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死者は黄泉比良坂を超えてやってくる(馬15)  作者: 蔵前
十三 局地的戦闘の勃発
31/65

討ったら逃げろ

 楊達は佐藤達の報告に従って、楊の黒いセダンを猛スピードで走らせていた。

 彼女達から高部香奈が既に白塗りになっている報告と、白塗りの男達三体と戦闘して二人捕獲したとの報告である。


「白塗りかなちゃんと白塗り君一人逃がしました。捕縛した奴等をトランクに入れて適当に流していますので、私達の近辺まで来て下さい。」


 髙が一体でも危険だったと語った白塗り死人を、彼女達は四体も相手にして二体を捕獲までしてしまうとは、と、楊は彼女達を警察に入れたことを後悔していた。

 縛りがない方がこの世の悪を全部屠ってくれたのではないのか、と。


「課長、どうして佐藤巡査達は動き回っているのですか。」


「そんなの、俺達を待っている間に襲撃を受けないためでしょう。彼女達が捕獲した二体があっても、まだ二体残っていたんだ。簡単に逃げなくてもいい所を逃げ出したのだから、まだ兵隊はいるって読んだんだよ。」


 楊が助手席で佐藤の報告を読みながら後部座席の五月女に説明をすると、ベテラン刑事だった彼は青い顔のまま口元を抑えて顔を伏せた。


「どうした?また気持ちが悪くなった?」


「いえ、どうして彼女達はそんなとっさの判断が出来るのですか?まるで歴戦の戦士みたいですよ。」


「えー。普通に歴戦の戦士だよ。高校時代に神奈川県内で乱暴な悪い子達にヘルコンビと呼ばれて恐れられていた人達。ガッツンガッツン手当たり次第に喧嘩して回っていたの。喧嘩じゃないか。一方的に潰して周って、かな。佐藤のパパがあの子達を止めてーって俺に泣きついて来てね、それで俺と髙が警察にスカウトしたのよ。」


「うっそ、マジで?あれ、さっちゃん達だったんだ。ちょーヤベ。」


 運転席から馬鹿な若者言葉の叫びが上がった。

 どうして葉山は東大出のインテリなのに驚くと馬鹿者になるのかと、楊は毎回不思議に思うのだ。

 楊の訝しむ目線に気づいたか、葉山はニヤリと楊に笑顔を返した。


「それで、課長、佐藤巡査達とどこで落ち合いますか?。」


「うん?佐藤のメールだとかなちゃんはパソコン教室でひと月前から大学の友人とアルバイトを始めていたらしいよ。それで、佐藤達が捕獲した白塗り君一人の財布に同じパソコン教室の会員証も入っていたからね、そこって。」


 楊は説明しながら車のカーナビに目的地の住所を打ち込んだ。


「かわさん。かわさんは髙さんが情報収集はいいけれど、白塗りには近付くなって釘を刺していたって言っていませんでしたか?」


「言っていたねぇ。でもあの子達は聞かないからねぇ。君は嫌なら降りていいよ、僕が運転するから。」


「降りるわけ無いでしょう。俺は思いっきり戦いたい人でしかないですから。」


 葉山は楽しそうにアクセルを踏み、法定速度ぎりぎりまで加速させた。

 楊はその様子に鼻で笑い、そしてルームミラーに映る青い顔をした五月女をミラー越しに見つめながら尋ねた。


「君はどうする?こんなのぜんぜん刑事としての成績にならないどころか、無駄な経験だよ。今なら車を降りられるよ。」


「降りたら自分はどうなります?」


「どうにもならない。君は本部の麻薬課に帰って、ウチの事を忘れて出世しよう。今ならウチにいたという黒歴史も消してあげるサービス付き。」


「黒歴史って酷いですよ、かわさん。」


 葉山がワハハと殆んどハイに近い笑い声を上げるのとは反対に、青い顔の青年は口元を片手で塞いで数秒悩み、そしてミラー越しに楊の目を見つめた。


「降りません。俺も暴れてみたいです。」

「ハハハ。いいねぇ。暴れよう!俺は空手だけど、君は武道は何を?」

「合気道です。葉山さんの手刀は有名ですよ。軽く払っただけで顔面骨折させられると聞いていますよ。」

「うそうそ。誰よ、そんな嘘を流しているの。」


 若者二人は楊を差し置いて会話に花を咲かし始めたので、武道全般白帯の年長で嫌味な上司は彼らに水を差す事にした。


「百目鬼からメールでね。初めて見た白塗りの死人はちびには対処不能だってさ。絶望的状況ですけど、いいの?殺されたら自分の姿を奪われるのよ。」


 真っ直ぐに前を見ている運転席の葉山は口角を嬉しそうに上げ、ルームミラーの中の五月女も期待に溢れ目を輝かせた。


「あぁ、髙がいなくて良かった。いたら部下を危険な目に合わせたって俺はあいつに殺されるよ。」


 無鉄砲な青年達は目を輝かせて、車内で高らかに笑い声を上げるだけだった。

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