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イケニエにしてごめんね?

「ふふ。歳をとると、孫子の結婚式には心が華やぐものよ。」


 咲子がコロコロ笑いながら料理にナイフを入れ、俺達刑事連中は煙に巻かれた事を理解しながら食事に一斉に戻った。

 刑事連中、俺も含めてだが、今後一生食べられるかわからないという、豪勢な食事であるのだ。

 一口ごと食事を口に運ぶ度に不安も何も消えていく事を感じて、俺は素直に食事に戻って良かったとその選択をした自分を称賛した。


 喜ばしい事に、俺の左手が殆んど使えないことを考慮してか俺のカトラリーはスプーンとフォークだけであり、ステーキも熱々なのに綺麗にカットされている心遣いだ。

 俺は色とりどりのケーキのような塊を感動しながら口に入れた。


「テリーヌって奇麗なだけでなく、とてもおいしいのですね。」


「あなたは本当に可愛いわよね。それなのにご免なさいね、あなたを最後に残す仲間に加えてしまって。なんだか、あなたは孫の一人のようで。だからこそ、何かあったら一番先に逃がすべきなのでしょうけど。」


「光栄ですよ。」


 見返した咲子は俺に、多分俺が実母に望んでいただろう、一度は与えて欲しいと願っていた「母の顔」という顔をむけて微笑んでいた。

 俺は情けない事に彼女の表情に胸が熱くなり、涙まで零れそうで、再び自分の皿に目を戻した。


 !!


 銀色のカナヘビが銀色の食器の辺りでちょろちょろと動いていた。


 カナヘビは俺の視線に気づいたか、ピタっと動きを止め、ゆっくりと俺を見上げた。

 金緑色に輝く瞳は宝石のように煌めき、銀色の体は優美でとても美しい。


「なんて綺麗なんだろう。」


 カナヘビは俺の言葉が通じたか、ニヤリと微笑み、虫の羽のように透明でコウモリのような形の翼をブワっと広げたのである。


 これはカナヘビなどではない。

 小さなドラゴンだ!


 そして、見えた。


 誰かが砂浜で眠っているが、それは身体中に焼き鏝をあてられた死体のような全裸の少女の姿だ。

 横になっている少女はそのまま成長していき、成長に従って彼女の火傷は徐々に癒えるが、傷跡は赤黒くと膨らんだケロイドとして身体中に残っている。


 場面が切り替わると、そこは真っ暗い闇夜の海であり、進む一隻の船影。

 少女はその船の甲板、そうだ俺達がヘリから降ろされたあの甲板を一人で歩いている。


「ごめんなさい。ごめんなさい。もう駄目なの。もう我慢できないの。ごめんなさい。」


 少女は海に飛び込んだ。

 少女は海に沈んでいきながら体を変形させ、海底に突き刺さった時には完全に少女の姿ではなく船であった。


 まさに、俺達が乗っているこの客船。


 俺がはっとしてカナヘビを見返すと、カナヘビは新たな映像を俺に送って来た。

 最初の海岸の砂浜の映像であるが、最初と同じではない。


 横になって眠る少女の体には、火傷どころか傷一つ、無い。


「生贄にしてごめんね?俺達は、そのための、生贄?」


「淳平、そこを動かないで!」


 杏子の声に呼応するように俺の後ろをフォーン色の影が走り、そのフォーン色の大きな生き物が誰かを押し倒した。

 白い仮面、否、玄人の手を握って見えた顔のない死人が俺の後ろにいたのか。


「ダイゴ!退けて!」


 俺の叫びにダイゴが姿を消すと同時に、俺は椅子のスイッチを押した。

 急激にバックをした椅子は、俺の後ろに転ばされて立ち上がろうとする男を壁に打ちつけた。


 バックしたのは椅子だけだ。

 立ち上がっている俺は、テーブル上のナイフを右手でつかむと、間髪入れずに車椅子に向かって飛んだ。


 壁に打ち付けられた白塗りの男は、俺の体重を受けた車椅子に再び潰され、俺はその飛び込んだ勢いを殺さないまま、動き出そうと壁に手を当てた男の右手に右手に持つナイフを打ちつけた。


 ナイフは男の右手の甲から平まで突き抜けて、男の右手は壁に磔の状態だ。

 さあ、これからどう料理をしてやるべきか。

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