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死者は黄泉比良坂を超えてやってくる(馬15)  作者: 蔵前
十九 敵の大将とオコジョの王様
52/65

暫定王様のいる特別会場へ

「どうしましたか?」


「いえ、友人から。新種の死人が最後に別の人格を現して大笑いしてから死体に戻ったと。操っている者がいるはずだから気をつけろって、メールです。」


 足を止めた麻友は大きく息を吐いて、それから天井を見上げた。


「どうしました?」


 俺に顔をむけた彼は、本当に疲れたような顔つきで再び溜息をついた。


「もう家出がしたいですよ。白波だ諏訪だって、そういう心霊的な関わりが嫌で公務員を目指したのに、僕はこんな事案ばっかりです。警察庁の辞令で新潟県警に配属されてみれば、今度親父が喜んで発足させる課の課長ですって、僕は。僕は京都のマル暴対策班のままで良かったですよ。最近やくざも極道も大人しくて、ちょっとぐらいは抗争してくれませんかね。暴れないなんて、ちょっと、何のために暴力団をやっているのでしょうかね。何ためのチャカ密売及び違法所持なんですか?」


 楊が「特定犯罪対策課」を与えられた時に聞いた愚痴と一緒だったので、麻友には同情しきりだが、俺は人間味が無い事が売りなので彼の肩を軽く叩くだけに留めた。

 楊の愚痴の時と同じ面倒臭いというのが本意なだけだが。


 さて、彼の弟と従弟は既に特別会場の方に入っているはずだ。

 麻友達によると、死人の殆んどが二番甲板の特別会場に潜んでいるとの事だ。

 一般客ひしめく大会場の方の死人は、加瀬が白波の人間と動いて対処しているからと、俺達はここに直接来たのである。


 爆弾は小型で威力は小さいが、いかんせん数が多過ぎた。

 タイマーも無いのであればまずは死人の排除を優先という考えである。

 しかし、特別会場は狭いといっても大広間の本会場と比べてだ。

 敵は散っているだろうがせめて出入り口は押さえようと、アミーゴズは右舷側のドア、そして俺達は左舷側のドアに立つ事を決めたのである。


「行きましょう。アミーゴズの言う通り、さっさと済ませてパーティに参加しましょうよ。あなたはまだ一時間余裕があるのでしょう。」


 麻友は俺にふっと笑い返すと、「そうですね。」と答えた。

 そして、前を歩きながら彼は語り出した。


「僕の後ろの三郎さんが言うにはね、僕達は王様の命令が出るまで何もするな、です。会場に入ったら、少し軽いものを飲んだりして遊びましょうか。」


「良いですねえ。それで、王様って誰です?やはり船主の早坂辰蔵ですか?それとも君達の祖父の周吉さん?」


 ぴたっと足を止めた麻友は、俺を不思議な顔で見返した。


「何か?」


「王様は玄人でしょう。」


「あれはお馬鹿な王子かお姫様でしょうが。」


 麻友は大きく笑い出すと歩き出し、そして、俺も笑える言葉を発した。


「それじゃ、暫定王様で。」


「お馬鹿には暫定が丁度いいですね。」


「お馬鹿ですよね。そこが可愛いのですけど。アミーゴズにからかわれる度に僕の所に逃げて来ましてね、まゆゆー助けてって。あの二人は玄人が本当の弟みたいで彼の特別になりたかっただけなのにね。クミには母親がいない。ユキは母親と上手くいっていない。それで休みの度に彼らは本家の祖父の元に放り込まれて。玄人もそうでしょう。海外旅行に行く沙々さんの邪魔だって、休みになる度にあの家に放り込まれていたんですよ。」


「あのババアには本当にムカつきますよ。それにしても、全く知りませんでした。彼らはあの無頼で今まで来ていたのかと。本当は繊細な若者だったのですね。」


「ただの無頼ですよ。ユキなんて僕の事も兄だとは思っていませんからね。ですから時々マウント取りが必要なのです。例えばオコジョを僕の方が上手に使えたり、玄人が僕の方に甘える所を見せたりね。」


「君も酷い人間だな。」


「言ったでしょう。特別な人間に成るためには、少々からかいも必要だと。」


「クロがからかわれて遊ばれる元は君か。酷いな!」


 俺達は笑いながらドアを開け、特別会場とやらに仲良く踏み込んだ。

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