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死者は黄泉比良坂を超えてやってくる(馬15)  作者: 蔵前
三 王様な家具と良純和尚
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王様の家具を求めて

 翌日は結婚式後の裏方のあれやこれやを片した夕方の遅い時間にかかわらず、俺と玄人は孝彦が運転するトラックで倉庫へと向かっていた。

 五人乗りのピックアップトラックのタンドラという車は馬力もあり格好も良く、実を言うと、俺が新車を買う前に知りたかった車種でもある。


「逆輸入なのですか?」


「一目惚れでね。日本メーカーの車を北米から取り寄せるって変だよねぇ。」


 完全にハイに近いほどの上機嫌で車の操作をする彼は、玄人の話では結婚十二年目にして再び子供を持てる喜びに浸っているのだという。


「親父に白波の本殿の話をしましたら、孝継兄さんの方が乗り気でね。ほら、彼は歴史的建造物の修繕と保全に力を入れておりますでしょう。歴史のある本殿の再建が出来ると大喜びです。」


 橋場家次男で孝彦と違い母親似の見栄えの良い孝継は、実は解体の方が好きなのではないかと俺は考えている。

 俺の親友の家が大破した時は、玄人に良くしてくれた礼だと彼が秘密裏に最高の修繕会社を率いたが、結局彼は家自体を解体してそっくり同じものを建直すという大技をやってのけたのだ。


 よって親友は、十年落ちの中古の自宅が知らぬ間に新築になっていたという果報者である。

 そんな孝継が修繕ではなく解体して再構築など頼まれれば、彼の目の輝きが如何程だったのか、手に取るように解ろうとも言うものだ。


「お子さんのことはご家族にもう伝えて?」


「はい。親父はとても喜んでくれましてね、電話口で泣き出す始末で。ですがね、麻子の方がちょっと。」


 麻子とは、大昔に急死した橋場家長男の忘れ形見である。

 橋場家では大事なお姫様であるが、金持ち擦れしていない清廉なスポーツ少女で、俺のお気に入りでもある。


「橋場では唯一の孫ですからね。焼餅を焼いてしまいましたか?」


「いいえ、怖いと怯えちゃって。玄人が言っていた虫の事が大正解でしてね。最近輸入したばかりの建材がある倉庫に兄が慌てて飛び込んだら、そこはシロアリ塗れだったそうですよ。耐性がついて薬剤が効かないタイプだったそうで。兄はこれから年末年始返上で海外倉庫の見回りです。大事になる前で良かった良い知らせなのに、麻子は悪魔の予言だと言い張るそうで。思春期の女の子って難しいですね。」


 俺は法事で会った時の麻子の事を思い出し、彼女は非常識な奴らの巣で育ちながらも常識的な良い子に育っていると、彼女にさらに好感が湧いた。


「橋場の皆様に白波のパーティでお会い出来るのが楽しみですね。」


「残念ながら今回橋場は全員不参加です。僕と妻は勿論ですが、麻子が白波のパーティは悪魔の巣だから嫌だと駄々を捏ねましてね、父と二人でオーストラリアだそうです。」

「コアラ、いいですよね。」


 存在を忘れられていた玄人が口を挟んだ。

 彼の両手は見えないコアラを抱いているのか、彼の両手の指がワキワキと蠢いている。


「お前、コアラを抱きたかったの?」


「コアラより、ナマケモノがいいです。あの何とも言えない顔立ちとスローモーションな動きに癒されます。」


「お前こそナマケモノだものな。キジムナー目怠け者だっけ?」


 運転手の孝彦の笑い声に気づいたキジムナー属ナマケモノは、両頬をプウと膨らませると、会話の方向を変えた。


「孝彦さんのあのカウチに淳平君が体が凄く楽だって喜んでいました。売り物なのにいいのですか?使わせていただいて?」


 孝彦はハハハと高らかに笑う。


「家具は使う人が喜んでいるって聞けた方が嬉しいからいいんだよ。それに、あのカウチは咲子さんが淳平君の椅子だからってお買い上げしてくれたよ。驚いたよ。僕が作った家具は昔くさいからって咲子さんは見向きもしなかったのに、お兄さんの花房馨さんにも贈るって、別のカウチも買ってくれたの。それも僕が付けた値段の倍でね。ねぇ、百目鬼さん。この子は割り引くな値を上げろって言い張るのですよ。蔵人くろうどさんも同じことを言っていたなぁ。」


「当たり前ですよ。孝彦さんの家具を買えない人間は家具に見合わないから安くしてはいけません。」


 孝彦は嬉しそうに笑うが、俺には高級家具の値段というものには驚きしかない。

 たかが椅子、家と同じに経年劣化していくだけのものが、古くなればアンティークとして、有名職人によるものならば美術品として、百万二百万と、不可思議な値がつくのだ。

 俺には全く理解できない。

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