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夢の、書店。  作者: 夢乃
見つからない雑誌
4/22

四.

 寝転がっていたソファから転げ落ちそうになって、はっと目を覚ました。慌てて手を伸ばし体を支えようとしたが、まだ寝ぼけている体は言うことを聞かず、ずるずると床に転げ落ちてしまう。

 結局、毎月購入していた雑誌の最新号を、丸一日──家を出たのはお昼過ぎたったから半日か──探しても見つけられなかった僕は、家に帰ってきてから不貞腐れてソファに寝転がり、悶々としている内にいつのまにか眠ってしまったらしい。


 夕食の間も、僕は不機嫌なままだった。普段から口数の少ない僕だが、両親も三つ違いの姉も僕の様子に気付いているらしく、いつもより重苦しい空気が食卓を覆っているようだった。そういったことに鈍い僕でもそれに気付くくらいだから、僕の機嫌の悪さは自分で思っている以上だったのだと思う。僕は早々に食事を終わらせ、食堂を後にした。その方が、僕にとっても家族にとっても良いだろうから。早くに席を立つと普段は引き留める母も、この日は何も言わなかった。


 自分の部屋に引きこもってベッドに体を投げ出す。いつまでもうじうじしてはいられない、と思うのだけれど、これまで確実に発売日に手に入れられていた雑誌を買えなかったことが、自分で思う以上に気持ちにダメージを与えていたらしい。いや、そもそも『買えない』なんて思ってもいなかったから、それができなかった時の心理的影響なんて考えてもいなかった。何の覚悟もなかったところにハンマーで殴られたような、そんな気持ちだった。


 ベッドの上から本棚を見る。図鑑や伝記、マンガの単行本といった小学生らしい背表紙の並ぶ中に、異彩を放っているのは今日買えなかった雑誌のバックナンバー。最初に購入してからおよそ二年半分の冊数が並んでいる。そこに穴ができてしまった。溜息をついて顔を枕に埋めようとした時、視線の通り過ぎた学習机の上に見覚えのない何かが載っていることに気付いた。何だっけ、あれ?


 気だるい気分のまま身を起こし、重い体を机の前に引きずってゆく。机の上にあったのは、薄茶色の紙袋。何も印刷されていない、愛想のまったく無い、何の変哲も無い紙袋。ちょうど小版の雑誌が入るくらいのサイズで、それくらいのものを中に納めているくらいの厚みを持っている。やっぱり見覚えはない。・・・いや、ちょっと待って。どこかで見たような。思い出そうとするけれど、頭が靄に包まれているようで良く思い出せない。どこかの古びた本屋さんで何かを買った記憶が微かにあるような。何ヶ月か前の記憶か、それとも夢の中の出来事か。


 僕は椅子に座り、紙袋の口を開けて中に入っているものを取り出した。

「・・・っ!」

 何か叫んだような気もするが、あまりのことに声も出なかった気もする。紙袋に入っていたのは紛れもなく、僕が今日、脚を棒にして探し回っても見つけられなかった、今日発売の小説雑誌だ。なんでここに。どこで買ったんだっけ。家族の誰かが買ってきてくれた? いや、それはない。買ってきてくれたとしても、こっそりと置いていくような小洒落た真似はしないだろう。


 今日一日の自分の行動を振り返ってみる。自転車を漕いで、街中の本屋さんを巡って、隣街まで探しに行って、結局見つけられずに自転車を漕いで帰ってきた。それから寝転がったソファで寝入ってしまい、そこから転げ落ちそうになって目が覚めた。それから夕食を食べて自分の部屋に入って・・・それだけだ。ソファで寝ている間に何か夢を見た気がするけれど、それは夢の中のこと。そこで何が起きようと、現実に起きることじゃない。自分でも気付かないうちに、どこかの本屋さんで買ってきていたのだろうか。

 まぁ、いいや。今は今月号がここにある、買いそびれていなかったことを、素直に喜ぼう。


 そう決めた僕は、楽しみにしていたマンガの続きを読むため、雑誌のページを捲った。

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