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死者は黄泉比良坂を超えてやってくる(馬15)  作者: 蔵前
十四 良純 新顔と白面顔の化け物に悩む
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白波さん家の孫たちの事情

 初めて紹介された白波周吉の初孫でキャリアが、常識人に見える男が、諏訪系の人間で、白波神社に植えられている神木の枝から作られたペーパーナイフで死人を無効化出来ると説明されて、信じる信じない以前に俺には笑うしかない。


「神木?」


「白波神社の神様のための桃園がありましてね、そこのただの桃の木です。鬼には桃と言うでしょう。桃を植えるのは魔除けと結界の意味もあるのですかね。僕はその桃園の植栽で落とした枝一本貰う為だけに、何万も白波神社に奉納させられるのですよ。白波の氏子でもないのに。」


「あー、春日さんが言っていた枝を買わせられる孫って、あなたの事でしたか。」


 春日とは、日夜日本の森林の健康を保つために動き回っている財団の偉い人で、近所の庭師をしているオジサン風に玄人から俺が紹介を受けた人でもある。

 気のいい人だが、肩書が全然気軽な人じゃなかったという御仁だ。


「そうなんですよ。あそこの桃の木でないと鬼には効かないって知った上でのそれですからね。孫なのに、酷いですよね。」


 麻友まさともの語る言葉が一般人でなかったと、畜生と思い出しながら、目の前の陰のある美男子に目線をやった。

 すると、俺は一般人な自分を手放したくないと思う自分がいるためか、今は関係のない質問が無意識に口から出てしまった。


「あなたはどうして諏訪系なのですか。白波ではないのですか?」


 俺はとうとう麻友に尋ねてしまっていた。

 いいだろう、俺は一般人だ。

 そんな俺に麻友は忌むこともなく、良い笑顔を向けてくれた。


「僕はお宮参りが諏訪神社だったからですよ。それで白波様の加護から外れてしまいました。」


 意味がわからないが、せっかく答えてくれた麻友のために俺は当たり障りのない返しをした。

 この俺が当たり障りのない行動だと、涙が出るね。


「お父上のご実家が諏訪神社の氏子だったのですか?」


 麻友が答える前に、白波の蛇がにゅうっと口を出した。


「違うれ。まゆゆの母ちゃんが白波を裏切ったんだれ。」

「俺の母ちゃん、白波の神様が嫌いだから計画的よって。」


 俺は一瞬思考が停止して、普段使わない喋り方になっていた。


「佐藤家の君達の母親は、白波周吉さんの長女の寧々さんだったのではないでしょうか。」


 常識的な俺が混乱するのも無理ないだろう。

 頭の中には、髪の結い方と着物姿で極道の姐さんにしか見えないが「新潟県警本部長の妻です」と俺に自己紹介した女性の姿が浮かんでいるのだ。

 彼女は何処から見ても、思いっきり極道系の白波の女だったはずだ。

 沙々と咲子によく似ているどころか、奴らのクローンみたいだったぞ。


「そう。僕のママったら、白波の神様に大事な息子は渡せんって、佐藤家が止めるのも聞かずに諏訪神社に突撃して祝詞を上げさせちゃったの。それで、俺がその報復の子供。」


「報復?」


 俺は由貴の不穏当な台詞に振り返った。

 彼は嬉しそうにニヤっと顔を歪ませた。

 すると、彼と双子のような久美が由貴の肩を抱いて、同じ様な表情を浮かべて俺の疑問を解消してくれた。


「俺の親父もいい手だと言っていたそうでね。そうしたら俺とユキちゃんが同時に授かって、その上同じ日に異常分娩でママ達が病院送りで帝王切開なんだれ。産後の肥立ちも悪くてさ、僕ちゃん達が白波本家に引き取られてもママ達は入院中。そこでじいちゃんが俺達を白波の孫だと祝詞を上げて丸く治めましたとさ。親父はそれで俺の母ちゃんと離婚。」


「なんてろくでもない神様なんだ。」


 俺はアミーゴズがろくでなしな理由がわかった気がして彼らを見返すと、肩を組んだまま立ち上がって部屋の隅に行き、彼等は仲良く麻友を見つめながらグチグチと愚痴り始めた。


「でもまゆゆはウチの神様に気に入られているよね。」

「そうそう。まゆゆは神様に悪さされないもの。羨ましいれ。」


 彼らは最近あの神様に玄人の神棚を壊した犯人の濡れ衣を着せられ、玄人のオコジョ達に神棚を壊した報復に呪われてしまったのだ。

 玄人のオコジョの報復は、ファンシーなオコジョマークが全身に浮かび上がるというものだ。

 あれは俺でも怖気の来るものである。

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