第12話 昼下がりの女子会
「それにしても、先生っていったい何者なんだい?」
「うーん、リリもよく知らない。貧民街で育って、偶然すごい治癒師に会って、治癒師を目指して、冒険者の人に声をかけられて、パーティに入ったけど追放されたことくらい」
「ゼノス殿を追放? そのパーティ大馬鹿だ」
「我には信じられぬ。そんなアホが世の中にいるのか」
「あの治癒魔法は常識では考えられないからねぇ。いったいどうやって身に付けたのかねぇ」
「貧民街にいた時に覚えたみたいだけど、リリも詳しいことはわからないの」
「ゼノス殿は防護魔法も使ってた。リンガの手斧が全然きかなかったし、あれはどういうこと?」
「パーティでよく身代わりにされたから覚えたって」
「覚えたって……そんな簡単なものなのかねぇ。まさか他にも魔法が使えるのかい?」
「リリは見たことないけど、能力強化魔法もかじったことがあるって」
「治癒、防護、強化……たくさんあって、リンガの頭はパンクしそうだ」
「一番得意なのは治癒魔法だけど、防護も能力強化も、体の機能を強くすることだから基本は一緒だって言ってた」
「我には理解不能だが、すごいことだけはわかるな」
「でも、ゼノスはライセンスがないし、治癒師の教育を受けてないから、自分は大したことないって思い込んでるの」
「先生と肩を並べる奴がいるとしたら、せいぜい噂に聞く聖女くらいのもんだと思うけどねぇ」
女子達は一斉に溜め息をつく。
「先生はこれからどうなるんだろうねぇ……」
「本人はなるべく目立ちたくないみたいだ」
「だが、周りが放っておくまい」
「くくく……。前置きはそのくらいにして、そろそろ本題に入ったらどうだ」
奥のレイスが、不敵な笑みで紅茶のカップを置いた。
「女子会のメインディッシュと言えば恋バナじゃろう。いったい、誰があの鈍感男をものにするのかのぅ」
「あたしだよっ」
「リンガに決まっている」
「我は負けんぞ」
「リ、リリだって……」
皆が一斉に立ち上がる。
交錯した四つの視線が、やがてカーミラに向いた。
「でも、カーミラはどうなんだい?」
「リンガも同じことを考えた」
「おぬしはゼノスをどう思っているのだ。レイスよ」
「じ、実はリリもちょっと気になってた」
「…………わらわ?」
レイスは目をぱちくりさせる。
しばらくの沈黙があり、カーミラは声を立てて笑った。
「ふっ、はははっ。馬鹿も休み休み言うがよい。この死霊王カーミラが、一介の人間風情に好意など抱く訳がなかろう。そもそも貴様らと違って、わらわはゼノスの完全なる被害者じゃからの。勝手に家に押し入られるわ、危うく浄化されそうになるわ、部屋は取られるわ、静かな環境は失われるわで散々じゃ。むしろ、虎視眈々とあやつの寝首をかく機会を狙っているところじゃ。ひーひっひ……なんじゃそのニヤついた顔は?」
「いやぁ……なんだかあやしいねぇ」
「話し出すまでに微妙な間があった」
「しかもやたら早口だったしな」
「むむぅ、カーミラさんは強すぎるライバル……」
「き、貴様ら、レイスをからかうでない。確かに多少面白い奴とは思っておるが、わらわは300歳ぞ」
「恋に年齢差なんて関係ないさ、ねぇ」
「しかも魔物じゃし」
「リンガは種族の違いなど気にならない」
「既に死んでおるし」
「好きな気持ちに、生死など関係あるまい」
「さすがにそれは関係あると思うが……?」
「ったく、意地っ張りは可愛くないぞ。カーミラ」
「いや、誰……? リリ、貴様急にキャラ変しておるぞ」
「リリ、ゼノスの役をやってみた」
「死ぬほど似ておらんの」
「えぅぅ……」
その時、入り口のドアが、がちゃりと開いた。
「ただいま、リリにカーミラ。往診終わったぞ……って、お前達また来てるのか。いい加減治療の邪魔だぞ」
女達は顔を見合わせて、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。
「別にいいじゃないかい。ねぇ」
「そう。どうせ治療院は暇」
「ゼノスのおかげで我ら亜人の争いがなくなって怪我人が減ったからな」
「くっ、余計なことするんじゃなかった」
「でも、リリはみんながいると楽しいよ」
「まったく、かしましい女どもじゃ」
「なんでうちの治療院はエルフとリザードマンとワーウルフとオークとレイスが仲良く談笑してるんだ……」
紅茶の香り漂う治療院で、いつものように賑やかな時間が過ぎていった。
小休止回。次回から本編続きます。
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