第1話 天才治療師パーティを追われる
・日間総合1位
・週間総合1位
・月間総合1位
・四半期総合1位
・書籍化・コミカライズ予定
ありがとうございます!
「ゼノス、最近お前何もしてないよな。ぶっちゃけもういらないんだ」
滞在先の宿で、リーダーのアストンに呼び出されたゼノスは、唐突にそう言われた。アストンの後ろに立つ他のメンバー達も冷ややかな目をゼノスに向けている。
ゼノス達のパーティは大型魔獣を何体も倒した、最近売り出し中の冒険者グループだった。ギルドからの報酬も増えているし、名を聞きつけた貴族がスポンサーについたことで資金は潤沢にある。実際、アストンの部屋は、豪華な家具が並び、毛並みの良い赤い絨毯が床全体に敷き詰めてあった。
ただ、その財はゼノスには分け与えられていない。
なぜなら、ゼノスはパーティで唯一の貧民街出身だからだ。
大陸中部に位置する広大なハーゼス王国は、王族を頂点に、貴族、市民と階級に分けられており、貧民は最下層に位置付けられていた。根強い差別意識の名残りか、同じパーティでもゼノスが泊まる部屋だけはいつも質素なものだった。
それでも、自分を拾ってくれたアストンのために、ゼノスは腕を磨いてきた。
「何もしてないことはないはずだ、アストン。俺だって多少はみんなの役に立っているつもりだ」
「はっ、治癒師のライセンスもないくせに」
アストンは鼻で笑った。
ハーゼス王国では、冒険者として役職ライセンスを得られるのは市民からだ。貧民にはその権利がない。当然、養成機関にも通えないため、必然ゼノスの治癒魔法は全て独学だった。
「もう、お前の我流の治癒魔法なんてなくても、強くなった俺らを傷つけられるような相手はいねえんだよ」
「それは、俺が――」
仲間が傷を負いそうなら即座に治癒魔法をかけていたから。それに防護魔法や能力強化魔法も使って、そもそも怪我をしにくい体にしていたからであって――。
そう説明するが、アストンは大きく肩をすくめるだけだった。
「おいおい、大ボラ吹くなよ。お前はライセンスがないから知らんだろうが、治癒魔法ってのは発動に魔法陣や詠唱が必須なんだ。聖女じゃあるまいし、傷を負った瞬間に発動なんてできる訳ねえだろ。俺らが傷を負わないのは、ガイルの防護魔法のおかげと俺らが強いからだ。お前は何の役にも立ってねえ」
アストンの後ろに立つ、魔導士のガイルが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「……」
ゼノスはそれ以上の口応えはしなかった。
アストンはゼノスの恩人だ。
治癒師がいないから俺らのパーティに入れよ――貧民街を通りかかったアストン達が、ゼノスにそう声をかけてくれたから自分はここにいる。
それに治癒師として正規の教育も受けていないため、確かに間違っているのは自分かもしれない。
アストンはおおげさに溜め息をついた。
「それと、いい加減察しろよ、ゼノス。俺らはこれから王族や貴族にもアピールしていかなきゃならねえんだ。パーティに貧民街出身の野郎がいたら、印象最悪だろ」
「……だけど、それでも俺を仲間だと言ったじゃないか」
ひゃひゃひゃひゃ、とパーティメンバー達が大笑いする。
アストンは腹を押さえながら、こう言った。
「ばーか、まだ気づいてなかったのかよ。俺らはただ働きが欲しかっただけなんだよ。貧民街の奴なら飯が少なかろうが、一人野宿させようが文句は言わねえし、危ない時には身代わりにしても心が痛まねえ。まあ、俺らは強くなりすぎて危ない時なんてなかったがな」
「……」
これまでの思い出が、瓦礫のように崩れ落ちる音をゼノスは聞いた気がした。
孤児としてずっと貧民街で路上生活をしていたから、パーティにいれることが嬉しかった。居場所があることが嬉しかった。
だから、辛い仕打ちを受けても、皆の役に立てるように歯を食いしばって頑張ってきたのに。
だけど、居場所など最初からなかったのだ。
「……わかった。そういうことなら、パーティを抜けるよ」
こうしてゼノスは、パーティを追い出されることになった。
ゼノスを貧民出身という色眼鏡でしか見ていなかったメンバー達は、誰のおかげで今のパーティの地位があるのか、少しも理解していなかった。
後に彼らは、この選択を心から後悔することになる。
気が向いたらブックマーク、評価など頂けるとありがたいです……!