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 佐藤は死人だった「しみず」の脈を取り、彼の完全な死を確認すると、素早く縄を解き始めた。


「え、どうして。さっちゃん。」


「騒乱の通報で駆けつけたら全員死亡していたを通すの。縄で縛ったままじゃ死因が私達の責任になっちゃうでしょう。」


「さすが、さっちゃん。それにしてもさ、凄いじゃん。さっちゃん一発正解。」


「えへ。タバコ押し付けた痕が耳の裏にあったからね。」


「じゃあさ、あっちで天井から落ちたやつには顎にあるね。あたしがそこにヤキ入れてやったからさ。自分らがしてきた事を反省させなきゃだもんねぇ。」


「え、みっちゃんもやつら潰していたんだ?警察に行くから大人しくしていたのかと思っていた。」


「さっちゃんこそ。暴れていたなら誘ってよ。早河を土下座させて脱糞って、あたしも見たかったよ。」


「見るモンじゃないって。弱々し過ぎてあいつには焼印押せなかったからね。あいつこそでっかい焼印にしてやろうって製菓用のファンシーな奴を買ってやったのにね。焼印をライターで炙った途端に、ブリっよ。それで勘弁してください。弱過ぎ。」


「うっわ。残念。あいつが主犯だったもんねぇ。」


 楊はあの少年達が一斉に姿を消した本当の理由をなんとなく理解して、あの頃の自分の後悔を払拭してくれた彼女達に感謝しながら、彼女達の会話を頭から全消去した。


「かわさん、白塗り女が消えた。」


 受付前にいた死人二名が忽然と消えていた。


「いつ動いた?」


「天井から仲間が落ちた時です。いた場所を零として二時と五時方向です。」


 五月女の返事に葉山と楊は目線をかわした。


「それでは先にこの塾長の名前を呼びますか?」


「これは残しておこう。逃げた本星がこの被害者の外見を持っているかもしれないでしょう。既に別に成り代わっているにしてもね。」


「本当に、今日は一体どうしたのですか?かわさん、キレッキレですよ。」

「君がどんな目で俺を見ていたか、今日一日でよくわかったよ。」


 がたん、がたん。


 潜んでいた二人の死人が突然バリケードを超えて飛び込んできた。

 五月女の言うとおりの二時と五時の方向からであった。

 葉山はスッと避けると踵落しで死人を床に強く打ちつけて、声をあげた。


「たかべかな!二十二歳。」


 セーターにロングスカートの死人はガクリと横たわった。


「凄いね、君はスカート履いている相手も普通に潰せるんだ。」

「当たり前でしょう。俺はフェミニストですよ。かわさん、うしろ。」


 楊の後ろから、楊が避けて越えたバリケードの反対側、つまり八時方向に突っ込んだ死人が襲い掛かってきていたのだ。

 しかし、その死人も楊に噛み付く前にゴロっと床に転がった。

 そして、五月女を襲った死人と同じようにびくびくと蠢いている。


「え、かわさん。さっきも驚きましたが。あなたは何を。」


「うん?お友達メールでオコジョに命令して遊べるよってあったからね。」


「オコジョ?」


「うん。あの子達電撃を使えるでしょ。使えるね。腕半分くらいの距離だけだけどね。」


 目を丸くしている葉山と、呆然と葉山と楊を見守っているだけの五月女を尻目に、楊は声をあげた。


「はまぐちゆう!二十二歳。」


 チュニックを羽織っていた死人は楊の声によりビクッと跳ね上がってから完全に動きを停止した。

 倒れた死人の白い顔は「はまぐちゆう」だった頃の若い女性の顔だ。


「かわいそうにね。」


 五月女も楊の呟きに同調し、せめて遺体の瞼を閉じようと手が伸びた。


「止めなさい。騒乱の上の遺体だと救急に連絡するんだ。手を出さないで。」


「はい、すいません。うわ、この遺体は俺を睨んでいます。」


「え?」


 慌てた楊が死人だった女性の様子を調べると、脈がまだあることがわかった。

 彼は軽く目を瞑り、最後の一人の名前を読み上げた。

 名前を読み上げれば助かるのならばするべきだと。

 しかし塾長だった男はがくりと事切れ、自分の姿を取り戻しただけだった。


 すると、濱口がムクリと上体を起き上がらせた。


「はははは!騙された!はははははは!」


 ごん。


 彼女は頭を床に打ち付けるようにして再び仰臥し、今度は本当に死んだ。

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