あたしは見逃さないにゃ」


 無言のゼノスに向けて、ピスタは余裕の笑みで言った。  


「さあ、これであたしの先制。闇ヒーラーちゃんが次に不正解ならあたしの勝ちにゃ」

「……」


 今度はピスタがカードを選ぶ番。

 山の下のほうから一枚を抜き出し、数字を確認して裏返しに置いた。


「うふふ。これを外せば、闇ヒーラーちゃんはあたしのものにゃ」


 勝負を見守っているリリが、困惑した顔で言った。


「ど、どうして⁉」

「うーん……質問で揺さぶりをかけて、相手の微細な反応を読み取ってるってことかい? そんなことができるもんなのかねぇ」

「いや、我の時もそうだった。さすがは【情報屋】ということか。もし奴が心を読むなら、ゼノスの勝利は難しいかもしれんぞ」


 不安げに呟くレーヴェ。リリがその場であわあわと足踏みをする。


「ど、どうしよう。ゼノスがあの人のものになっちゃう」

「くくく……心配するな、リリ」


 リリの持つ杖が振動し、カーミラの声がした。


「貴様が慌ててどうする。ゼノスを信じるんじゃ!」

「う、うん……そうだね。リリ、ゼノスを信じる!」

「いや、そもそもあんたがけしかけた勝負じゃないかい、カーミラ」 


 ゾフィアが突っ込むと、杖はすんと静かになった。

 背後のやり取りをぼんやり耳にしながら、ゼノスは目の前のピスタに言った。


「やるなぁ、あんた」

「うふふ、称賛するなら情報をくれにゃ」

「要は運勝負に見せかけた心理戦ってことだな」

「そういうことにゃ。ただ、わかったところで、素人にはどうしようもないにゃ」


 すると、ゼノスはにやりと口の端を上げた。


「そうでもないぞ。実はこういう勝負は俺も得意なんだ」

「え?」

「あんたのカードは8だ」


 ゼノスは大きな声で宣言し、ピスタの前のカードをめくった。


 数字は、8。


 背後の観衆から、喝采が上がる。


「な、なぜにゃ……」


 猫目を見開くピスタに、ゼノスは笑いかけた。


「さあ、続きをやろうか」

反撃開始…!

(二人の駆け引きの裏側は次回明らかになる予定です)


見つけてくれてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ピスタの理屈はわかる。 ゼノスもヒーラーという人体に関わる立場から 似た方法かと思ったが…、 ノーヒントで『8』と確定できるのは何故だ!?
[一言] 診察技術で網膜に映った数字を見ているとかそんなこう。
[一言]  透視のヒール! ……みたいな奴じゃないですよね。
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