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虫が駄目なだけなのです

 あの子は雨の降る薄暗い中のひっそりとした葬式で見送られた。

 親族も殆んど呼ばず、そうだ、僕が葬式に立ち会えたのは、その子を次の当主に指名しろと祖母に病院へ連れて行かれたからだ。


 その時の僕には意味がわからなかったが、今ならばわかる。

 武本家の五十年の呪いをかけろと言う事なのだ。


 五十年しか生きられないが、寿命の無い人間には五十年生きられる。


 しかし僕は間に合わなかった。


 違う、生まれてすぐにその子に宣言する前に、僕はその子の姿に息を飲み怯んでしまったのだ。

 この子が生き続ける事は無理だ、と。

 その僕が躊躇した一瞬の間の間に、その子供は息を引き取ったのである。


 僕はどうしたら良いのだろうとぼんやりと彼らを見つめた。

 すると、暗い気持ちであるにもかかわらず彼らの後ろに後光がさし、なんと孝彦の工房の風景が彼等に多い被さるようにして急に広がったのだ。


 孝彦は小型の椅子に蒔絵を施していき、それは神様に奉納される事を待ち焦がれるかのように煌びやかに輝く。

 孝彦の作業を側で見守るのは、お腹の大きな奈央子の姿だ。

 場面は変わり、緑あふれる森の中にぽつんと立つ社。

 すると社の壁と言わず何もかもが一気に外にばらけ、そして、新たな建材によって内側に向かって集められ、一つの建物と形作っていった。


 これは解体されて再建される事を望む、古ぼけた建造物に住む者の夢か。

 映像が意味する事を知った僕は少々ウンザリとしてしまい、そんな僕に甲高い子供の声がかけられた。


「ねぇ、外来種を入れる手助けをしないようにお父さん達に伝えて。気に入ったからって虫のついた木材を輸入しちゃ駄目でしょうって。」


 奈央子に良く似た幼子がいつの間にか僕の足元にいて、その子は大事そうに丸太を抱えて僕を見上げていたのだ。

 子供が抱えるキノコを生やした丸太はところどころが蠢くという、なんとも不思議な木切れである。

 僕がその子供の存在に驚き目を丸くしていると、その子は僕に丸太を捧げる様にして差し出した。

 幼子の指先は孝彦のミニチュアで、指は細いのに先が平べったい。


「可愛いよね。虫が農業をするって凄いと思わない?」

「え?」


 指にばかり注目していた僕の視線が子供の指の先、丸太そのものに落ちると、うわ、キノコの根元や木の中で虫がウネってもぞもぞとしているじゃないか!

 出ては入り、もぞもぞ、もぞもぞ、だ。


 それが、可愛いだと?


「ほら、もっとよく見てあげて。奥の方に赤ちゃんが見えるよ!」


「やめて!」


「どうしたの?クロちゃん?私の子供は今回も駄目なのね。」


 わぁっと奈央子が泣き出し、孝彦は彼女をぎゅっと抱きしめて宥め始めた。


「クロちゃん、やっぱり生まない方が良かったんだね。」


 孝彦の目から涙までも零れている。

 この流れに僕はもうアウアウと喘ぐしかない。


「玄人が言うなら仕方がないわね、私は会場に戻るから。」


 愁嘆場が嫌いな鬼婆がさっさと会場に逃げ出してしまった後、取り残された僕は自分の馬鹿さ加減に呆然としながら悩んでいた。


 どうしよう、と。


「クロちゃん。君も会場に戻って。せっかくの日を台無しにして御免ね。僕と奈央子はちょっとね、ごめん。」


「あの、ぼ、僕、虫が駄目なだけなんです。」


「どうしたの?知っているよ。」


 奈央子と一緒にベッドに座った孝彦は彼女を膝で泣かせながら、辛そうな顔ながら僕の言葉に答えてくれた。

 本当の父親は僕を無視し切ったが、彼は僕を本当の子供のようにいつでも扱ってくれたのだ。

 彼らの子供であるなら僕の弟?あるいは妹だろう。


「奈央子叔母さんに良く似た子が僕に虫でぎっしりの木切れを持って来て、うえって。それで、やめてって。孝彦叔父さん。その子が言う通りに輸入の木材には気を付けてくださいね。シロアリもウジも、いいえ虫は全部、一切合財、とにかく僕は嫌です。」


 うわああ!

 違う意味でなんて言っていいのかわかんなくなった!

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