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死者は黄泉比良坂を超えてやってくる(馬15)  作者: 蔵前
十四 良純 新顔と白面顔の化け物に悩む
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白波周吉の初孫で外孫

 パーティは当たり前のように開催されたが、会場に潜んでいるらしき新種の死人退冶を俺と白波アミーゴズ、プラス一人に一任されてしまった。


「警察沙汰にするわけにはいけませんからね。すいません、一族の面倒に巻き込んでしまいまして。」


 佐藤由貴の兄であり、新潟県警の若きキャリアの佐藤さとう麻友まさともは白波でも武本でもないまともな男であった。


 俺と同じぐらいの長身にしっかりとした体つきをしており、俺よりもがっしりしているようだが太い印象はなくスラっとしている。

 顔もまた白波家のものではなく、以前挨拶した事のある新潟県警本部長の彼らの父、佐藤広勝を若くした、頬骨が高く二重がはっきりとした顔に厳つい雰囲気を持つ美男子だ。


 人当たりの良い表情を浮かべている彼に、俺は常識人に久しぶりに出会えた喜びが押し寄せてきたが、なぜか俺の頭の隅では「気をつけろ。」のアラームが激しくけたたましく鳴っていた。


「こちらこそ申し訳ありません。お仕事中だったそうですね。」


 麻友は一瞬疲れたような顔つきで自分の弟と従弟に目線を動かした後、「いつものことです。」と諦めを含んだ声音で俺に答えた。

 共感力のない俺が、彼に同調していく自分を感じられるほどである。

 それでも頭の中でアラートが鳴り響いて煩いが。


「しょうがないでしょ。オコジョがマッキーを呼ぶって言い張るからね。俺は沙々姉にもあのマッキーにも会いたくないの。」


 最近早坂の養子となった加瀬は、どうやらアミーゴズには嫌われているらしい。

 彼のいる場所には必ず、彼らの天敵の沙々がストーカーよろしく憑いて回るのだから当たり前か。


「そうられ。あの沙々姉に頭を下げるぐらいなら、俺は世界の敵にだってなるれ。」


 麻友はこれ見よがしな溜息をついて、アミーゴ達に与えられている四番甲板の客室のスツールに腰掛けた。

 俺達がヘリから降ろされた甲板が第一で、その下が吹き抜けの小劇場とパーティ会場となっている広間がある二番と三番甲板、そして、現在俺達がいる四番甲板は客室にスタッフ室などホテルとその裏側部分を併せ持った場所である。

 そこから下の五番甲板以降は機械室、貨物室に調理室、そして操舵室と船の基部活動を行う場所となっている。


 船主の海里は二番甲板の船首側に大きな部屋を構えているそうだ。

 俺達のいる六畳ほどのこの部屋は、船ということもあり狭いが、由貴専用の客室なのだそうだ。

 専用の客室を由貴が与えられているのは、この船に備品を運び入れる仕事を由貴が請け負っているからだという。

 簡易ベッドに少し大きめの書斎机があることから、純粋な寝室というよりは由貴の個人書斎風でもある。

 俺達はベッドと適当に持ち込んだ椅子にそれぞれが座って、この狭い部屋で戦闘計画を立てていたのである。


 飛行甲板で俺達を砲丸で殺しかけたが失敗して姿を現した三人の死人は、俺達によってひとまず括って無力化させた。

 しかし、玄人が彼には無効化出来ない死人だと訳の解らない戯言を言い出したので、久美の電話で麻友を呼び出す事となったのだ。

 呼び出された彼は三体の死人を目にすると軽い舌打ちをし、手に持つ木製のペーパーナイフを使って魚を裁くようにサクサクと死人を刺し貫き、それらを全部ただの死体に戻していった。

 そして、俺には解らない情報を死体に戻される化け物から受け取ったと、白波アミーゴと麻友は頭を抱え、今の状況の出来上がりである。


 自分は役立たずと言い張る玄人は、髙夫妻と淳平と一緒に会場だ。

 俺も役立たずだと会場に行きたかったが、アミーゴズは俺を離してくれず、そんな俺は哀れな仲間を増やそうと髙には軽く相談した。


 あいつが可哀想好きというろくでなしだと、俺はどうして忘れていたのだろう。


 彼は朗らかな笑顔を俺に向けながらも、殺気をも放って言い放ったのである。


「僕が玄人君や山口、そして梨々子さんは勿論、会場内を見張りますから。一人で大変ですけれどね。あーあ、一人で大変、お酒も飲めないのか。でも、頑張りますよ。僕には離れられない身重の妻がいますからね。ですからね、会場外の方は、百目鬼さんと白波兄弟でお願いしますよ。」


 思い出した薄情な髙に、俺は舌打ちをしてしまっていた。

 それにしても、死人やら死神やら、普通に受け入れている俺が信じられないよ。

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