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死者は黄泉比良坂を超えてやってくる(馬15)  作者: 蔵前
十四 良純 新顔と白面顔の化け物に悩む
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日常に帰りたい

 弟達にぼそぼそ妬まれの囁きを受けている事に苛立ったからか、麻友がいい加減にしろと言う風に大声を上げた。


「手が出せないだけでしょうよ。諏訪様は大きいじゃない。それに甲賀三郎は辰の化身でしょう。男の大蛇。蛇同士で仲は良いんじゃないの?それよりも、どうするの?死人。僕はあと二時間しかここにいられないのだからね、さっさと動こうって。で、計画は?」


 やはり一般人ではなかった麻友が言い放つと、アミーゴ達は仲よく大きく息を吐いた。


「この広大な船の内部を練り歩いて二十六人の死人退治って、計画いらないでしょうよ。とっとと行こうよ。俺は早くパーティに戻りたい。」


「俺もらて。若社長が不在のパーティが成り立っちゃったら、俺は居場所が無いねっかさ。弟妹に身代を奪われちゃうよ。俺は金回りのいいバカ社長の立場が割合と好きよ。」


「え、クミに弟妹いたっけ?」


 久美は酷く俺に驚いた顔を向けた。


「いや。大司さんの子供は君だけだろう。俺は玄人に君しか紹介されていないよ。」


 ぽんと常識人の麻友に肩を叩かれた。

 彼は真面目な顔をして首を振っている。

 俺は立ち入ってはいけない質問をしてしまったのかと了解し、さっさと死人退治の旅に出るかと腰を上げると久美が楽しそうに笑い出した。


「ごめん、忘れてた。今度紹介してあげるよ、俺の十以上離れたチビ弟妹達を。記憶喪失だった玄人が混乱しないように隠していてね。俺の下には二人いるの。高校生の伊予いよに小学生の矢那やな。妹の矢那なんてさ、齢八歳にして女王様られ。白波の顔だというだけで競市のマグロのように金持ち連中が押し寄せてね、見境なくちやほやされるもんだからさ、物凄ーく性格が悪いの。可愛くなくて最悪られ。」


「大司さんさ、離婚と再婚を繰り返しているの。それでクミちゃんの弟は三番目の奥さんの子供で、妹が六番目の奥さん、なんだけどさ、六番目の奥さんがクミちゃんの高校時代の同級生だから笑えるよね。これも、ある意味大司さんのプレイなのかね。息子は輪をかけて阿呆なプレイをしているしね。」


 由貴の揶揄いの声に、俺は彼との機内での話を思い出した。


「悲しい話だよな。自分の子供に父親って語れないのは。」


 久美は水も飲んでいないのに、大きくむせて咳き込んだ。


「はは、百目鬼さんはわかっちゃった?」


「わかるも何も、周吉の孫世代で女が生まれないからって、お前らが女の子呼びをされているんだと、何度も周吉さんにもお前らにも聞いていればね。それじゃあ、クミの妹はひ孫かなって、普通は考えるだろ。」


「普通はそこまで考えないれ。百目鬼さんのエッチ。」


「安心しろ。弟はお前の子じゃねえってわかっているって。」


「ハハ、弟の事は俺も三年くらい前に知ったばっからて。あ~あ。俺の親父はそんなもんだ。ろくでもねえんだれ。」


「息子の恋人を女房にしてしまうし?」


 久美はハッと軽く笑い声を立てると、俺にいつもの口調で冗談めかして話し始めた、


「玄人が死んだって知らせで日本に帰って来たらさ、慰めたいって高校の同級生が押しかけて来たんられ。俺のことをずーと好きだったって。そんで俺としても初めてのイケナイ夜を過ごしたっていうのにさ、朝起きたらいないし、その後も何の音沙汰も無くなってね。仕方なくアメリカに戻った半年後にさ、親父とツーショットの絵ハガキで「結婚しました。子供も生まれます。」られ。受け取った俺の慟哭を想像できる?」


「よかったじゃないの。お前は結婚する気なんか一ミリも無かったんだしさ。それに、彼女と大司さんは仲も良いし、今んとこオシドリ夫婦じゃない。」


「もうどうでもいいって。さっさとしゃつけに(殴りに)行こうや。」


「おい、お前ら。館内放送で俺の経を流すのはどうだ。何時もの死人ならばそれで全滅だぞ。一瞬で終わらせてパーティで飲んで騒ぐか!」


「まじで!」

「さすがオコジョが選ぶだけあるて!それで行くか!」


 グッと俺の肩が捕まれて、振り向いたら麻友であった。


「それは最後で。僕達は当初の目的どおり雑魚を一つずつ潰していきます。」

「可能で楽な方法が一番ではないのか?」

「三郎さんが止めろって後ろで言いますからね。」


 厳つい顔に人当たりがいい表情を浮かべた常識人が、やはり非常識人でしかなかったと認めるにあたり、俺は本気で白波家とのお付き合いを考えたくなった。

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