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溜息ばかりの楊

 髙の止めろには懇願に近い声音が含まれており、楊はおや?と思ったからこそ、少々お道化た感じで髙に言葉を返した。


「パーティが中止になったら困るものね。」


 髙が大笑いする声が響き、それから真剣な声が返ってきた。


「玄人君はね、自分が黄泉平坂の人間だって言っているんですよ。死人の生命活動を止めるのは、黄泉平坂の死神にこれは死んでいる人間だと密告しているからだと。全部の死人をこの地上から消してしまったら、生きている人間が少ないと黄泉平坂の向こうにばれて、悪鬼の大群が押し寄せますってね。ですから密告者の僕はこの世で疎まれ何度も殺されかけるのですってね。可哀相だよ。」


 楊は大きく舌打をした。

 武本の五十年の呪いを武本家の希望である和久に負わせないために、玄人が生み出されたのだという事実を楊は知っているからだ。

 玄人は生贄として生み出され、そして、寿命が無い自分が五十年は生きられるから幸せだと受け入れているという哀れな現状に、楊はどうしても憤慨する自分を宥められないのである。


「本当にふざけたルールだな。神様が決めたにしては人間的な考え過ぎるだろ。」


 含み笑いが受話器から漏れてきた。


「あなたは本当に面白い。そうですね、概念を変えた見方をして見るのも面白いかもしれませんね。いつから死人事件が表に出始めたのか、などね。……そうですよ。僕達の死人事件ファイルは上に極秘で提出して手持ちは破棄です。上には全ての報告があがっているのに、下の人間、それも対処する現場の人間の知識は現場で得た自分の知識だけです。あるいは相棒からってね。そうですよ、本来はもっと上から対処法など指示があってしかるべきです。えぇ、面白いです。今更気づきましたよ、面白いじゃないですか。」


「面白いところでさ、髙は……長谷警視監って知っている?あの、県警じゃなくてさ、警視庁の人なんだけど。」


 口にしてから何を自分は言い出しているのかと楊は自分を叱責し、こんな馬鹿な質問をしてしまったのは髙の殺気を電話を通していても感じてしまったからかもしれないと、楊は自分を慰めた。

 楊が質問をした途端に、電話の向こうの髙の殺気が消えたのだから尚更だ。


「……かわさんのひいおじいちゃんでしょ。凄く有名な人でって、自慢?それとも彼が事件に関係していたの?そりゃあ伝説的な人だから今でも関係する事件の一つ二つありそうだけど。」


「いや、なんでもない。……いや、あのさ。俺はさ、奴に騙されていたって二日前に知ったばかりでね。やるせないっていうか。それで口にしちゃっただけだから。」


「騙されていたって、どうしたの。」


「あいつは俺だけに自分は祖母の愛人で手品師のジェット・アチェーツだと通してやがったのよ。ジェットが俺のひいじいちゃんの長谷だったのかよ!って、二日前に知って家族に馬鹿にされまくっただけの話だからさ、忘れて。」


 電話の向こうでブフっと噴出してからの大笑いの音が聞こえ、楊は少々乱暴に通話を切った。


「全く。相棒のくせに慰めもないのかねぇ。仕事も最悪だし、辞めたいねぇ。」


 楊は大きく深呼吸すると髙の指示通り佐藤達を引き返させて、代わりに妹の身辺捜査を伝え、もしも妹に接触できる状態で彼女が白塗りでなければ保護するように伝えた。


「あぁ、普通の刑事に戻りたいなぁ。」

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